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第二章・異国騒音
6話 ブチギレビリビリ、こちらではマイペース
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「シィイイイイィィイ…殺さなければならない敵がもう1人増えた。だからまだ帰れそうにない」
雷獣は先程、もう要らないと捨てた肉体にまた乗り移り、スマホを片手にどこかに電話を掛けていた。
「は?何を言っているんですか貴方は。明日中には船に乗って帰ると豪語していたのは貴方でしょう?私はそのつもりで予定を建てていたんですから、明日、すぐに帰ってきてください」
「ダメだ。この因縁に決着をつけるまで、私はお前らには協力できない」
「…それでは血が受け取れなくなりますよ?」
「受け取れなくなっても良い」
電話の向こうの相手は『雷獣』のこの言葉を聞いて10秒程沈黙すると、再び喋り始めた。
「はぁ…貴方の覚悟は伝わりました。5日間の滞在を許しましょう。それ以上は私の手には負えませんし、あのお方の都合を考えてもそれが限度です」
「ありがとう。感謝するわ」
「感謝など必要ありません。…というか逃げられたのですか?その『もう1人』に?」
不意に痛いところをついてきた電話の相手に対し、雷獣は血が沸騰するほどの怒りを感じたが、文句など言える立場でもないので、怒りに沸る血を抑え、雷獣は沈黙した。
「…図星ですか。…それでは貴方の元にもう1人、能力者を派遣することにしましょう」
「は?お前こそ何言ってんだ‼︎」
雷獣は今度こそキレた。
「私は一人でしか仕事をしない。それこそが決定事項だ!一人よこしてみろ。私の雷がお前の頭を貫くぞ‼︎」
この世界でも最高クラスの能力を持っていることを自覚しているからこそ成せる、取引相手に対する雷獣の恫喝に、電話の向こうの相手はいたって冷静な声でこう言った。
「貴方は敵を取り逃した。これこそが現実です。その結果をまた繰り返されて困るのは私たちなのですよ?」
そして電話相手は、またため息を吐き出すと、もう一言付け足した。
「そして一つ忠告ですが、貴方が私を殺すと、別の誰かが貴方を殺します。それをお忘れなく」
そう言うと電話相手は、雷獣の返事さえ聞かずに電話を切った。
翌日、雷獣は、電話相手が寄越した協力者を迎えるために港にいた。奴に言わせると、協力者の能力と自分の能力はとても相性が良いらしい。
「シィイィ…来たか」
一つのクルーザーが港に停泊し、その中から、半袖と黒の長ズボンを履いた、女の自分と大して変わらない背丈の男が出てきた。
「オイ!そこの男!お前だよお前」
「俺に声をかける貴方、雷獣さんであってます?」
「そうだ。私が雷獣だ」
雷獣のその返答を聞くと、男は安心した様に自己紹介を始める。
「そうですか。俺の名前は、マックス・ペンハイムです。以後よろしくお願いしますね」
ペンハイムは握手をしようと右腕を差し出した。が、雷獣はそっぽを向いてこれを無視し、さっさと歩き出してしまった。
「『よろしくお願いする』のはお前が使えるかどうか、私が判断した後よ。着いこい」
一方、その頃、BBの地下では出水が大きな溜息をついていた。そのあまりの大きさに、武器を整備していたカストロは思わず手を止め、出水の方に視線を送った。
「なんだ?この部屋が不服か?女っぽいものが欲しいなら上に出てってぬいぐるみでも買って来るか?」
「私はこう見えても硬派な探偵だぞ。って違うわ。私が心配なのはホテルに置いてきた金よ」
「なんだ金か」
その瞬間、出水は声を張り上げた。
「何だとは何よ!私が汗水垂らして稼いだ金があそこに入ってるのよ⁈はーっ!こんな我が子を誘拐されて、あたふたしまくる母親みたいな気分を味わうくらいだったら、日本でずっと仕事してる方がマシだったわ!どれだけ楽しみにしてたかわかる?この旅行を‼︎」
そう言うと同時に、出水は側のダンボールを勢いよく叩いてこう叫んだ。
「クソがーッ‼︎」
「え、えーと、落ち着いたか?」
そのカストロの声に我に帰り、出水は一瞬で元の鉄仮面の様な顔に戻った。
「…大丈夫。元から落ち着いてるわ。それで、今日の夜、決行するのね?」
「あぁ、元よりその気だ。お前の実力、そして能力『One more time』のお陰で、計画は『無謀』から『磐石』になったんでな」
自信たっぷりのカストロを見て、出水はまたもやため息を吐き出した。
「あのねぇ…私はアンタが死んだら困るのよ。あんた以外に協力してくれる能力者なんて探す暇なんてないから、今はアンタだけが私の『イルデーニャ脱出計画』の要なワケ。そんでもって今はその準備期間なワケでしょ?そういう時、どういう気分でいるのが大事かわかる?」
「さぁ?リラックスしてりゃいいんじゃない」
その暢気なカストロの声に出水はイライラがまたもや爆発しそうになったが、ここは抑えて話を続けた。
「そりゃ凡人以下の答えだ。最適解は不安:リラックス=1:1が理想なんだよ。お前は100%リラックスしてやがんのがダメなんだ」
「いやねぇ…出水。俺を誰だと思ってる?俺がチーム『エリス』に入ったのは16の時なんだぜ?それから17年以上、『命のやり取り』をする前のこの『準備期間』を、俺が何回過ごしてきたと思ってんだ?慣れちまった時間はリラ~ックスして過ごす事こそが俺の流儀なんだよ…そうだ、そこら辺に俺がサウジの王族からもらったすごいライフルがあるから、それでも見てろ」
そう言ったカストロは向こうを向いて、武器の整備を再開してしまった。
「はぁ…」
そして出水はまた一つ、溜息を吐いた。ここから出ていってすぐにでも港に行きたい。だが、そんな事をすれば神速で近づいてくる雷獣に殺される可能性がある。ここはなんとしても、雷獣を打倒しなければ…!
雷獣は先程、もう要らないと捨てた肉体にまた乗り移り、スマホを片手にどこかに電話を掛けていた。
「は?何を言っているんですか貴方は。明日中には船に乗って帰ると豪語していたのは貴方でしょう?私はそのつもりで予定を建てていたんですから、明日、すぐに帰ってきてください」
「ダメだ。この因縁に決着をつけるまで、私はお前らには協力できない」
「…それでは血が受け取れなくなりますよ?」
「受け取れなくなっても良い」
電話の向こうの相手は『雷獣』のこの言葉を聞いて10秒程沈黙すると、再び喋り始めた。
「はぁ…貴方の覚悟は伝わりました。5日間の滞在を許しましょう。それ以上は私の手には負えませんし、あのお方の都合を考えてもそれが限度です」
「ありがとう。感謝するわ」
「感謝など必要ありません。…というか逃げられたのですか?その『もう1人』に?」
不意に痛いところをついてきた電話の相手に対し、雷獣は血が沸騰するほどの怒りを感じたが、文句など言える立場でもないので、怒りに沸る血を抑え、雷獣は沈黙した。
「…図星ですか。…それでは貴方の元にもう1人、能力者を派遣することにしましょう」
「は?お前こそ何言ってんだ‼︎」
雷獣は今度こそキレた。
「私は一人でしか仕事をしない。それこそが決定事項だ!一人よこしてみろ。私の雷がお前の頭を貫くぞ‼︎」
この世界でも最高クラスの能力を持っていることを自覚しているからこそ成せる、取引相手に対する雷獣の恫喝に、電話の向こうの相手はいたって冷静な声でこう言った。
「貴方は敵を取り逃した。これこそが現実です。その結果をまた繰り返されて困るのは私たちなのですよ?」
そして電話相手は、またため息を吐き出すと、もう一言付け足した。
「そして一つ忠告ですが、貴方が私を殺すと、別の誰かが貴方を殺します。それをお忘れなく」
そう言うと電話相手は、雷獣の返事さえ聞かずに電話を切った。
翌日、雷獣は、電話相手が寄越した協力者を迎えるために港にいた。奴に言わせると、協力者の能力と自分の能力はとても相性が良いらしい。
「シィイィ…来たか」
一つのクルーザーが港に停泊し、その中から、半袖と黒の長ズボンを履いた、女の自分と大して変わらない背丈の男が出てきた。
「オイ!そこの男!お前だよお前」
「俺に声をかける貴方、雷獣さんであってます?」
「そうだ。私が雷獣だ」
雷獣のその返答を聞くと、男は安心した様に自己紹介を始める。
「そうですか。俺の名前は、マックス・ペンハイムです。以後よろしくお願いしますね」
ペンハイムは握手をしようと右腕を差し出した。が、雷獣はそっぽを向いてこれを無視し、さっさと歩き出してしまった。
「『よろしくお願いする』のはお前が使えるかどうか、私が判断した後よ。着いこい」
一方、その頃、BBの地下では出水が大きな溜息をついていた。そのあまりの大きさに、武器を整備していたカストロは思わず手を止め、出水の方に視線を送った。
「なんだ?この部屋が不服か?女っぽいものが欲しいなら上に出てってぬいぐるみでも買って来るか?」
「私はこう見えても硬派な探偵だぞ。って違うわ。私が心配なのはホテルに置いてきた金よ」
「なんだ金か」
その瞬間、出水は声を張り上げた。
「何だとは何よ!私が汗水垂らして稼いだ金があそこに入ってるのよ⁈はーっ!こんな我が子を誘拐されて、あたふたしまくる母親みたいな気分を味わうくらいだったら、日本でずっと仕事してる方がマシだったわ!どれだけ楽しみにしてたかわかる?この旅行を‼︎」
そう言うと同時に、出水は側のダンボールを勢いよく叩いてこう叫んだ。
「クソがーッ‼︎」
「え、えーと、落ち着いたか?」
そのカストロの声に我に帰り、出水は一瞬で元の鉄仮面の様な顔に戻った。
「…大丈夫。元から落ち着いてるわ。それで、今日の夜、決行するのね?」
「あぁ、元よりその気だ。お前の実力、そして能力『One more time』のお陰で、計画は『無謀』から『磐石』になったんでな」
自信たっぷりのカストロを見て、出水はまたもやため息を吐き出した。
「あのねぇ…私はアンタが死んだら困るのよ。あんた以外に協力してくれる能力者なんて探す暇なんてないから、今はアンタだけが私の『イルデーニャ脱出計画』の要なワケ。そんでもって今はその準備期間なワケでしょ?そういう時、どういう気分でいるのが大事かわかる?」
「さぁ?リラックスしてりゃいいんじゃない」
その暢気なカストロの声に出水はイライラがまたもや爆発しそうになったが、ここは抑えて話を続けた。
「そりゃ凡人以下の答えだ。最適解は不安:リラックス=1:1が理想なんだよ。お前は100%リラックスしてやがんのがダメなんだ」
「いやねぇ…出水。俺を誰だと思ってる?俺がチーム『エリス』に入ったのは16の時なんだぜ?それから17年以上、『命のやり取り』をする前のこの『準備期間』を、俺が何回過ごしてきたと思ってんだ?慣れちまった時間はリラ~ックスして過ごす事こそが俺の流儀なんだよ…そうだ、そこら辺に俺がサウジの王族からもらったすごいライフルがあるから、それでも見てろ」
そう言ったカストロは向こうを向いて、武器の整備を再開してしまった。
「はぁ…」
そして出水はまた一つ、溜息を吐いた。ここから出ていってすぐにでも港に行きたい。だが、そんな事をすれば神速で近づいてくる雷獣に殺される可能性がある。ここはなんとしても、雷獣を打倒しなければ…!
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