2 / 7
Mパーキングエリア調査
しおりを挟む
事件発生日時は、ほぼ薄暮時から夕方にかけてだった。
いつ起こるか分からない事故を待ち続けるのも気の遠い話だが、K氏は悪くないと思った。
調査用の車は貸し出され、食事代、交通費、謝礼も出る。
仕事は薄暮時から夜明けまで。
車に乗って、Mパーキングに停まり、ひたすら幽霊の出現を待つ。
毎日は不可能なので、1日から2日おきに「調査」に入った。
それだけでK氏には充分なお金が手に入る。
疲れた時や深夜は交代で見張った。
エージェント酒頭はタバコを吸い、「つまらない」と不平を言う。組織批判を口にする。ラジオを聞く…などしている。
K氏は、ノートに新作の原稿を書いたり、ネタ作りをしたりしていた。新作は、半魚人と河童の悲恋物語だ。
Mパーキングには自販機しかない。
どのくらい日数が経ったろう。
自販機のジュースを全種類楽しんだ頃だった。
ようやく出現した。
深夜2時、助手席に乗っていたK氏が初めて気づいた。
慌てて寝ている運転席の酒頭を起こす。
一人の女性が白い軽自動車に乗り込もうとしたときだ。
頭の小さな、小柄な男がおずおずと近づき、話しかけていた。
男は笑顔を浮かべ、親しげに話そうと試みているようだった。
薄汚れたシャツと、ズボンを履いている。
白いスニーカーも履いていた。
紛れもなく人である。
K氏から10数メートルほど先にいる。
K氏は、予めエージェントと「決して『幽霊』と会話しない」と決めていた。
なぜなら、情報提供者の言うように「話すと死ぬ」のであればその時点で助からないからだ。
残念ながら、女性は会話していた。
小柄な男が何度も頭を下げ、何か言っている。
女性は、ただ手を振り、申し訳無さそうにそそくさと運転席に乗り込み発進した。
「ここで、足止めさせよう」酒頭が言って、サイドブレーキを外す。
K氏は酒頭の腕を掴んで制した。
「だめだ、もし、パーキングエリアで止めたとして…私達も『幽霊』に話しかけられたらまずい。万が一、邪魔されたと思って何かされても困る」
「クソっ、じゃあ『魔のカーブ』に入るまでにあの車を止めよう」
酒頭が車を発進させた。
「まて!やつがどこに消えるかみたい」
K氏が言うと、酒頭がやや減速した。
小さな頭の男は、置き去りにされたようにその場に留まっていた。
だが、頭をひとかきすると、踵を返してパーキングエリア裏の林の方へ入っていった。
「林の中へ消えた。いいぞ、あの車を追いかけて停めよう」
K氏が言うと、酒頭はスピードを上げ本線へ合流した。
女性の車はすでにパーキングエリアから出てしまっている。
相当な速度で追い上げないと、女性の車は「魔のカーブ」へ到着してしまう。
「どうやって停める?」K氏が言った。
「こいつを使う」酒頭がセンターコンソールのボタンを押すと、サイレンがけたたましく鳴った。
そして、周囲を赤色の回転灯が照らした。
「追いついたらマイクで呼びかける」そう酒頭が言った時だった。
低速で走る大型トラック二台に追いついた。
トラックは二車線をそれぞれ走っていた。
「緊急車両です!道を開けてください!」酒頭が賢明にマイクで呼びかけるが、トラックは気づかないのか道を開けない。
その後もパッシングをする、マイクで呼びかける、サイレンを鳴らすなどするが、全く気付いてないようだ
「畜生!だめだ、間に合わない」酒頭がハンドルを叩いた。
トラック2台と、酒頭とK氏を乗せたトラックは『魔のカーブ』に差し掛かった。
すると、トラック二台は慌てた様子でブレーキして、停止した。
ブレーキしたトラックの後ろで、酒頭たちも
あわてて停止する。
トラックの間からある光景が目に飛び込んできた。
道路中央で横転し、爆発炎上する白い軽四だった。
さらには、運転席窓から這い出そうとした姿勢のまま、燃え盛る炎に焼かれる女性がいた。
いつ起こるか分からない事故を待ち続けるのも気の遠い話だが、K氏は悪くないと思った。
調査用の車は貸し出され、食事代、交通費、謝礼も出る。
仕事は薄暮時から夜明けまで。
車に乗って、Mパーキングに停まり、ひたすら幽霊の出現を待つ。
毎日は不可能なので、1日から2日おきに「調査」に入った。
それだけでK氏には充分なお金が手に入る。
疲れた時や深夜は交代で見張った。
エージェント酒頭はタバコを吸い、「つまらない」と不平を言う。組織批判を口にする。ラジオを聞く…などしている。
K氏は、ノートに新作の原稿を書いたり、ネタ作りをしたりしていた。新作は、半魚人と河童の悲恋物語だ。
Mパーキングには自販機しかない。
どのくらい日数が経ったろう。
自販機のジュースを全種類楽しんだ頃だった。
ようやく出現した。
深夜2時、助手席に乗っていたK氏が初めて気づいた。
慌てて寝ている運転席の酒頭を起こす。
一人の女性が白い軽自動車に乗り込もうとしたときだ。
頭の小さな、小柄な男がおずおずと近づき、話しかけていた。
男は笑顔を浮かべ、親しげに話そうと試みているようだった。
薄汚れたシャツと、ズボンを履いている。
白いスニーカーも履いていた。
紛れもなく人である。
K氏から10数メートルほど先にいる。
K氏は、予めエージェントと「決して『幽霊』と会話しない」と決めていた。
なぜなら、情報提供者の言うように「話すと死ぬ」のであればその時点で助からないからだ。
残念ながら、女性は会話していた。
小柄な男が何度も頭を下げ、何か言っている。
女性は、ただ手を振り、申し訳無さそうにそそくさと運転席に乗り込み発進した。
「ここで、足止めさせよう」酒頭が言って、サイドブレーキを外す。
K氏は酒頭の腕を掴んで制した。
「だめだ、もし、パーキングエリアで止めたとして…私達も『幽霊』に話しかけられたらまずい。万が一、邪魔されたと思って何かされても困る」
「クソっ、じゃあ『魔のカーブ』に入るまでにあの車を止めよう」
酒頭が車を発進させた。
「まて!やつがどこに消えるかみたい」
K氏が言うと、酒頭がやや減速した。
小さな頭の男は、置き去りにされたようにその場に留まっていた。
だが、頭をひとかきすると、踵を返してパーキングエリア裏の林の方へ入っていった。
「林の中へ消えた。いいぞ、あの車を追いかけて停めよう」
K氏が言うと、酒頭はスピードを上げ本線へ合流した。
女性の車はすでにパーキングエリアから出てしまっている。
相当な速度で追い上げないと、女性の車は「魔のカーブ」へ到着してしまう。
「どうやって停める?」K氏が言った。
「こいつを使う」酒頭がセンターコンソールのボタンを押すと、サイレンがけたたましく鳴った。
そして、周囲を赤色の回転灯が照らした。
「追いついたらマイクで呼びかける」そう酒頭が言った時だった。
低速で走る大型トラック二台に追いついた。
トラックは二車線をそれぞれ走っていた。
「緊急車両です!道を開けてください!」酒頭が賢明にマイクで呼びかけるが、トラックは気づかないのか道を開けない。
その後もパッシングをする、マイクで呼びかける、サイレンを鳴らすなどするが、全く気付いてないようだ
「畜生!だめだ、間に合わない」酒頭がハンドルを叩いた。
トラック2台と、酒頭とK氏を乗せたトラックは『魔のカーブ』に差し掛かった。
すると、トラック二台は慌てた様子でブレーキして、停止した。
ブレーキしたトラックの後ろで、酒頭たちも
あわてて停止する。
トラックの間からある光景が目に飛び込んできた。
道路中央で横転し、爆発炎上する白い軽四だった。
さらには、運転席窓から這い出そうとした姿勢のまま、燃え盛る炎に焼かれる女性がいた。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
朧《おぼろ》怪談【恐怖体験見聞録】
その子四十路
ホラー
しょっちゅう死にかけているせいか、作者はときどき、奇妙な体験をする。
幽霊・妖怪・オカルト・ヒトコワ・不思議な話……
日常に潜む、胸をざわめかせる怪異──
作者の実体験と、体験者から取材した実話をもとに執筆した怪談短編集。
ill〜怪異特務課事件簿〜
錦木
ホラー
現実の常識が通用しない『怪異』絡みの事件を扱う「怪異特務課」。
ミステリアスで冷徹な捜査官・名護、真面目である事情により怪異と深くつながる体質となってしまった捜査官・戸草。
とある秘密を共有する二人は協力して怪奇事件の捜査を行う。
赤い部屋
山根利広
ホラー
YouTubeの動画広告の中に、「決してスキップしてはいけない」広告があるという。
真っ赤な背景に「あなたは好きですか?」と書かれたその広告をスキップすると、死ぬと言われている。
東京都内のある高校でも、「赤い部屋」の噂がひとり歩きしていた。
そんな中、2年生の天根凛花は「赤い部屋」の内容が自分のみた夢の内容そっくりであることに気づく。
が、クラスメイトの黒河内莉子は、噂話を一蹴し、誰かの作り話だと言う。
だが、「呪い」は実在した。
「赤い部屋」の手によって残酷な死に方をする犠牲者が、続々現れる。
凛花と莉子は、死の連鎖に歯止めをかけるため、「解決策」を見出そうとする。
そんな中、凛花のスマートフォンにも「あなたは好きですか?」という広告が表示されてしまう。
「赤い部屋」から逃れる方法はあるのか?
誰がこの「呪い」を生み出したのか?
そして彼らはなぜ、呪われたのか?
徐々に明かされる「赤い部屋」の真相。
その先にふたりが見たものは——。
幽霊探偵・伊田裕美参上!
羽柴吉高
ホラー
旅をしながら記事を執筆するルポライター・伊田裕美。彼女は各地を巡るうちに、ただの観光記事には収まらない奇妙な事件に次々と遭遇していく。
封印された怨霊、土地に刻まれた祟り、目に見えぬ恐怖——。その影に隠された歴史と、事件の真相を追い求めるうちに、彼女は次第に“幽霊探偵”としての役割を担っていく。
人はなぜ霊に憑かれるのか?
祟りとは、ただの迷信か、それとも過去の叫びなのか?
取材を続けるうちに、裕美は不可解な事件の中に隠された“真実”に気づく。それは、単なる恐怖ではなく、時を超えて語られることのなかった人々の“記憶”であった。
恐怖と謎が交錯するオカルト・ミステリー。
“幽霊探偵”としての彼女の旅は、まだ始まったばかり——。
逢魔ヶ刻の迷い子3
naomikoryo
ホラー
——それは、閉ざされた異世界からのSOS。
夏休みのある夜、中学3年生になった陽介・隼人・大輝・美咲・紗奈・由香の6人は、受験勉強のために訪れた図書館で再び“恐怖”に巻き込まれる。
「図書館に大事な物を忘れたから取りに行ってくる。」
陽介の何気ないメッセージから始まった異変。
深夜の図書館に響く正体不明の足音、消えていくメッセージ、そして——
「ここから出られない」と助けを求める陽介の声。
彼は、次元の違う同じ場所にいる。
現実世界と並行して存在する“もう一つの図書館”。
六人は、陽介を救うためにその謎を解き明かしていくが、やがてこの場所が“異世界と繋がる境界”であることに気付く。
七不思議の夜を乗り越えた彼らが挑む、シリーズ第3作目。
恐怖と謎が交錯する、戦慄のホラー・ミステリー。
「境界が開かれた時、もう戻れない——。」
百物語 厄災
嵐山ノキ
ホラー
怪談の百物語です。一話一話は長くありませんのでお好きなときにお読みください。渾身の仕掛けも盛り込んでおり、最後まで読むと驚くべき何かが提示されます。
小説家になろう、エブリスタにも投稿しています。

ヒナタとツクル~大杉の呪い事件簿~
夜光虫
ホラー
仲の良い双子姉弟、陽向(ヒナタ)と月琉(ツクル)は高校一年生。
陽向は、ちょっぴりおバカで怖がりだけど元気いっぱいで愛嬌のある女の子。自覚がないだけで実は霊感も秘めている。
月琉は、成績優秀スポーツ万能、冷静沈着な眼鏡男子。眼鏡を外すととんでもないイケメンであるのだが、実は重度オタクな残念系イケメン男子。
そんな二人は夏休みを利用して、田舎にある祖母(ばっちゃ)の家に四年ぶりに遊びに行くことになった。
ばっちゃの住む――大杉集落。そこには、地元民が大杉様と呼んで親しむ千年杉を祭る風習がある。長閑で素晴らしい鄙村である。
今回も楽しい旅行になるだろうと楽しみにしていた二人だが、道中、バスの運転手から大杉集落にまつわる不穏な噂を耳にすることになる。
曰く、近年の大杉集落では大杉様の呪いとも解される怪事件が多発しているのだとか。そして去年には女の子も亡くなってしまったのだという。
バスの運転手の冗談めかした言葉に一度はただの怪談話だと済ませた二人だが、滞在中、怪事件は嘘ではないのだと気づくことになる。
そして二人は事件の真相に迫っていくことになる。
バベルの塔の上で
三石成
ホラー
一条大和は、『あらゆる言語が母国語である日本語として聞こえ、あらゆる言語を日本語として話せる』という特殊能力を持っていた。その能力を活かし、オーストラリアで通訳として働いていた大和の元に、旧い友人から助けを求めるメールが届く。
友人の名は真澄。幼少期に大和と真澄が暮らした村はダムの底に沈んでしまったが、いまだにその近くの集落に住む彼の元に、何語かもわからない言語を話す、長い白髪を持つ謎の男が現れたのだという。
その謎の男とも、自分ならば話せるだろうという確信を持った大和は、真澄の求めに応じて、日本へと帰国する——。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる