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カーポートで

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30代パパBさんの話。
Bさんは休日の夕方、自宅のカーポートで洗車をしていた。

妻は友人たちと食事会に出かけ、3歳の娘は自分が世話をすることになっていた。
娘は大人しく、ずっとオモチャ遊びをしたり、動画を見たりしていた。
夕方になると、うとうとし始め寝てしまったのだった。
夕方に昼寝をさせると、夜の寝つきが悪くなる。
妻は嫌がるが、幸い妻もいない。
Bさんは娘をそのまま寝かせた。

Bさんはこれ幸いと、娘が寝ている間に洗車をすることにした。
ドアを開けておく。万が一娘が起きてぐずっても声が聞こえるだろう。
愛車の大型SUVだ。
いつもピカピカにしておかないと気が済まない。
仕事が忙しく、やり手の俺にふさわしい車でなくては……美容院で仕立てた髪と、うっすら生やしたヒゲに夕風を浴びながら車を磨いた。

大型SUVの洗車は時間がかかる。まして、丁寧にしようとすればなおさらだ。
いつしか夕暮れは、夕闇へと変わった。
周囲は暗くなり始めた。

Bさんは車を少しだけ前に進めていた。
カーポートの前の方に水洗があるので、車を前に出しておかないとホースが届かないのだ。
全てを終え、Bさんは運転席に乗り込んだ。
車を下げて駐車しよう。

エンジンをかける。
自動でヘッドライトが点灯する。
その時、Bさんは驚いて悲鳴を上げた。
車の前方に子どもが立っている。
娘ではない。
男の子で、娘より年上の子だ。
体中に包帯を巻いている。
頭は包帯が風になびいて取れかかっている。
そして、包帯がなびいた箇所の頭には何もなかった。
頭の半分が欠けていたのだ。

男の子は、虚ろな目でBさんを見つめ、後輪の方を指さしていた。
Bさんは血の気が引いたが、車のエンジンを切って、飛び降りた。
すぐに男の子へ駆け寄る。

だが、だれもいなかった。

Bさんは胸騒ぎがした。
「ドアを開けっぱなしにしてた」
Bさんは慌てて、男の子が指さした後輪の方へ走る。

「ばあ!」
なんと、三歳の娘が後輪の後ろに隠れていた。
Bさんを見つけると、無邪気に脅かしてきたのだった。

「びっくりした?かくれてたの」
娘がニコニコ笑って言う。

Bさんは安堵で腰が抜け、その場にへたり込んだ。
もし、自分があのまま車を下げていたら……
娘は無事では済まなかっただろう。

Bさんは娘を抱えて家に帰った。

この家は中古で買った。
不動産屋は口が堅かったので、近所の人に聞いて回った。
噂ではこの家のカーポートで、子どもが轢かれる事故があったらしい。
その後は一家離散して、運転していた父親は自殺したそうだ。

Bさんは男の子に感謝し、畏れた。
ささやかだが、カーポートの端に祠のようなものを作り、お供え物をして供養したそうだ。


【おわり】
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