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非常招集

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小さな町の警察署に勤めるCさんの話。
深夜、自宅で就寝していたCさんは呼び出しの電話に起こされた。
夢か現実か曖昧な中、電話の内容に傾聴する。

「A島で人が何人も死んでいるという通報が入りまして、島を封鎖して鑑識や捜索をしますので参集願います」

A島は町から数キロ離れた小島だ。
島民は100人弱しかおらず、駐在所のような警察施設もない。
島民皆仲の良い平和な世界のはずだが、何があったんだろう。
むしろ、孤島だからこそ、事件が起きれば無法地帯と化してしまうのかもしれない。

Cさんは電話を切ると、布団から出る。
寝ぼけ眼で起き上がる妻に
「呼び出されたから行ってくるよ」
と告げ、洗面して着替えた。

夢か現実か区別のつかないほど、頭はぼんやりとしている。
冷たい水で洗面すると、眠気も冷め頭も冴えてくる。

Cさんは車で、警察署に向かいながら自分の仕事を考えていた。
地域課のおれは、鑑識活動の補助だろうか。それとも島中をローラー作戦して被疑者を探すのだろうか。

警察署に到着した。
ロビーではCさんと同じく、呼び出された署員たちが立っていた。
やる気のあるものは出動服をすでに着ていたりする。

だが、皆ぽかんとして狐につままれたような顔をしている。
緊迫したムードもない。

Cさんは当直の署員に到着時間を告げた。
なぜか当直勤務員は顔が青ざめている。
彼は上ずった声で言った。
「いや、全く呼び出した事実はないんですよ。誰にも呼び出しの電話をかけていません。初めは若手署員が慌てて来たものですから、『何を寝ぼけてる』と笑っていたんですけど……。皆さん続々と参集されるから、気味が悪くて」

Cさんは言われて「そんな馬鹿な」と携帯電話の履歴を見た。
確かに、警察署からの着信履歴は存在しなかった。

Cさんもロビーに集まる他の署員と同様、狐につままれたようにぽかんとしてしまったという。

後に、この件が気になった署員が調べたところ妙な事実が判明した。

A島ではかつて、島民の半数が行方不明となる集団失踪事件が起きていた。
事件は未解決のままだが、奇妙な呼び出しがあったその日はちょうど100年目を迎える日だったそうだ。


【おわり】


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