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足下に潜む罠

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車通勤のサラリーマン、Cさんの話

Cさんは通勤である踏切を通る。
山のそばにあり、薄暗く人気の少ない踏切だった。

ある夜、Cさんは残業を終え帰路についていた。
時刻は夜10時である。
多忙なサラリーマンは、このくらい退勤が遅くなるのはざらであった。

Cさんは踏切に近づくと、いつものようにブレーキペダルに足を乗せる。

ゆっくりと踏み込むが、なぜかブレーキペダルが踏み込めない。

Cさんは不審に思い、さらに強く踏んだ。

だが、何か硬いものでも入り込んだようにペダルが踏み込めない。

車は見る見る踏切に接近していく。
タイミング悪く、遮断器が落ち始めた。

Cさんは慌てた。
このままでは車ごと列車に轢かれてしまう。

Cさんは地団駄踏むようにブレーキを踏む。
全くペダルが降りない。

Cさんは半ばパニックになりつつも、身を屈めてブレーキペダルの下を覗いた。

そこには茶色の瓶が挟まっていた。
Cさんは抜き取ると、思い切りブレーキを踏み込む。
車は遮断器すれすれで急停止した。

その数秒後、轟音を立てて列車が通過した。

冷や汗を流し、深呼吸をしたCさんはペダルの下にはまり込んだを瓶を見た。

それは、古ぼけたビール瓶だった。
ラベルはボロボロで、現在では見ないデザインのものだった。

当然、Cさんはそんなもの車に持ちこんだ記憶がない。Cさんは下戸で酒を飲まないのだ。


Cさんは気味悪くなり、瓶を捨てた。

後々聞いた話によると、昔飲酒運転でパトカーに追われた車が、その踏切で電車と衝突した。

運転手の男は酒の臭いを漂わせたまま、無惨な状態で死んでいたという。


以来、Cさんはその踏切を避け、遠回りして通勤しているそうだ。

【おわり】
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