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第8話「いち警察官の誇り」
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「こんばんは、窓開けて」
赤いスカーフをつけた、ポリティカルディフェンダーズの自警団員が言った。
「なんですか?」吉和が答えた。
「検問中だよ。最近不審な奴が多くてね。身分証ある?」
吉和は顔貌ホログラムが浮かぶ、クレーン作業免許証を取り出して手渡した。
「運転免許は?」
「忘れちゃいました。」嘘である。運転免許には軍属車両区分が記載してあるため、吉和は出さなかった。
「ふうん。あんた軍隊みたいな格好してるな。しかもこんな年代物の四駆…」
「好きなんですよ。こういうのが」
「だろうな。こんな格好して街歩くなんて俺は理解できないよ」自警団員が笑った。
「同感」垣が小声でつぶやく。
吉和がキッと睨んだ。
「で、どこ行くの?」
「血肉亭」
「ああ、いいね。仕事はなにしてんの?」
「土木の一人親方。こいつらは応援で呼んだ連中」
「そっか」自警団員は裏表をさっと見て、吉和に返した。
「最近な、ポリ公が嗅ぎまわっててさ。上の連中もピリピリ来てんのよ。大きな行事があってな」自警団員が言った。彼らが言う「ポリ公」とは警察である。
「あんたの古い車、ちょっと音うるさいし排気ガスも多いな。見逃してあげたいけどさ、上もうるさいんだよね」
吉和は無表情を装い、自警団員を見た。相手は努めて笑顔でいるが、吉和には不快な薄ら笑いに見えた。
吉和は、ダッシュボードから手巻きの太いタバコを4、5本取り出し、紙幣を一枚出して渡した。
「どうも」自警団員はにこやかに受け取ると、ポケットにしまった。「お気をつけて。良い夜を」
「一つ聞いていい?」と吉和「大きな行事って?公共事業とかかい?1枚噛みたいんだけど」
自警団員はタバコに火を付け、煙を口元にまとめて吐き出すと、一気に吸った。
「違うよ。今度、アメ帝の外相が視察に来るんだ衛星に」煙を吐き出すと、少し咳き込んだ。「衛星にたどり着かせず、地球に蹴り返すために態勢整えてんだとよ」
「おい!余計な事言うんじゃねえよ。ブリブリかよクソが」別の自警団員が叫んだ。
「いいでしょ先輩!このくらい。善良な日々の暮らしを全うする一人親方ですよ」たしなめられた自警団員は振り向いて答えた。「警官に停められても言うなよ、親方」自警団員は笑っていった。そして、車内をマジマジと見た。
「おい、助手席のでかいの。約束してくれるよな?」ふざけて平治に声をかけてきた。
「ああ」平治は答えた「ポリ公なんてクソ食らえだ」
車をしばらく走らせると、突然うわずった声で垣が話し始めた。
「おい、平治よ。おめえは良いやつだけどよ。俺は…俺は教育隊を出て、制服の袖に手を通した時、おふくろが泣いて喜んでくれたんだぜ?それをお前…警官がクソ食らえって…それはねえんじゃねえか?」垣の声は涙ぐんでいた。「お前はそりゃ、超強い軍人だからよ。いち警察官の誇りなんて分かんねえだろうけどよ」
「落ち着けよ。おしゃべり」吉和が笑った。「五百川さん、ポリ公て奴らの事だよな?」
平治は肩をすくめた。
「その癖やめろよ!キザ野郎」垣が身を乗り出して、平治の肩をペチンとはたいた。
垣の両脇の軍人が、垣の肩を抱き、頭をクシャクシャと撫でて励ました。
吉和が太いタバコを手渡そうとした。
「いらない。俺の地元じゃ違法だもん」垣がぼそっと言った。「お前らタフガイにはついて行けねえよ」
平治は吉和からタバコを受け取ると、火を付け、煙を口にためてまとめて吐き出すと、一気に吸った。
軽く咳き込んだ。
すると、先程までの緊張が突然弛緩され、硬くて座り心地の悪い吉和車のシートが、安楽椅子のように柔らかく感じた。
そして突然、カーステレオから流れるトランペットの音色が、心に染み渡った。
平治はまた一息分吸うと、ため息のように吐き出した。気持ちが急速に落ち着き、幸せを感じる。
「垣さん」と平治「俺はあんたの事好きだぜ」
「けっ!」垣は拗ねてそっぽを向く。
「地球に蹴り返すね…」と平治がつぶやいた。「いい情報かもな」
「あんたは情報持ち帰り、結果次第で俺も情報収集手当がもらえるってこった」と吉和「まだポリ公に顔が割れてないあんた達なら、情報収集もしやすいだろ」
「やっぱり利用してんだな!」垣が叫んだ。
「落ち着けったら。お互いWin-Winだろ」吉和が垣に目もくれず言った「もう拗ねるのやめな。ビールも奢ってやるからよ」
「2杯だ!」垣がピースサインのように指を立てた「1杯じゃ足りねえからな!」
平治は肩をすくめず、笑った。
赤いスカーフをつけた、ポリティカルディフェンダーズの自警団員が言った。
「なんですか?」吉和が答えた。
「検問中だよ。最近不審な奴が多くてね。身分証ある?」
吉和は顔貌ホログラムが浮かぶ、クレーン作業免許証を取り出して手渡した。
「運転免許は?」
「忘れちゃいました。」嘘である。運転免許には軍属車両区分が記載してあるため、吉和は出さなかった。
「ふうん。あんた軍隊みたいな格好してるな。しかもこんな年代物の四駆…」
「好きなんですよ。こういうのが」
「だろうな。こんな格好して街歩くなんて俺は理解できないよ」自警団員が笑った。
「同感」垣が小声でつぶやく。
吉和がキッと睨んだ。
「で、どこ行くの?」
「血肉亭」
「ああ、いいね。仕事はなにしてんの?」
「土木の一人親方。こいつらは応援で呼んだ連中」
「そっか」自警団員は裏表をさっと見て、吉和に返した。
「最近な、ポリ公が嗅ぎまわっててさ。上の連中もピリピリ来てんのよ。大きな行事があってな」自警団員が言った。彼らが言う「ポリ公」とは警察である。
「あんたの古い車、ちょっと音うるさいし排気ガスも多いな。見逃してあげたいけどさ、上もうるさいんだよね」
吉和は無表情を装い、自警団員を見た。相手は努めて笑顔でいるが、吉和には不快な薄ら笑いに見えた。
吉和は、ダッシュボードから手巻きの太いタバコを4、5本取り出し、紙幣を一枚出して渡した。
「どうも」自警団員はにこやかに受け取ると、ポケットにしまった。「お気をつけて。良い夜を」
「一つ聞いていい?」と吉和「大きな行事って?公共事業とかかい?1枚噛みたいんだけど」
自警団員はタバコに火を付け、煙を口元にまとめて吐き出すと、一気に吸った。
「違うよ。今度、アメ帝の外相が視察に来るんだ衛星に」煙を吐き出すと、少し咳き込んだ。「衛星にたどり着かせず、地球に蹴り返すために態勢整えてんだとよ」
「おい!余計な事言うんじゃねえよ。ブリブリかよクソが」別の自警団員が叫んだ。
「いいでしょ先輩!このくらい。善良な日々の暮らしを全うする一人親方ですよ」たしなめられた自警団員は振り向いて答えた。「警官に停められても言うなよ、親方」自警団員は笑っていった。そして、車内をマジマジと見た。
「おい、助手席のでかいの。約束してくれるよな?」ふざけて平治に声をかけてきた。
「ああ」平治は答えた「ポリ公なんてクソ食らえだ」
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「おい、平治よ。おめえは良いやつだけどよ。俺は…俺は教育隊を出て、制服の袖に手を通した時、おふくろが泣いて喜んでくれたんだぜ?それをお前…警官がクソ食らえって…それはねえんじゃねえか?」垣の声は涙ぐんでいた。「お前はそりゃ、超強い軍人だからよ。いち警察官の誇りなんて分かんねえだろうけどよ」
「落ち着けよ。おしゃべり」吉和が笑った。「五百川さん、ポリ公て奴らの事だよな?」
平治は肩をすくめた。
「その癖やめろよ!キザ野郎」垣が身を乗り出して、平治の肩をペチンとはたいた。
垣の両脇の軍人が、垣の肩を抱き、頭をクシャクシャと撫でて励ました。
吉和が太いタバコを手渡そうとした。
「いらない。俺の地元じゃ違法だもん」垣がぼそっと言った。「お前らタフガイにはついて行けねえよ」
平治は吉和からタバコを受け取ると、火を付け、煙を口にためてまとめて吐き出すと、一気に吸った。
軽く咳き込んだ。
すると、先程までの緊張が突然弛緩され、硬くて座り心地の悪い吉和車のシートが、安楽椅子のように柔らかく感じた。
そして突然、カーステレオから流れるトランペットの音色が、心に染み渡った。
平治はまた一息分吸うと、ため息のように吐き出した。気持ちが急速に落ち着き、幸せを感じる。
「垣さん」と平治「俺はあんたの事好きだぜ」
「けっ!」垣は拗ねてそっぽを向く。
「地球に蹴り返すね…」と平治がつぶやいた。「いい情報かもな」
「あんたは情報持ち帰り、結果次第で俺も情報収集手当がもらえるってこった」と吉和「まだポリ公に顔が割れてないあんた達なら、情報収集もしやすいだろ」
「やっぱり利用してんだな!」垣が叫んだ。
「落ち着けったら。お互いWin-Winだろ」吉和が垣に目もくれず言った「もう拗ねるのやめな。ビールも奢ってやるからよ」
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