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大雨の村落 前編

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高校生U子さんは、田舎の村落からバス通学で高校に通っていた。

いつも仲の良い友人E美も、隣の村落からバスで通ってきている。
U子さんがバスに乗ると、E美はいつも「おはよう!」と挨拶してくれた。

ある朝バスに乗ると、E美はいなかった。
冬の雨が激しく降る日だった。
投稿してから先生に聞くと、彼女は高熱を出して欠席したということだった。

授業でもらったプリントやノートを届けてあげよう。
U子さんは、いつも降りるバス停を通り過ぎた。E美の住む隣村まで向かった。
いつものバス停でU子さんが降りないので、運転手はちらりと後ろを振り返った。
バスで三十分ほどの道のりだった。
おんぼろバスは、山を巻いていく上り坂を進んでいく。
乗客はU子さんしかいない。
E美の村落が終点になるのだ。

雨の中、林道を通って村落に到着した。
バス停を降りて、E美の家に向かう。
村落には、人っ子一人いなかった。
雨が降るので、皆家に引っ込んでいるのだろう。
E美の家に着いたが、直接は会えなかった。
流感だといけないからとE美が気を利かせ、窓越しに話すことにした。

「わざわざありがとうね、U子ちゃん。遠いのに」E美はやつれた顔で礼を言った。
「こんなのお安い御用よ。早く元気になってね」U子さんは友人を元気づけた。

しばし歓談した。
たわいない、先生のうわさ話や、うざい男子の話、カッコイイ男子の話。女子の人間関係ネタ。
窓越しのわずかなおしゃべりとは言え、U子さんは楽しかった。
E美さんも笑って心なしか元気になったように見える。
「ノートやプリントは、ビニール袋に入れ置いておくね」
U子さんは軒先にそれらを置いた。

ガラッと突然引き戸が開き、E美さんの母が顔を出した。
「ほんとにありがとう。U子さん」母は頭を下げた。そして、しきりに周囲を見回し、ビクビクとしている「でも、早く帰った方が良いわ。いつもなら、客間でお茶でも飲んでいってもらいたいけど……なにせ今日は大雨だから……ごめんね」

E美の母の異様な怯え方と、「雨だから帰れ」という言葉に困惑した。
だが、そもそも長居するつもりはない。
「お大事になさってください」
といって踵を返した。

窓の向こうからE美がこちらを見ている。手を振るU子さん。
E美「本当に……本当にありがとうね!U子ちゃん!」と大声で言っていた。
「また会おうね!」
その改まった言い方と、やけに名残惜しそうな様子に若干の胸騒ぎを覚えた。

E美が見えなくなるまで、後ろを見つつ、手を振って歩いた。
友人の姿が見えなくなり、村落の出口を通った。
もう少しあるけばバス停だ。

災難はそれから始まった。

【つづく】
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