上 下
12 / 104

赤い煙

しおりを挟む
ホラー書きとして残念なことに、作者は霊感がありません。
ひとつ、霊感を持つ方のエピソードをご紹介します。

ーーーーーーーー


5階建てのビルから飛び降りようとしている男がいた。

Nさんは付近で道路工事をする作業員だった。


思い詰めたような顔をしたスーツ姿の男が大庇の縁に立って、下を見下ろしていた。

周りの皆んなは盛んに
「考え直せ」「降りてこい」
と口々に説得していた。

男は始め無言だったが、次第に涙し始め、屋上から説得にかかっている人間の言葉に耳を傾けていた。

男は説得されたのだろう。
踵を返し、屋上の中心へ戻ろうとしていた。

その時だった。
赤色の煙のようなものが漂ってきた。
煙は人間の形をしていて、何となく人間のような顔も持っていた。

男にスッと同化した。

男は、その瞬間振り返り、今度は猛然と走り出すと、大庇から飛び降りた。

やじうまからおぞましい悲鳴が上がり、まもなく男は地面と激突した。

無惨な死に方だった。

悲鳴が止まない中、Nさんは好奇心から見続けたらしい。

すると、倒れた男から赤い煙のような人影が出てきて、風に拭き散らかされように消え去った。


消える間際、その赤い煙の顔は笑っているように見えたという。

警察や消防車が来て、大騒ぎになった。
野次馬たちは
「説得に成功したと思ったんだけどなぁ…やめると思ったのに。」
と口にしていた。

その後、Nさんは周囲の人に「赤い人型の煙」が見えたか聞いて回った。

Nさんの他に見たものはいなかった。

【おわり】
しおりを挟む

処理中です...