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第二章・異国騒音
1話 その旅行者、出水露沙
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年間何百万人もの観光客が訪れる超人気スポット、イルデーニャ島。そこには『南国』と言われた際、真っ先にイメージできる物全てが揃っている。透き通る穏やかなビーチ、天を突く巨大なココナッツ、そして蒸し暑く深いジャングル。その全てを味わおうと世界中から多くの観光客が年中押し寄せる人呼んで常夏の楽園、それがイルデーニャ島である。
「チッ…固有種かと思えば、日本にもワサワサいるやつか」
出水はそう独り言を呟くと、数m先にいる蝶からカメラの照準を外した。
「それにしても、暑いな」
南国リゾートの中でも最高クラスと名高いイルデーニャ島に行くとなったら、夏に行くに決まっている。そう考えて来てみたは良いものの、実際は暑すぎてストレスが溜まりすぎる。
出水はため息をつくと、手に持ったカメラを鞄にしまい込んだ。
「それ、本当か?」
ホテルの中でくつろいでいるところに突然かかって来た琵琶持からの電話に出水は困惑した。
「はい。『雷獣』という能力犯罪者の討伐案件の依頼が来ました」
討伐案件とは、余りにも手に負えない能力犯罪者を殺害せよと超常的存在から下される案件で、参加不参加は自由であるのが特徴である。
「断ってくれ。私は今休暇中の身だし…そうだな、休暇が終わった頃にまだ討伐が終わってなければ考えよう」
「まぁそうですよね。わかりました」
通話が切れた。出水はため息をつくと立ち上がってベランダの椅子に向かって歩き、そこに座って眼前の雄大なビーチを眺めた。
「休みに来ているのに…頭から仕事のことが離れないな」
月曜日に受験を控えている受験生が、土曜日と日曜日にソワソワして寝れないのと良く似た気分を、出水は味わっていた。
「…気分転換に街にでも行くか」
床に脱ぎ散らかしていた半袖のブラウスとジーパンを手に取って着替えると、出水はすぐに扉を開けて郊外へと繰り出した。
出水が向かった街はバル・ボルトルリという街で、一般にはBBと呼ばれているらしい。昔は歐洲の侵略者達の漁業や貿易の中心地として栄えていたらしいが、今となっては観光客ありきの、どこか軟派な街となっている。
「あーすいません、そこのドリアンを一つ」
出水に話しかけられるまで仏頂面だった禿げの店員は、途端に笑顔になった。
「美味いな。匂いはともかく」
匂いこそ強烈なドリアン、だが味は想像もつかないほどにクリーミーである。これが安く買えるんだから最高としか言いようがない。…欠点といえばこの匂いのせいでホテルに持ち込み禁止ということくらいだ。
出水がそのような感想を頭の中で呟きつつ歩いていると、不意に誰かとぶつかった。
「おっと、すいません」
ぶつかった男が言う。
「いえいえ、よそ見しながら歩いていたのは私ですから」
出水はそう言いながらぶつかった男を見て、少なからず感心した。半袖から露出している腕の筋肉、服を着ていてもわかる胸板の分厚さ、それでいてスタイルがとても良い。無駄を全て削ぎ落としたかのような肉体だ。
顔はサングラスと深く被った帽子のせいで余り見えないものの、顔の輪郭だけでこの男が端正な顔立ちをしているとわかる。
「それでは…」
男はそう呟くと、すぐに雑踏へと姿を消した。あの男…何か、何か、見覚えがあるな。何処だったか。いや、わからないな。
探偵をしていると、人の顔を見る機会が嫌でも多くなるから、輪郭だけじゃ該当する奴が何百人もいる。出水はそう考えた。
「あれ、コレ…ハンカチか?」
ふと下を見ると足元にハンカチがあった。先程の男が落としたのか。
「はぁ…あいつ、旅行鞄引っ提げてたし、長く滞在するつもりだろうな。次この島で会ったら渡すかな」
もし、出水の能力が未来予知だとしたら、ここで出水はハンカチを捨てていたかもしれない。何故なら、このハンカチは出水にとって最低最悪な休暇をもたらすことになるからだ。
「チッ…固有種かと思えば、日本にもワサワサいるやつか」
出水はそう独り言を呟くと、数m先にいる蝶からカメラの照準を外した。
「それにしても、暑いな」
南国リゾートの中でも最高クラスと名高いイルデーニャ島に行くとなったら、夏に行くに決まっている。そう考えて来てみたは良いものの、実際は暑すぎてストレスが溜まりすぎる。
出水はため息をつくと、手に持ったカメラを鞄にしまい込んだ。
「それ、本当か?」
ホテルの中でくつろいでいるところに突然かかって来た琵琶持からの電話に出水は困惑した。
「はい。『雷獣』という能力犯罪者の討伐案件の依頼が来ました」
討伐案件とは、余りにも手に負えない能力犯罪者を殺害せよと超常的存在から下される案件で、参加不参加は自由であるのが特徴である。
「断ってくれ。私は今休暇中の身だし…そうだな、休暇が終わった頃にまだ討伐が終わってなければ考えよう」
「まぁそうですよね。わかりました」
通話が切れた。出水はため息をつくと立ち上がってベランダの椅子に向かって歩き、そこに座って眼前の雄大なビーチを眺めた。
「休みに来ているのに…頭から仕事のことが離れないな」
月曜日に受験を控えている受験生が、土曜日と日曜日にソワソワして寝れないのと良く似た気分を、出水は味わっていた。
「…気分転換に街にでも行くか」
床に脱ぎ散らかしていた半袖のブラウスとジーパンを手に取って着替えると、出水はすぐに扉を開けて郊外へと繰り出した。
出水が向かった街はバル・ボルトルリという街で、一般にはBBと呼ばれているらしい。昔は歐洲の侵略者達の漁業や貿易の中心地として栄えていたらしいが、今となっては観光客ありきの、どこか軟派な街となっている。
「あーすいません、そこのドリアンを一つ」
出水に話しかけられるまで仏頂面だった禿げの店員は、途端に笑顔になった。
「美味いな。匂いはともかく」
匂いこそ強烈なドリアン、だが味は想像もつかないほどにクリーミーである。これが安く買えるんだから最高としか言いようがない。…欠点といえばこの匂いのせいでホテルに持ち込み禁止ということくらいだ。
出水がそのような感想を頭の中で呟きつつ歩いていると、不意に誰かとぶつかった。
「おっと、すいません」
ぶつかった男が言う。
「いえいえ、よそ見しながら歩いていたのは私ですから」
出水はそう言いながらぶつかった男を見て、少なからず感心した。半袖から露出している腕の筋肉、服を着ていてもわかる胸板の分厚さ、それでいてスタイルがとても良い。無駄を全て削ぎ落としたかのような肉体だ。
顔はサングラスと深く被った帽子のせいで余り見えないものの、顔の輪郭だけでこの男が端正な顔立ちをしているとわかる。
「それでは…」
男はそう呟くと、すぐに雑踏へと姿を消した。あの男…何か、何か、見覚えがあるな。何処だったか。いや、わからないな。
探偵をしていると、人の顔を見る機会が嫌でも多くなるから、輪郭だけじゃ該当する奴が何百人もいる。出水はそう考えた。
「あれ、コレ…ハンカチか?」
ふと下を見ると足元にハンカチがあった。先程の男が落としたのか。
「はぁ…あいつ、旅行鞄引っ提げてたし、長く滞在するつもりだろうな。次この島で会ったら渡すかな」
もし、出水の能力が未来予知だとしたら、ここで出水はハンカチを捨てていたかもしれない。何故なら、このハンカチは出水にとって最低最悪な休暇をもたらすことになるからだ。
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