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砂防公園のトイレ

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気弱な40代男性会社員Fさんの話。

ある休日、Fさんは遠い町にドライブへ出かけていた。
夜遅く、家に向かって帰っていると、トイレに行きたくなった。

コンビニでトイレを借りるという手段もあるが、気の弱いFさんはそれができなかった。
Fさんは車を走らせながら、あちこちとトイレを借りれそうな施設や店舗を探すが全く見当たらない。

このままでは路上に立って、軽犯罪法違反をしてしまうしかない。
Fさんは焦った。

すると、前方に
「K川砂防公園」
と標示されている案内標識を見つけた。

Fさんは助かったとばかり、砂防公園に入っていった。
河川やダムのそばにある砂防公園である。
周囲は雑木林に囲まれ、暗闇が広がる。

Fさんはスマホのライトをつけ、トイレを探した。
廃屋のようなコンクリの建物を見つけ、中を覗くとトイレだった。

黄色い電灯が一つだけついて、蛾や虫が飛び回っている。
トイレは言うまでもなく汚かった。
雑木林の奥にある公衆トイレだ。
人の手が行き届いておらずニオイも汚れもすさまじいものがあった。
男性用の小便器が並ぶ向こうには、窓ガラスのない高窓となっていた。


気弱なFさんは震えながらトイレに入り、便器の前に立ち、準備をした。
だが、暗い雑木林の奥、おどろおどろしいトイレに怯えてしまい、Fさんは用が足せなかった。

高窓の向こうの雑木林から、何かがやってきそうに思える。

Fさんは自分に言い聞かせた。
厠神……いわゆるトイレに宿る神様は美しい女性で、運気をさずけてくれるのだ……。
彼女が守ってくれるに違いない……と。

気弱なFさんは余計なことを考え始めた。
「だが、こんなおざなりにした汚いトイレに……まともな神様が宿るのだろうか」

Fさんは背中にひやりとしたものを感じ、標的の便器から顔を上げた。

高窓の向こうから、巨大な目が二つFさんを見つめていた。
目の大きさだけでFさんの顔位ありそうだ。
巨大な目の周りには、大きな輪郭がある。
毛むくじゃらで、どこから毛なのか夜の闇なのか分からなかった。

Fさんは悲鳴を上げ、ファスナーを閉めるのも忘れて車に逃げたらしい。

恐怖ですっかり膀胱も縮みあがってしまい、トイレの事も忘れて家に逃げ帰ったそうだ。
以来、Fさんは公衆トイレ恐怖症となっている。


【おわり】
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