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呪文

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オカルト好き大学生F君の話

F君は、何気なく自宅アパートの裏山を散歩していた時、面白いものを見つけた。

F君が登山道から外れた時、偶然に廃屋を発見した。
長年人が住んでいる形跡はなく、放置された自動車は既に生産されていないもので、ナンバープレートも運輸局横の3ケタ番号が2ケタだった。

家にはつる植物がまとわりつき、不気味極まりなかった。
こんなところに、打ち捨てられた廃屋があると知りF君は喜んだ。

彼は、知り合いの霊感の強い友人を連れ、さっそく探検に出かけた。

入る前から友人は「いないよ」と断言した。

F君は少しがっかりした。
友人は言った。
「怨念や強い霊感もないし、たぶんいない。だけど、なんか……無機質だが嫌な感じがする」

F君はほとんど聞きもせずに、割れた窓ガラスから室内に入った。
霊がいないんなら、つまらないなあ。
F君はその程度にしか思わなかった。

部屋の中は家電が残されていたり、写真や古新聞などが残されていた。
確かに人が生活した気配を感じた。

あちこち探索していると、廊下の突き当りに四畳半の部屋があった。
殺風景な部屋で、テーブルに1冊だけ古びたノートが置いてあった。

ノートを見た友人は突然青ざめて言った。
「うわ、分かった。これだ。このノートだ」

「幽霊?」

「いや、ちがう。そのたぐいじゃない。このノートは見ない方が良い」

友人の青い顔に少々不安になったF君だったが、ノートを拾い上げた。
「霊がいないんなら、怖いものはないよ」

「やめとけ!」
青い顔で友人が制する。

F君は恐怖心より、好奇心が勝った。

適当に開いたページを、F君は読み上げた。
そこには、意味のよく分からないカタカナの羅列が書いてあったそうだ。

Fくんはテンポよく、間違えずに一節ほど読んだらしい。

「うあああ!」
友人は目をつぶって、大声を出しながら耳を塞いだらしい。

F君はその姿に笑った。
だが、次の瞬間右手に激痛が走り、ノートを取り落とした。

右手の人差し指から、小指までが脱臼し、手の甲にぺったりと指の背中が付くほど折れ曲がっていたらしい。

激痛よりも、驚きが強く沸き上がり、茫然とするFくん。

「読んじゃだめだ!出るぞ」
友人が叫ぶと、F君の腕を引いて、廃屋から出たらしい。

直ぐに病院へF君は行き、指は治ったらしい。

友人に改めて聞くと、友人は深刻な顔で答えた。
「なんか、あのノートはね。見ていると呪術や呪物から湧き出るような、嫌な力を感じたんだよ。おそらく、霊とかじゃなくて、人に危害を加えるようなまじないだったんだろうと思う……おれの勝手な予測だが、廃屋の雰囲気から察するに、家人はまじないを使ってヘマをしでかしたか…それとも自分で自分を何かしたんだろうと思うよ」

それ以来、F君のオカルト守備範囲には「まじない」というカテゴリが追加されたが、指の痛みを思い起こすと、例の廃屋に戻る気はさすがに起きないという。

【おわり】
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