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いたずら

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交通警備員Dさんの話。

Dさんは、とある田舎道で深夜の交通整理をしていた。

さして道路にはみ出る工事ではなかった上に、車通りも極めて少なかったのでDさんは「おいしい仕事だ」と思った。

昼間に寝溜めしたので眠気はなく、コーヒーも飲んだ。

交通量の少なさに感謝しつつDさんは立っていた。

すると、数メートル先の路上を何かが動いた。
暗い影のようだった。

Dさんは懐中電灯で照らした。

それは三輪車に乗った小さな子どもだった。
男の子のように見える。

深夜に三輪車の男の子が車道を走る。
Dさんは心配になって駆け寄った。

「坊や、危ない。どこから来た…」
Dさんがそこまで声をかけた瞬間、鼓膜が破れそうな爆音でホーンが鳴らされた。

Dさんの眼の前には、ヘッドライトの点いていないトラックが迫っていた。

Dさんは腰を抜かした。

トラックはDさんの手前1メートルほどで急停止した。
タイヤや車の底からモクモクと白煙が上がった。

運転席から男が荒々しく降りてきた。
「危ねえぞ!馬鹿野郎」

Dさんは震える声でいった。
「三輪車に乗った子どもがいたんだ!あんたこそ、ライトも点けずに危ないだろ」

トラックの男は慌てた。
「子供がいた?!俺は気づかなかったが」

Dさんとトラックの男は車の下を覗いたり、あたりを見回した。
子どもはいなかった。


トラックの運転手は怪訝な顔をしてヘッドライトを見た。
「おかしいな、あんたを見つけるまではライトは点いていたはずなんだが…電球が切れてる。それに、俺にはあんたしか見えなかった。子供なんて見てねえぞ」

その時、Dさんは道外れの雑木林から視線を感じた。

Dさんが目を向ける。

雑木林の暗い木陰の合間に、青白い顔の幼児が顔を出していた。

その子は、Dさんの方を見て笑っていた。

Dさんが驚いて凝視しようとする。

その瞬間、まるで気のせいだったように、子どもは消えてしまっていたという。


【おわり】


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