103 / 104
娘ができたら
しおりを挟む
A子は幼い頃から霊感があった。
誰もいない場所で人の声が聞こえたり、暗がりの廊下でぼんやりとした人影が現れたりとその手の体験には事欠かなかった。
A子にとって、霊感が強いのは恐怖でしかなかった。A子は夜になると目と耳を塞ぎ、自室に籠もるようになった。
そうでもしないと、怪異は突然A子の前に現れる。
そんなA子の力になったのは母だった。
母も子供の頃は霊感が鋭く、常に怪異の影に怯えて暮らしていたそうだ。
母は、A子を母の愛と、先人としての経験から励ました。
A子は母を信頼し、恐ろしい体験を聞いてもらって心を慰めた。
「お母さんは今も見えるの?」A子は聞いた。
「いいえ。あなたを産んでから、霊感はなくなっちゃったの」母は微笑んだ。
A子は成長し、霊感にも折り合いが付けられるようになった。
多少怖くても、スルーするようになった。
そんな中、祖母の葬儀で集まった親族から妙な話を聞いた。
死んだ祖母、つまり母の母だが、彼女も子供の頃は霊感が強く、幽霊を見たりしていたそうだ。
「A子ちゃんもだよね?親の遺伝だね、恐ろしいね。娘だから仕方ないね」親戚は悪気もなくそう言った。
A子は寒気がした。仕方ないとは、どういうことだろう。
葬儀で忙しい中、母を人気のない廊下に連れ出して聞いた。
「おばあちゃんも子供の頃は霊感あったのね。お母さんも……どうしてなくなったの?」
母はバツが悪そうに呟いた。
「あのね、この霊感は娘ができたら、娘に移るらしいのよ。あなたが産まれて、私も何も見えなくなったの。おばあちゃんも、私を産んで見えなくなったって」
A子は慄然とした。母は言い訳のようにまくし立てた。
「おばあちゃんも私を助けてくれたのよ!悩みを聞いてくれたりして。大丈夫、あなたも娘が生まれたら……霊なんて見えなくなるわ。その時は、娘を助けてあげなさい」
そう言って微笑む母の顔が、A子は怖かった。
この件以来、A子は完全に母への信頼を失い連絡すら取っていないそうだ。
未だに霊感の残るA子は語る。
「母の事はまだ許せません……娘にこんな業を背負わせるなんて。でも、少し考えるんです。私にも娘ができたら……こんな恐ろしい思いはしなくて済むんじゃないかって。娘ができたら…」
【了】
誰もいない場所で人の声が聞こえたり、暗がりの廊下でぼんやりとした人影が現れたりとその手の体験には事欠かなかった。
A子にとって、霊感が強いのは恐怖でしかなかった。A子は夜になると目と耳を塞ぎ、自室に籠もるようになった。
そうでもしないと、怪異は突然A子の前に現れる。
そんなA子の力になったのは母だった。
母も子供の頃は霊感が鋭く、常に怪異の影に怯えて暮らしていたそうだ。
母は、A子を母の愛と、先人としての経験から励ました。
A子は母を信頼し、恐ろしい体験を聞いてもらって心を慰めた。
「お母さんは今も見えるの?」A子は聞いた。
「いいえ。あなたを産んでから、霊感はなくなっちゃったの」母は微笑んだ。
A子は成長し、霊感にも折り合いが付けられるようになった。
多少怖くても、スルーするようになった。
そんな中、祖母の葬儀で集まった親族から妙な話を聞いた。
死んだ祖母、つまり母の母だが、彼女も子供の頃は霊感が強く、幽霊を見たりしていたそうだ。
「A子ちゃんもだよね?親の遺伝だね、恐ろしいね。娘だから仕方ないね」親戚は悪気もなくそう言った。
A子は寒気がした。仕方ないとは、どういうことだろう。
葬儀で忙しい中、母を人気のない廊下に連れ出して聞いた。
「おばあちゃんも子供の頃は霊感あったのね。お母さんも……どうしてなくなったの?」
母はバツが悪そうに呟いた。
「あのね、この霊感は娘ができたら、娘に移るらしいのよ。あなたが産まれて、私も何も見えなくなったの。おばあちゃんも、私を産んで見えなくなったって」
A子は慄然とした。母は言い訳のようにまくし立てた。
「おばあちゃんも私を助けてくれたのよ!悩みを聞いてくれたりして。大丈夫、あなたも娘が生まれたら……霊なんて見えなくなるわ。その時は、娘を助けてあげなさい」
そう言って微笑む母の顔が、A子は怖かった。
この件以来、A子は完全に母への信頼を失い連絡すら取っていないそうだ。
未だに霊感の残るA子は語る。
「母の事はまだ許せません……娘にこんな業を背負わせるなんて。でも、少し考えるんです。私にも娘ができたら……こんな恐ろしい思いはしなくて済むんじゃないかって。娘ができたら…」
【了】
10
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
本当にあった怖い話
邪神 白猫
ホラー
リスナーさんや読者の方から聞いた体験談【本当にあった怖い話】を基にして書いたオムニバスになります。
完結としますが、体験談が追加され次第更新します。
LINEオプチャにて、体験談募集中✨
あなたの体験談、投稿してみませんか?
投稿された体験談は、YouTubeにて朗読させて頂く場合があります。
【邪神白猫】で検索してみてね🐱
↓YouTubeにて、朗読中(コピペで飛んでください)
https://youtube.com/@yuachanRio
※登場する施設名や人物名などは全て架空です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる