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雲梯(うんてい)と青年

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老紳士Sさんは、ふと思いついて、近所の公園で雲梯を始めた。

ぶら下がり、腕と背中に力を入れ、可能な限り往復をした。

筋肉痛になるが健康になれる気がした。

そんな中、朝からスーツを着たまま、公園のベンチに座って缶ビールを飲む青年を見つけた。

青年はSさんのように毎日公園に来る。
だが、彼は日に日にスーツが乱れ、髪はボサボサになり、酒の量が増えていった。

心配になったSさんは、ある日思い切って声をかけた。

青年は驚き、拒絶を示したが、次第に心を許し話をはじめた。
仕事がうまく行かず、クビになり、それを家族に話せない。だから公園で酒を飲んで夕方に帰っている…とのことだった。

Sさんはちょっとした親心か
「君、一緒に雲梯でもして体を動かしませんか。ぶら下がれば、気が晴れるかもしれない」
と言った。

青年は笑った。
「お気持ちはありがたいですが、間に合ってますよ。僕が先でしたから。」
青年は乱れたネクタイと襟を外した。

その首には、紐状のもので強く締められた凹みがあり、黒紫に変色していた。

Sさんはギョッとして、腰を抜かした。
すぐに顔を上げると…青年は消えていた。


後日、Sさんが近所の人に聞いた所によると、かつてそのような青年が公園にたむろしていた。
だが、結局は雲梯にネクタイを結びつけ、自ら命を断った…そんな事があったそうだ。


【おわり】

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