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廃料金所

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情報提供者 男性30代 会社員


とある街に小高い山があった。

自然公園であり、市の観光スポットもあった。
花の展示イベントなんか良くやっていたと思う。

山の頂上に駐車場があって、そこから夜景を見ることができた。

カップルにはすごく人気だった。

昭和の頃は山に入るのも有料だった。

頂上手前に料金所があり、お金を払わないと駐車場には行けなかった。

だが、平成ヒトケタのうちに入場料制度はなくなった。
無料で入れるようになった。

閉園時間は夜9時だ。
閉園になると、ゲートが閉められ、問題を起こす奴や羽目を外すカップルが入らないようにする。

入場料がとうに無料になった平成23年
の頃、おれは当時付き合っていた彼女と夜景を見に来た。

おれは夢中になって、夜景で相手を口説くことしか頭になかった。
窓を開けて颯爽とドライブしてた。

廃墟となっている料金所に近づく。
ゲートが閉じられている。

時計を見る。9時を回っていた。
遅かった。

おれは、あきらめて引き返そうとした。
すると突然ゲートが開き、「どうぞ」と料金所のスピーカーから声がした。

声の主は薄汚れた料金所のブースにいた。
ブースは電気がついているが薄暗い。
ガラスはくもり、雨だれや長年の汚れが付着し、ブース自体廃墟のように見える。
だが、人がいる。
帽子を被ってて顔がよく見えないが、痩せた職員だった。
顔色は青白く、生気がない。
汚れた制服に、擦り切れてボロボロの反射ベストを着ている。

「いくらですか?」おれは聞いた。
「代金は結構ですよ」職員はうつろな声で答えた。



おれは怖くなった。おかしい。
入場時間は過ぎているのに、なぜかゲートが開かれた。
料金所にいる職員は、入場料を取ろうとしない。

それなら職員を置く必要ないだろう?

そもそも、この料金所は廃止されているはずだ。

おれはゲートの向こうを見た。
真っ暗で、車のヘッドライトすら吸い込みそうな闇だった。 

「ねえ、やめようよ」助手席の彼女が言う。

おれは何となく「このまま入ったら、帰ってこれないかも」と感じた。

だから、その場で車を下げ、急いで転回して山を降りた。
料金所にいた「何か」には目もくれなかった。

無事に山を降りたが、おれは鳥肌が立って震えていた。

 
その話をしても、誰も信じてくれなかった。
あの料金所はとうの昔に使われてないはずだと。

あの時、山に入ったらどうなっていただろうと時々思う。

全く関係ないかもしれないが、その山の公園は古戦場だったらしい。


【終わり】

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