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第24話「パン工場の火災」
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カービンの弾丸は、溶接マスクに当たると、金属音と共に火花を散らした。
平治がカービンを撃ったのを見て、垣もカービンを発砲した。
無数の弾丸が溶接マスクに発射される‥・しかし、溶接マスクの着用した厚いボディーアーマーは全て弾丸を弾き飛ばした。
溶接マスクの顔も、胴体も、全て防弾仕様で火花を放つのみである。
溶接マスクは高らかに笑う。
「どうだ、これぞ革命戦士の鎧よ!来たるべき闘争に備え、開発された高機能ボディーアーマーだ。爆発などの衝撃や、火にはそこまで強くないが、銃のような直線的かつ極めて狭い範囲の物理衝撃ははじき返してしまう。」
溶接マスクは自分のボディーアーマーを誇示するように仁王立ちした。
確かに、先ほどは普通の体躯であったが、今は相撲取りのごときシルエットになっている。
それだけ分厚い防護服なのだろう。
「なんてこった銃が効かないなんて」垣がつぶやく。
「労働者の努力が生んだ奇跡だ。製鉄研究所が開発した『メタルポリマー』から構成される防護衣よ。この特殊な金属は圧力をかければかけるほど、高密度化し、高質化する。つまり、銃も刃物も効かないってことだ。それが何を意味するか分かるか?国家権力の犬ども」
「意味なんて分かんねえよ!この人殺し!」垣が叫ぶ。
「貴様ら犬に勝ち目はないということだ!革命の炎に焼かれるがいい!」溶接マスクはそう言うと、火炎放射器を激しく噴射した。
踵を返し、逃げる平治と垣。
平治と垣は防火服ではない。焼かれたら防弾チョッキと言えど無意味だ。
平治と垣は分散して逃げた。
平治は全速力で逃げる。
垣が焼かれないことを祈るほかない。
作業員の男はもうダメだろう。
広い倉庫の中、柱のように高い小麦棚を縫うように逃げた。
少し逃げ、平治は後ろを振り向き、小麦袋の間から敵の様子を伺った。
見ると、溶接マスクはこちらを見失ったようで、歩いて探し回っている。
歩く速度はゆっくりで、重そうな足を引きずって歩いている。
平治は思った。
あの防護服は重いのだろう。
緩慢な溶接マスクの動きを見て、平治はそう感じた。
「平治!」垣が骨伝導イヤホンの無線を流してきた。「逃げれたか?」
「ああ。あいつは8mほど先の近くにいる。」
「マジかよ…迂回して逃げ切れねえかな」
「やってみないと分からん。しかし、入り口側の扉を施錠されていたら逃げ切れんぞ」と平治。そして無線を打った「A班、火炎放射器を持った奴に襲撃された。1名従業員が殺害された。至急援護にこれないか?どうぞ」
「A班了解。平治、わりいが、扉が施錠されててぶっ壊すのも無理だ。迂回して援護に行けば、敵に見つからずに済んだとして20分だ」と根須が通話した。「それまで持つか?どうぞ」
「了解…検討する」平治が言った。A班は頼れそうにない。
「やばいな。くそ、こんなところで死にたくねえよ」垣が言った。
平治は自分が、カービンと防弾チョッキしか借りなかったのを呪った。
フラッシュバンがない。
おそらく、投擲武器はB班の腰ベルトに装着されていたんだろう。
B班から受け取った装備にはなかった。
平治は小麦袋の隙間から溶接マスクを覗く、マスクは後頭部まですっぽり覆っているフルフェイス型であった。
後ろから射撃しても効果はないだろう。
平治が思案していると、突然、入り口近くから轟音が響いた。
積荷が崩れるような音で、金属が曲がる音がして多量の小麦袋が落ちる音がした。
「おい、垣さん、聞こえたか」平治がすぐ無線する「無事か?」
「ああ!」垣は弾んだ声で言った「今のはおれだ、平治。今、棚をひっくり返して小麦粉をまき散らしてるんだ」
「何してる?野郎に見つかっちまうぞ」
「いいものを見つけたんだ平治。俺に考えがある」と垣は言った。「ちょうど去年派出所勤務の時、近所のパン工場の火災現場に行ったんだ」
「何?」
「そこで現場の消防士が話してたんだ。火災の原因をな」と垣が言った。
「垣さん…まさか」と平治
「そうだよ。あの野郎、勝ち誇ってご丁寧に言ってたろ。『火や爆発には強くない』とさ」垣が言った。「じゃあ、吹っ飛ばしてやろう。あいつ、この小麦倉庫で火炎放射器をぶっ放してるところからして、知らないんだろうよ。小麦や粉には火があぶねえってな」
「小麦の…粉塵爆発か」平治が言った。
「そうさ!その時のパン工場は、溜りにたまったパンくずや小麦粉が、タコ足配線のホコリ火花で爆発したんだ。」垣が言った。「俺はいまフォークリフトに乗ってる。平治、入り口の方はもう小麦で霧がかかったように真っ白だ。あの野郎をおびき寄せてくれないか?それは平治じゃないとできない」
「垣さん」平治が言った「下手すりゃ皆死ぬぞ」
「うう・・」垣は一瞬言葉を詰まらせる。「もうそこは運だよ。でもさ、爆発には生き残ってきたろ?おれたち」
「垣さんよ」と平治「あんた地球の警察官にはもったいないくらいの『イカれっぷり』だな」
「お前に言われたくねえよ!!」垣が叫んだ。
平治がカービンを撃ったのを見て、垣もカービンを発砲した。
無数の弾丸が溶接マスクに発射される‥・しかし、溶接マスクの着用した厚いボディーアーマーは全て弾丸を弾き飛ばした。
溶接マスクの顔も、胴体も、全て防弾仕様で火花を放つのみである。
溶接マスクは高らかに笑う。
「どうだ、これぞ革命戦士の鎧よ!来たるべき闘争に備え、開発された高機能ボディーアーマーだ。爆発などの衝撃や、火にはそこまで強くないが、銃のような直線的かつ極めて狭い範囲の物理衝撃ははじき返してしまう。」
溶接マスクは自分のボディーアーマーを誇示するように仁王立ちした。
確かに、先ほどは普通の体躯であったが、今は相撲取りのごときシルエットになっている。
それだけ分厚い防護服なのだろう。
「なんてこった銃が効かないなんて」垣がつぶやく。
「労働者の努力が生んだ奇跡だ。製鉄研究所が開発した『メタルポリマー』から構成される防護衣よ。この特殊な金属は圧力をかければかけるほど、高密度化し、高質化する。つまり、銃も刃物も効かないってことだ。それが何を意味するか分かるか?国家権力の犬ども」
「意味なんて分かんねえよ!この人殺し!」垣が叫ぶ。
「貴様ら犬に勝ち目はないということだ!革命の炎に焼かれるがいい!」溶接マスクはそう言うと、火炎放射器を激しく噴射した。
踵を返し、逃げる平治と垣。
平治と垣は防火服ではない。焼かれたら防弾チョッキと言えど無意味だ。
平治と垣は分散して逃げた。
平治は全速力で逃げる。
垣が焼かれないことを祈るほかない。
作業員の男はもうダメだろう。
広い倉庫の中、柱のように高い小麦棚を縫うように逃げた。
少し逃げ、平治は後ろを振り向き、小麦袋の間から敵の様子を伺った。
見ると、溶接マスクはこちらを見失ったようで、歩いて探し回っている。
歩く速度はゆっくりで、重そうな足を引きずって歩いている。
平治は思った。
あの防護服は重いのだろう。
緩慢な溶接マスクの動きを見て、平治はそう感じた。
「平治!」垣が骨伝導イヤホンの無線を流してきた。「逃げれたか?」
「ああ。あいつは8mほど先の近くにいる。」
「マジかよ…迂回して逃げ切れねえかな」
「やってみないと分からん。しかし、入り口側の扉を施錠されていたら逃げ切れんぞ」と平治。そして無線を打った「A班、火炎放射器を持った奴に襲撃された。1名従業員が殺害された。至急援護にこれないか?どうぞ」
「A班了解。平治、わりいが、扉が施錠されててぶっ壊すのも無理だ。迂回して援護に行けば、敵に見つからずに済んだとして20分だ」と根須が通話した。「それまで持つか?どうぞ」
「了解…検討する」平治が言った。A班は頼れそうにない。
「やばいな。くそ、こんなところで死にたくねえよ」垣が言った。
平治は自分が、カービンと防弾チョッキしか借りなかったのを呪った。
フラッシュバンがない。
おそらく、投擲武器はB班の腰ベルトに装着されていたんだろう。
B班から受け取った装備にはなかった。
平治は小麦袋の隙間から溶接マスクを覗く、マスクは後頭部まですっぽり覆っているフルフェイス型であった。
後ろから射撃しても効果はないだろう。
平治が思案していると、突然、入り口近くから轟音が響いた。
積荷が崩れるような音で、金属が曲がる音がして多量の小麦袋が落ちる音がした。
「おい、垣さん、聞こえたか」平治がすぐ無線する「無事か?」
「ああ!」垣は弾んだ声で言った「今のはおれだ、平治。今、棚をひっくり返して小麦粉をまき散らしてるんだ」
「何してる?野郎に見つかっちまうぞ」
「いいものを見つけたんだ平治。俺に考えがある」と垣は言った。「ちょうど去年派出所勤務の時、近所のパン工場の火災現場に行ったんだ」
「何?」
「そこで現場の消防士が話してたんだ。火災の原因をな」と垣が言った。
「垣さん…まさか」と平治
「そうだよ。あの野郎、勝ち誇ってご丁寧に言ってたろ。『火や爆発には強くない』とさ」垣が言った。「じゃあ、吹っ飛ばしてやろう。あいつ、この小麦倉庫で火炎放射器をぶっ放してるところからして、知らないんだろうよ。小麦や粉には火があぶねえってな」
「小麦の…粉塵爆発か」平治が言った。
「そうさ!その時のパン工場は、溜りにたまったパンくずや小麦粉が、タコ足配線のホコリ火花で爆発したんだ。」垣が言った。「俺はいまフォークリフトに乗ってる。平治、入り口の方はもう小麦で霧がかかったように真っ白だ。あの野郎をおびき寄せてくれないか?それは平治じゃないとできない」
「垣さん」平治が言った「下手すりゃ皆死ぬぞ」
「うう・・」垣は一瞬言葉を詰まらせる。「もうそこは運だよ。でもさ、爆発には生き残ってきたろ?おれたち」
「垣さんよ」と平治「あんた地球の警察官にはもったいないくらいの『イカれっぷり』だな」
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