【怖い話】さしかけ怪談

キャビネット（後編）

ある日の朝、会社の玄関で、男性社員が血まみれになって墜死しているのが発見された。


夜中に残業していて、屋上から飛び降りたらしい。
警備員はトイレに行っていたそうだ。

Ｙさんはたまたま勤務ではなかった。

Ｙさんは「左遷出張を苦にしたのかしら…そんなタイプじゃなさそうだけど」と思った。

警備会社から、休みだったＹさんが急遽防犯カメラの立ち会いに呼ばれた。
警察がカメラを見るらしいから、操作してやって欲しいとのことだった。


Ｙさんは守衛室に赴き、防犯カメラの映像を再生した。
横には、刑事や制服警官がいる。　　



男性社員は一人残業していた。
夜中になり、もくもくと仕事を続ける男性社員。

すると、離れたところにある四段キャビネットの二段目が、なぜか自然に押し出されて開いた。

男性社員は訝しんで近づくと、閉じる。

だが、またキャビネットが開く。

男性社員は首を傾げて近づくと、閉じる。

またキャビネットが開く…

その繰り返しだった。

しまいには男性は無視し始めた。

キャビネットが開いたまま、5分経った。

突然、「ふふふ」と女性の笑い声が聞こえた。

男性社員は椅子から飛び上がる。
そして、開いたキャビネットを覗く。
声はそこから聞こえたようだ。

男性社員が恐る恐る近づき、キャビネットの中を覗き込む…

防犯カメラの画角上、キャビネットの中は見えない。

だが、男は聞いたこともないような声で絶叫すると、弾かれるように走って逃げた。

キャビネットからは、別に何も出てこない。

男性社員が一人パニックになって、髪も服も振り乱し走って逃げている。

モニターで見るその姿は滑稽だが、男性社員の様子は鬼気迫っていた。

そして、非常階段の方へ男性社員は逃げた。
扉を体当たりで押す。

次の瞬間、反動で閉じかけた扉が、なぜかまた弾かれるように開いた。

Ｙさんは息を飲んだ。

まるで見えない何かが、男性社員を追っているようだった。


屋上への扉もまた、男がパニックになって開き、閉じかけた時、押し開かれた。

防犯カメラはそこまでで終わった。


Ｙさんは凍りついていた。

何が男性社員を追っていたのだろうか。
キャビネットには、一体何があったというのか。

「気がふれたんだろ…。不倫して女性を死なせてるらしいからな、こいつは。罪悪感で狂ったんだろ」
ガラの悪い刑事が言った。

Ｙさんの意見は違った。


「男性社員はおそらく殺されたのだ」


そう思ったそうだ。

【おわり】