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キャビネット(前編)

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女性警備員Yさんは、とある会社の施設警備に就いていた。

会社は忙しく、夜中も残って仕事をする人などが多かった。

Yさんは、防犯カメラを守衛室でチェックしながら夜勤についていた。

そんな中、Yさんは男性社員と女性社員
が抱き合っているのを防犯カメラで目撃した。
彼らは防犯カメラの存在を知らないのだろう。

Yさんは、無口だが人の噂話が好きだった。巡回をしながら聞き耳を立てることも多く、会社の事情には通じていた。

たしか、その男性社員は妻と子どもがいるはず。
抱き合っている女性社員はシャイで奥手なタイプだった。

事務職員で、いつも時間があれば書類棚やキャビネットの整理をしていた。

周りが「そんな事までしなくていいよ」といっても、キャビネットをキレイにしている。
ある意味芯のありそうな人だった。

悲しい事にならなければいいけど…。

ボンヤリと二人の模様を眺めながらYさんは思った。


Yさんの心配は現実となった。
数カ月後、キャビネット整理の女性社員は、窓から身を投げて死んだ。


女性社員が死ぬ前に告発メールを会社に送っていたため、男性社員は破滅するかと思われた。

だが、男は非常に優秀で売上トップの幹部候補生だった。

役員たちは黙認して、お灸をすえるため田舎への出張を命じた程度であった。


男性社員は鼻で笑っていたと、社員が噂していたのをYさんは聞いた。

「俺があの女と付き合ってたって証拠は何一つないからな。写真すら取ってねえし」そう言っていたそうだ。

Yさんは、業務上の秘密を漏らしてはならず、防犯カメラの映像内容も漏らしてはならなかった。

Yさんは残念に思った。



だが…

ある日の朝、会社の玄関で、男性社員が血まみれになって墜死しているのが発見された。


【つづく】
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