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竹藪(前編)
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少し昔のはなし。
農家のKさんは、自宅の裏山できのこや山菜を採っていた。
山は開放して、近所の人も自由に出入りさせていた。家庭で楽しむ分だけならと、山菜を採られることも放任していた。
そんなとき、一人のお婆さんが大怪我をしてしまった。
斜面で足を滑らせ、倒れた先に先の尖った細竹があったのだ。
竹はお婆さんの尻に刺さり、救急車で運ばれた。
お婆さんは
「Kさん、ごめんねえ。ごめんねえ」
としきりに謝っていた。
Kさんは普段近寄らない場所だったので、確認に向かった。
現場を目の当たりにして、気味悪さを覚えた。
斜めに切られた槍のような竹が、無数に広がっていたのである。
その光景は、古い映画で見たベトナム戦争のブービートラップを思わせた。
Kさんは竹を切ったら、確実に末端処理をして尖らせないようにする。
尖らせれば、足を滑らせ倒れ込んだ人に刺さってしまうからだ。
一本間違えれば、大惨事にもなりかねない。
近所の人が、山菜探しのために藪漕ぎで竹を切ることはあるだろう。
だが、眼の前に広がる竹は6畳分はありそうだ。
通り道を藪漕ぎした程度のものではない。
「Kさんっちゃ。こねえな事せんでも、皆あんたに感謝しとるんじゃから、罠なんて作らんでもええわあね」
救急車を見送る老人が悲しげに言った。
「ちがういね。わしゃこんなんせんいね」Kさんは慌てて自分が仕掛けた罠ではないと言った。
老人達は、この物々しい罠を誰が仕掛けたのか話し合った。
誰も心当たりがなかった。
現場にいた駐在が言った。
「Kさんよ。仕掛けたんは、あんたじゃないんやね?不法侵入相手でも、これじゃ過剰防衛やけえ」
「違いますいね」Kさんは首を振った。
「ほんなら、誰やろうかのう。なんでこんな事するんかのう」
結局、誰も犯人がわからず、解散になった。
駐在がKさんに耳打ちした。
「Kさん、あんたとこの山は松茸も出るしやね、防犯カメラをつけた方がええよ。あんたも、山に入ったもんが怪我したら責任問われるかもやけ」
駐在に言われたが、Kさんは防犯カメラを設置するお金がもったいないと感じた。
どうせ隠居した独り身だ。
いたずらをする者を待ち伏せし、現行犯で捕まえてしまおうと思った。
Kさんは近所の人には秘密で、迷彩柄のシートや服を通販で買った。
竹ヤリトラップの近くでシートを被り、枯れ草で擬態すると、あたり一面に目を光らせた。
日がな1日カンパンを齧り、山中に潜むわけだが、Kさんはまんざらでもなかった。
戦中生まれで、兵隊に憧れていたKさんは何だか楽しかったのである。
1日2日粘ってみたが、山菜採りの近所の人以外誰も来ることはなかった。
Kさんは疲れてきて、3日で一旦やめようと思った。
そして、3日目の夜
異変が起きた。
【つづく】
農家のKさんは、自宅の裏山できのこや山菜を採っていた。
山は開放して、近所の人も自由に出入りさせていた。家庭で楽しむ分だけならと、山菜を採られることも放任していた。
そんなとき、一人のお婆さんが大怪我をしてしまった。
斜面で足を滑らせ、倒れた先に先の尖った細竹があったのだ。
竹はお婆さんの尻に刺さり、救急車で運ばれた。
お婆さんは
「Kさん、ごめんねえ。ごめんねえ」
としきりに謝っていた。
Kさんは普段近寄らない場所だったので、確認に向かった。
現場を目の当たりにして、気味悪さを覚えた。
斜めに切られた槍のような竹が、無数に広がっていたのである。
その光景は、古い映画で見たベトナム戦争のブービートラップを思わせた。
Kさんは竹を切ったら、確実に末端処理をして尖らせないようにする。
尖らせれば、足を滑らせ倒れ込んだ人に刺さってしまうからだ。
一本間違えれば、大惨事にもなりかねない。
近所の人が、山菜探しのために藪漕ぎで竹を切ることはあるだろう。
だが、眼の前に広がる竹は6畳分はありそうだ。
通り道を藪漕ぎした程度のものではない。
「Kさんっちゃ。こねえな事せんでも、皆あんたに感謝しとるんじゃから、罠なんて作らんでもええわあね」
救急車を見送る老人が悲しげに言った。
「ちがういね。わしゃこんなんせんいね」Kさんは慌てて自分が仕掛けた罠ではないと言った。
老人達は、この物々しい罠を誰が仕掛けたのか話し合った。
誰も心当たりがなかった。
現場にいた駐在が言った。
「Kさんよ。仕掛けたんは、あんたじゃないんやね?不法侵入相手でも、これじゃ過剰防衛やけえ」
「違いますいね」Kさんは首を振った。
「ほんなら、誰やろうかのう。なんでこんな事するんかのう」
結局、誰も犯人がわからず、解散になった。
駐在がKさんに耳打ちした。
「Kさん、あんたとこの山は松茸も出るしやね、防犯カメラをつけた方がええよ。あんたも、山に入ったもんが怪我したら責任問われるかもやけ」
駐在に言われたが、Kさんは防犯カメラを設置するお金がもったいないと感じた。
どうせ隠居した独り身だ。
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1日2日粘ってみたが、山菜採りの近所の人以外誰も来ることはなかった。
Kさんは疲れてきて、3日で一旦やめようと思った。
そして、3日目の夜
異変が起きた。
【つづく】
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