出水探偵事務所の受難

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第二章・異国騒音

9話 カストロと雷獣

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出水がアルテミスを使用した何分か前、カストロはイルデーニャ島の下水道内で、一番広い空間にいた。
「久しぶりだなカストロ」
 柱の影から現れた雷獣は、どこまでも冷たい表情であった。
「冷や汗が止まらないようだけど?」
 カストロは、頬を伝う汗を拭い、雷獣を睨みつけて立ち上がった。
「会話など、どうでもいい。『お前を殺す』。それだけだ」
 この戦いのポイントは、雷獣はカストロの能力を知らないという点である。能力者同士の戦闘において、『相手の能力がわからない』のは最高クラスのディスアドバンテージである。
 だが、雷獣は組織からの情報で、カストロが持つ能力は遠距離向きであるということだけは知っていた。それだけに雷獣は解せなかった。遠距離型なら、何故このような場所に私を『誘い出したのか』。
「どうした?来ないのか?」
 雷獣が走り出す時には、カストロは能力を発動していた。
「食らえ!この『音』を‼︎」
 瞬間、2人がいる空間は、轟音に包まれた。
「じぃぃぁあぃいぃッ‼︎」
 雷獣は自分の声でこの轟音を掻き消そうと叫んだが、無駄であった。
「ジィィィイィィィイイイ‼︎」
 耳を塞いでもなだれ込んでくる轟音に、雷獣はいつしか座り込んでいた。
「もっとその悲鳴を聞かせてくれ雷獣。もっと、もっと、お前の悲鳴が必要だ」
 カストロはそう言うと、腰についた入れ物からライフルを出し、ゴム弾を雷獣に打ち込んだ。
「ジィイヤァァアア‼︎殺す‼︎かぁくぅじぃつぅにィ‼︎オォオ前をォォ‼︎」
 冷静だった雷獣の脳内はどす黒く染めあがり、雷獣は遂に正気を失った。
「そら、もう一発‼︎」
 カストロがもう一発銃を打ち込んだその時、カストロの能力は自動的に解除された。空間は残響を残し、静寂状態に戻った。

 カストロの能力の名は『静寂の臨界点』という。音を吸収し、その吸収した分の音を吐き出す、という能力である。弱点は、発動した後の30分間は音を吸収することをやめられない事であり、その間は無防備になるので、敵は攻撃し放題になってしまう。だが、吸い込む音の量には上限はないので、その気になれば一生周りの音を吸収して、人生の終わりに、地球に直接的な害を出すほどの音を吐き出すこともできる。
「シィィ…お前…殺す…」
「こっちの台詞だ」
 雷獣はカストロに対する憎悪と、殺意を込めて足に力を入れて立ち上がった。そして、いつもの様に足を踏み出した時、普段の最高速を出せないことに気がついた。
「行くぞォォ!」
 カストロも雷獣と同じように足に力を込め、2人は同時にお互いに向かって走り出した。
「ウォォ‼︎」
「シイィヤァァア‼︎」
 2人はお互いに拳を突き合わせると、すぐさま次の手を出した。そしてまた次の手、そしてまた次… 
 先程轟音が響いていた空間内は、打って変わって、拳を打ち合う音だけが響いていた。だが、カストロの体はゴム製スーツで覆われているため、雷獣の攻撃は効き『にくかった』。
「準備をした奴が勝つ」
 徐にカストロは口を開いた。
「当たり前のことかもしれないが、お前は俺に備えて、ようやくここに立ててる。お前に殺されていった仲間たちの想い…今ここで晴らさせてもらう」
 カストロがそう言った瞬間、雷獣はカストロの腹を思い切り蹴飛ばした。
「ガッ…」
 思わず腹を押さえ、カストロはその痛みに驚いた。
「ゴム製スーツか…その対策をしてきた奴は…お前で『11人目』だわ」
 雷獣がカストロを嘲る、
「準備をした奴が勝つ、か。当たり前のことだが、確かにいい言葉だな。だが私には無意味‼︎流石にゴムスーツ越しじゃ威力は微々たるものになるがな…ウラァ‼︎」
 鳩尾あたりに拳を入れられたカストロは更に呻き声をあげ、雷獣から距離を取った。
「私の三半規管が治るまで後、おっとっと、2分はかかるな」
 よろめきながらも雷獣は、カストロに向かって一歩、また一歩と近づく。
「カストロ、2分1秒後にお前は倒れる、と、予告しよう」
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