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霊園の怪

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女子大生Aさんの話。

Aさんは西日本のS市に住んでいる。
S市は地元であり、大学も地元の大学に通っていた。
仲の良い友人Bさんも、同様に地元出身で同じ大学に通っていた。

ある夜、Bさんの発案で二人は市内の霊園へ肝試しに行くことにした。
S市郊外には山林に隣接して複数の霊園が集まっている。

Bさんの祖母は既に亡くなっており、付近の霊園に墓があるらしい。
地理を知っているBさんが車を出した。

AさんとBさんは深夜のテンションで、元気にはしゃいでいた。

一番山林に近く、不気味な市営の霊園にやってきた。

霊園は広大で、暗闇が広がっている。
数えるほどしかない電灯が頼りなく明かりを灯している。

二人は、別々に行動することにした。
Aさんは左の区画、Bさんは右の区画を一周する。
終わったら元の場所に戻ってくる…そのように決めた。

Aさんはスマホの電灯を頼りに、霊園を歩いた。

灯りが照らすのは、薄汚れた墓石と、先の見えない道だけだった。
森はしんとして、何も音が聞こえない。

不自然なほど静かだった。

Aさんがふと、墓石の一つを照らす。
脚が止まり、心臓が縮み上がった。

墓石の裏に、青白い老婆が立っている。

Aさんは凍り付いた。
逃げようにも、余りに恐ろしくて動けない。

「こわいねえ、ごめんねえ」老婆は、虚ろな声で言った。
「何もしないからね。あの、一緒に来た子…あの子は孫なのよ」

老婆がそう言って、Aさんは身がすくみながらも、小さな灯りが心に灯るようだった。

「Bちゃんの…おばあさん?」
消え入りそうな声でAさんは聞いた。
確かに、このあたりの霊園におばあちゃんの墓があるとBさんは言っていた。

「そうよ…Bのね…」老婆はそう答えた。「せっかく来てくれたなら…会いたいわあ…ここに連れてきてくれんかね」

Aさんはうなづいた。

「ごめんねえ、こわいのにねえ…一緒においでねえ」老婆は笑顔でそういうと、墓石の奥へ消えた。

興奮したAさんは、すぐに元の場所に戻った。
既にBさんが戻っており、Bさんは特に心霊らしいものは何も見なかったと言った。

「Bちゃん!おばあちゃんがおいでって!」
Aさんは、興奮して、一部始終をBさんに話した。

Bさんはそれを聞くと、無言になり、表情もなくなった。
そして、「Aちゃん、帰ろう」とだけ言うと車に乗り込んだ。

Aさんは助手席に座った。
Bさんはすぐに車を走らせた。

「ねえ、どうして?おばあちゃんに会いたくないの?」Aさんは、固い表情でハンドルを握るBさんに言った。

Bさんはさっと青白い顔をして答えた。
「私のおばあちゃん、あそこの市営霊園にはいないよ。おばあちゃんのお墓は、となりの民間霊園よ」

それを聞いてAさんは唖然としたという。

以来、AさんもBさんも肝試しはおろか、どこに行くにも、できるだけ霊園に近づかないようにしているという。

【おわり】
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