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娘ができたら

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A子は幼い頃から霊感があった。
誰もいない場所で人の声が聞こえたり、暗がりの廊下でぼんやりとした人影が現れたりとその手の体験には事欠かなかった。

A子にとって、霊感が強いのは恐怖でしかなかった。A子は夜になると目と耳を塞ぎ、自室に籠もるようになった。
そうでもしないと、怪異は突然A子の前に現れる。

そんなA子の力になったのは母だった。

母も子供の頃は霊感が鋭く、常に怪異の影に怯えて暮らしていたそうだ。
母は、A子を母の愛と、先人としての経験から励ました。
A子は母を信頼し、恐ろしい体験を聞いてもらって心を慰めた。

「お母さんは今も見えるの?」A子は聞いた。

「いいえ。あなたを産んでから、霊感はなくなっちゃったの」母は微笑んだ。

A子は成長し、霊感にも折り合いが付けられるようになった。
多少怖くても、スルーするようになった。

そんな中、祖母の葬儀で集まった親族から妙な話を聞いた。
死んだ祖母、つまり母の母だが、彼女も子供の頃は霊感が強く、幽霊を見たりしていたそうだ。
「A子ちゃんもだよね?親の遺伝だね、恐ろしいね。娘だから仕方ないね」親戚は悪気もなくそう言った。
A子は寒気がした。仕方ないとは、どういうことだろう。
葬儀で忙しい中、母を人気のない廊下に連れ出して聞いた。

「おばあちゃんも子供の頃は霊感あったのね。お母さんも……どうしてなくなったの?」

母はバツが悪そうに呟いた。

「あのね、この霊感は娘ができたら、娘に移るらしいのよ。あなたが産まれて、私も何も見えなくなったの。おばあちゃんも、私を産んで見えなくなったって」

A子は慄然とした。母は言い訳のようにまくし立てた。

「おばあちゃんも私を助けてくれたのよ!悩みを聞いてくれたりして。大丈夫、あなたも娘が生まれたら……霊なんて見えなくなるわ。その時は、娘を助けてあげなさい」

そう言って微笑む母の顔が、A子は怖かった。

この件以来、A子は完全に母への信頼を失い連絡すら取っていないそうだ。
未だに霊感の残るA子は語る。
「母の事はまだ許せません……娘にこんな業を背負わせるなんて。でも、少し考えるんです。私にも娘ができたら……こんな恐ろしい思いはしなくて済むんじゃないかって。娘ができたら…」

【了】
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