上 下
57 / 104

高速道路の男

しおりを挟む
会社員Cさんは高速道路を走っていた。

社用車を使い、制限速度を上回る程度のスピードで左側の走行車線を走っていた。

商談帰りなので、急いで帰りたいと言う気持ちがあったのだ。

1台の車が追越車線を追い上げてきて、Cさんの車と並走し始めた。
古ぼけた乗用車だった。

運転手は壮年の男だったが、並走しながらじっとCさんの顔を見てくる。

「走行車線で飛ばしているのを咎めようとしているのか」とCさんは思った。
Cさんは男を見返した。

非難がましい顔をしている訳ではない。
男はじっと見てくる。

Cさんが気味が悪くなると、相手の男は窓を開けて何か喚き始めた。

Cさんも窓を開ける。

「あんた!顔に出てるぞ!速度を落とせ」
壮年の男はそう叫んでいた。

言われて、Cさんはルームミラーを見た。
Cさんは恐怖した。

自分の顔が血にまみれて、肌の色が紫色に変わっていた。

Cさんは慌てて、ブレーキを踏んだ。
減速するにつれ、なぜかルームミラーの自分の顔は血が消えていき、紫色もひいていく。

Cさんは驚愕してルームミラーを見つめた。

「おい!前見ろ!」
とっさに並走する男に怒鳴られ、Cさんは前を見る。

すでにカーブが迫っており、遅かった。
Cさんは曲がりきれず、ガードレールに接触してしまった。

それでも、軽い当たりだったので路肩に退避することができた。

Cさんはあたりを見回したが、並走する男の車は、すでに離れたのか消えていた。

警察が来て事故処理する際に、Cさんは一部始終話した。
そして、ドライブレコーダーの映像を警察と確認した。

ドライブレコーダーは車の周囲を360度撮影するタイプで、当然横の車も撮影するはずだが……
Cさんの見た「壮年の男が乗る車」は全く写っていなかった。

呆然とするCさんに、警官が笑いながら言った。
「このあたりは危険なカーブでして、この通り事故が多いのですよ。命に関わるような事故も何度か起こっています。ひょっとしたら、亡くなった方が、あなたに注意喚起してくれたのかも知れませんね……あはははっ」

Cさんはそれを聞いて脚が震えたという。

【おわり】


しおりを挟む

処理中です...