悪魔の手助け

色白ゆうじろう

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刈り取ったもの

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「珍しいでしょう?魔物が助けに来るなんて」魔物はひひひと笑う。「安心していいですよ」


「悪魔のくせに手助けしてくれるなんて、信じられない」


「まあ、信用できないの分かります。日ごろの我々の行いからすれば。でも誓いますよ。命を奪ったり、廃人にしたり、親族を殺したり…そういうのはしませんから。」


男はうーんと呻って答えた。

「まあいい。やってくれ。俺には失うモノなんてない」


魔物はにやりと笑った。

「ありがとうございます。一応、契約ですからね」


それを聞いて男はゾッとした。たが、期待もした。

「これで俺は売れるのか?」


魔物は鼻で笑った。

「あなたが魂を売ってくれるなら、いいですよ。すぐに億万長者にしましょう。でもその代わり、すぐに悲惨な死を遂げ、地獄行きですがいいですか?」


「それは嫌だ!」


「では、小口契約しかできませんよ…。図々しいですな、即バズなんてそんな簡単なもんじゃない。才能あふれる作家や、編集チームが作り出すものです。あなた如きの売れない作家なら、魂だって万バズと同価値はないかも知れない」


「お前も失敬な悪魔だな!」


「すみません。口が過ぎるのです私。ところで、あなたは自分に何が必要だと思いますか?」



「えーと…とにかく執筆すること、本を読むこと、運動すること…かな」

男は答えた。


魔物は妙な呪文を唱えた。

一見して何も起こらない。


「はい。これでOKです。有効な呪いを掛けました」


「呪いだと!?」


「今日から、最低でも1時間は必ず執筆、運動、読書をしないと即死します。」


「なんだと!」男は絶望の表情を浮かべる。


「落ち着きなさい。たかだか1時間ですよ。執筆や読書にはもっと時間をかけるべきです。また、運動はきつすぎないモノを続ければいい。きちんとこなせればあなたは死なないのだから」


「ふざけるな!やはりお前は悪魔だ」


「まあまあ、いずれ私に感謝することになりますよ」


魔物はそれだけ言うと消え去った。


緊張の日々が始まった。


男が目覚めたら、漆黒の死神が常に横に控えているのだ。

男がよたよたとランニングに出かけ、無理にでも机に向かいお粗末なネタをひり出すと死神はため息混じりに消えた。


男は死にたくない一心でひたすら、毎日のランニングや執筆、読書に励んだ。


すると、どうだろう。

以前は全く書く気も起きず、一文字も書けなかった執筆が安定して書けるようになった。


読書でネタを貯め、ランニングで体の調子を良くするとともに、リフレッシュした脳が気の利いたネタを作り出した。


男は悪魔に感謝した。


横にいる死神は鬱陶しいが、この分なら将来につながる実力がつきそうだ。



2週間が過ぎた。


例の悪魔がやってきた。


悪魔は言った。


「素晴らしい!習慣になりましたね!もう後は私のサポートもいらないでしょう。売れるまでそれを続ければ良いのです。呪いを解いて差し上げますよ」


「わあ!解放された!」男は喜んだ、たが、すぐに表情を引き締めた。

「しかし、あなたが作ってくれた習慣は続けるよ。この習慣のお陰で、なんとか成功できる気がする!アイデアもどんどん沸くんだ」


「そうでしょう、栄光はすでに目の前です」魔物は笑顔で応えた。


男は喜び勇んでかけていった。



男の背中を眺め、魔物は左手に大きなエネルギーの塊を手にしていた。

それは、魔族にとって魂に等しい黄金の価値があるものだ。


「わあ!すてき!それどうやって手に入れたの!?」一匹の夢魔が魔物の横に降り立った。

「あんなブ男から?そんなにも価値があるの?あいつに」


「あるさ」魔物は答えた「人間はね、ある努力を習慣化するのに3週間は必要だと研究結果が出ている。」


夢魔は首を傾げる。

「どういうこと?」


「彼はもう一週間続けていたら、この習慣を固定化して、作家として大成功を収めていた。文学賞も、溢れる富もね…。だが、私の呪いがないとあの男はすぐに軟弱な怠け者に戻るだろう」


「分かんないでしょ、そんなこと」


「このエネルギーがその答えさ。僕は奴に大成功する可能性を授け、育て、その未来を刈り取ったのさ。」


そう。

魔物は敢えて無能な男にチャンスを与え、有望な未来を作り出し、それを無情にも刈り取ったのだった…。


「じゃあ、あの人どうなるの?」


「このまま、何もないまま…いつか野垂れ死ぬさ。可能性はすべて摘んだ」魔物はニタニタと笑った。


「まあ…残酷ね…」夢魔はうっとりとして魔物を見る。「いい夢を見させて、殺す私達の方がよっぽど優しいわ」


「どうだい?あの男は。つまみ代わりにでも」


「遠慮するわ」夢魔はツンとそっぽを向く「私だって好みはあるもの」


「ははは…夢魔すら食わないか…」魔物は笑って魔界への扉を開く。

恩恵に預かりたい夢魔は猫なで声でついて来る。


果ては大文学者となる男の未来を刈り取ったのだ。

しばらくは遊んで暮らせるだろう。


魔物は自分の輝かしい未来にほくそ笑んだ。

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