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集落の者

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人影は一人ではなかった。

ぽつりぽつりと見えはじめる。

薄汚れた服を着て、皆鋤のようなものを持って農作業している。

背筋が寒くなった。
この集落は明らかにおかしい。
なぜか、皆が皆四角い紙袋のようなものを被っている。

汚れた紙袋を頭からすっぽりと被り、その顔は見えない。

そんな頭に紙袋を被った村人が、点々と農作業している。

まともではない。
私はすぐに帰ろうと心を決めた。

だが、エンジン音を響かせ走る私に、集落の人間が気づかない訳がない。

紙袋の村人たちは、皆顔を上げ、私の方を見る。

その中の遠い一人が、私を指差し、くぐもったような声で叫びとも怒鳴りとも言えない大声を出した。

私は、悲鳴を上げそうになる。

すると、突然ブレーキが効き、アクセルが緩んだ。

私は止まった。

大声で間違えて入ってきたと弁明しようとした。

だが、その紙袋の者たちは、鋤やクワ、鎌などを手に持ったまま、ゆっくりと私に近づいてきている。

私は本能的に、逃げたほうがいいと悟った。

私は再度アクセルを回し、出口の方を目指した。

狂ってる。

これが老婆の言った「まがいもん」なのだろうか。


私はアクセルを回し続けるが、いつまでたっても、出口へ着かない。

もう着いていい頃だ。
一本道のはずなのに出口が来ない。

周囲はあの気味の悪い不規則に並ぶ小屋しかない。


その時、アクセルが停止した。
エンジントラブルでバイクが止まったのだ。

私は恐怖から鳥肌が立った。

幸い、気味の悪い紙袋たちはいない。

何とか逃げないとまずい。
私は兄に電話した。

「もしもし!兄さん?!変なところで迷ったの!」
私は窮状を伝えようとする。

「…じょうぶか…こにいるんだ…」
兄からの声は途切れ途切れになり、そして、くぐもった音で聞こえずらかった。

普段はこんな事ない。

電波が悪いのだろうか。
「○○集落の北側なの!G〇〇gleアースだと森だけど…変な人たちがいる集落に入ったの!」
私は必死に伝える。
だが、兄からの声ははっきりと聞こえない。

「…かうから…てね」
内容もよく分からない。

すぐに兄との電話は切れた。

そして、電話の電波は「圏外」と表示されていた。


私はバイクを停め、歩き出した。

少しでも出口に近づかないといけない。

私は小屋の間をすり抜け、道路上ではなく、小屋に隠れるように進んでいった。

道沿いだ。

だから出口の方へは行けるはず…

時折、紙袋を被った集落の人間を見かけた。
けっして見つからないように、私は静かに歩いた。

もう限界だ。

疲労で脚は重く、恐怖で身はすくむ。

もう動きたくない。

私はある小屋のそばでへたり込んでしまった。
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