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畑を走るもの

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N田さんは、夜遅く車を運転して帰宅していた。

N田さんの家は郊外にあり、周囲は里山と田畑に囲まれた田園地帯だった。

昼間ならそんな田園風景も素晴らしいが、夜は真っ暗闇だ。

何も見えず、虫の声と得体のしれない獣の鳴き声が時折聞こえる。

N田さんが暗い中、刈り終えた畑の横にある車道を走っている時だった。

刈り終えた畑は雑草が繁っている。
車のライトは、雑草たちの足下を照らしているくらいだが…

ライトに薄っすらと、奇妙な物が見えた。

大きさは人間ほどで、肌は灰色に見えた。
気味の悪いことに二本脚で立って、雑草の間を素早く駆け抜けた。

服も来ていないし、身のこなしも人間離れしていた。


N田さんの家は、この田畑や里山のそばを走る車道を通らねば着かない。

先程から灰色の二本脚は、茂みや雑草の陰に隠れながら、猛然と走ってついてくる。
こちらの車と並走しているようだ。

N田さんの家は、里山のそばだ。

「里山の木立に隠れて、ついてくるつもりなんだ」

N田さんは恐怖した。
車から降りない方がいい。

N田さんはそう判断すると、家に帰るのをやめた。

代わりに、木のない街中に戻ってビジネスホテルに宿泊したという。

翌日、取引先の畜産業者から妙な話を聞いた。

最近育てている家畜が、夜の間に何かに襲われ、身体の一部が食いちぎられた状態で見つかる…という。

 いわゆる
 「キャトルミューティレーション」
という現象が周辺の畜産家、農家を悩ませていたそうだ。

 N田さんを追いかけた存在は結局わからずじまいだった。


 N田さんは、ビジネスホテルに泊まってなければ餌食になっていたと周囲にしきりに話したそうだ。

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