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「見えた」思い出

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これは実話。
私の体験談。

今の妻と結婚する前、二人である町の公園を散策していた。

小高い丘の上にある公園で、眺めがよく街一帯が見渡せる。
遊歩道には桜並木があった。

夕暮れ時で、段々と薄暗くなりはじめていた。

ふと、進路のさきを見ると二階建の日本家屋が目に入った。

立派な作りだった。
だが、瓦が傷んでいたり、壁板が割れていたり、家の前に雑草が繁茂していた。

「廃墟かな?」そう思いながら近づく。
公園の奥へ行くには、その家の前を過ぎなければならない。

家の前へ差し掛かる。
なぜか玄関の扉や、掃き出し窓は開いていた。

障子はくまなくボロボロに穴が空き、破れたふすまが家の中に立てかけてある。
部屋の中は、ごみ袋などが散乱、ビン・カンが転がり、どう見ても廃墟にしか見えなかった。

「家なの?」心配そうな声で妻が言う。
「廃墟かな」私はそう答える。

私と妻は前を向き、家の前を通り過ぎようとした。

その時、不穏な予感がした。
なにか見落としていないかと。
もう一度家を見ようと顔を向けた。

妻は「あっ」と悲鳴を上げた。

荒れ果てた部屋の中、白装束を着た老婆が立っていた。

髪はボサボサにもつれて、顔にかかって表情は見えない。

薄暗く、廃墟のような部屋から、こちらを向いて立っていた。

絵に描いたような「幽霊」の姿だった。


私はこの時初めて、「幽霊」を見た。そして、「幽霊」は存在した…と確信した。

全身の毛が逆立つのを感じた。

私は怯える妻の肩を抱いて足早にその場から立ち去った。

車に戻り、たしかに見たと二人で確認した。

二人で互いの無事を祝い、早々に退散した。


…後日、地図を見せながら、近所に住んでいる者に話を聞いた。

残念ながら怪異ではなかった。

私が立派な日本家屋と思っていたものは、公園の脇にある木造の古びた平屋だった。

その平屋には、新興宗教をやってる人がいて、和服のような装いをしていることもあるらしい。
ただ、あまり関わり合いになれない感じの人なので詳しくは知らない…とのことだった。

私は古びた平屋を重厚な日本家屋に間違え、人を幽霊扱いしたことを恥じた。

だが、本当にそうだろうか?

地図を見せると「ここのことだろう?」とその人は笑った。
だが、土地勘のない私は間違いなくそこだとは断言できなかった。

もし、私が「見た」場所がその人の言う場所と違っていたら…

「いや、それはない。この家だって。君の見間違いだよ」とその人は言った。


見間違いだとしたら、その方が安心だ。

しかし、私と妻、二人共見間違いなんてするだろうか…

あの時私と妻は、紛れもなく恐ろしく不穏な日本家屋と、身がすくむような幽霊を見た。


今でもそれは見間違いであったと、自分を納得させ続けている。

【おわり】
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