上 下
11 / 104

警察署の老人

しおりを挟む
元警察官A氏から聞いた話


A氏が働いていた警察署は、地下階があった。

地下は一般には用のない施設だったので、地下への階段も「関係者以外立入禁止」という看板を立てていた。


ちょうどA氏がその看板の前を通りがかった時だった。

地下から見知らぬ老人が登ってきているのに気づいた。

よぼよぼとして、かなりの高齢に見えた。

立入禁止看板の向こうにいたので、A氏は声をかけた。

「そこから地下は立入禁止ですよ」


老人は笑って頭を下げた。

「どうもすいません。はっと気がついたら、ここにいましてね。自分がどこから来たかも、よう分かりませんで」


老人の言葉を聞き、A氏は「保護」された老人かと思った。

警察の生活安全課は迷い人や行方不明老人を保護する業務を担当している。 


A氏は、保護された老人がトイレでも探して警察署内で迷ってしまったんだろうと思った。

「御主人、生活安全課は上の階ですよ。私についてきて下さい」A氏が言った。


老人はA氏の後をゆっくりとついて来た。

A氏は話しかける。

「御主人お名前は?」

「タナカイサムです」

「住所は?」

「〇〇町です」


刑事課員だったA氏は立ち止まった。

そして思わず口にした。

「〇〇町のタナカイサムさんって…先程孤独死された方と同じ名前じゃ…」


瞬間、後ろの老人が「あっ」と声を出した。


咄嗟にA氏が振り向く。


そこにいたはずの老人は消えていたという。


A氏は語る。

「地下には、公用車の駐車場と霊安室があったんですよ。タナカイサムさんは独居老人でしてね。机の上に新聞とお茶の入った湯呑みをおいた状態で、新聞を読むように突っ伏して亡くなってました。発見されるのが遅くて、ご遺体は腐敗していたんですよ。

おそらく、ご自身でも何気なく新聞を読んでいただけで、死んだことに気づいてなかったんでしょうね。突然霊安室に連れてこられて、困惑したんでしょう…」

 

霊安室に運ばれたタナカイサムさんの霊が、ひょっこり現れたんだろうとA氏は言う。


【おわり】

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

サクッと読める♪短めの意味がわかると怖い話

レオン
ホラー
サクッとお手軽に読めちゃう意味がわかると怖い話集です! 前作オリジナル!(な、はず!) 思い付いたらどんどん更新します!

本当にあった怖い話

邪神 白猫
ホラー
リスナーさんや読者の方から聞いた体験談【本当にあった怖い話】を基にして書いたオムニバスになります。 完結としますが、体験談が追加され次第更新します。 LINEオプチャにて、体験談募集中✨ あなたの体験談、投稿してみませんか? 投稿された体験談は、YouTubeにて朗読させて頂く場合があります。 【邪神白猫】で検索してみてね🐱 ↓YouTubeにて、朗読中(コピペで飛んでください) https://youtube.com/@yuachanRio ※登場する施設名や人物名などは全て架空です。

【一話完結】3分で読める背筋の凍る怖い話

冬一こもる
ホラー
本当に怖いのはありそうな恐怖。日常に潜むあり得る恐怖。 読者の日常に不安の種を植え付けます。 きっといつか不安の花は開く。

怪談実話 その1

紫苑
ホラー
本当にあった話のショートショートです…

(ほぼ)5分で読める怖い話

涼宮さん
ホラー
ほぼ5分で読める怖い話。 フィクションから実話まで。

怪談実話 その2

紫苑
ホラー
本当にあった怖い話です…

処理中です...