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第四話「続・格闘訓練」

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「開始!」軍曹が怒鳴ると、吉和は腕を前に出し、じりじりと歩み脚で五百川に近づいた。


五百川は頭の付近まで両こぶしを挙げ、相手に正対した。


左足が前、右足が後方、体重は前後に動かす・・・アップライトに構えた。


吉和が歩み脚であるところを見ると、蹴りに対応する気はあまりないようだ。


吉和がやや接近したところで、五百川は右のローキックを叩き込んだ。
右足首が左ひざ側面にめり込み、「うっ」と吉和が苦痛の声を漏らした。

その瞬間、吉和は歯を食いしばり恐るべき瞬発力で五百川に抱きついた。
五百川はその瞬発力に驚いた。
ローキックで勢いが止まると思ったからだ。

鼻から組み付いて地面に倒すつもりだったのだろう。
五百川の胴に丸太のような両腕を回し、しっかりとクラッチを組むと、腹を支えにして反るように五百川を持ち上げ、地面にたたきつけた。

五百川は一瞬息が止まる。しかし、受け身を取り、頭は守った。
ここから先が問題であった。
吉和は「寝技」ができるのだろうか…


吉和は五百川が素早く吉和の胴体を両足で挟み込んだのを気にも留めず、ひたすら五百川の顔面に拳を打ち下ろした。
確かに剛腕である。五百川の拳を受け止める腕にはびりびりと痛みと重さが押し寄せた。下手にアゴ先を貰うと脳震盪を起こす威力である。

だが、五百川はほくそ笑んだ。
五百川の挟み込んだ脚にすら気が回っていないとなると、恐れるに足らずである。

五百川は左腕で吉和の右の拳を受け止めると、戦闘服の袖をつかんだ。

そして、素早く脚を解き、掴んでいる吉和の腕の上に、自分の左脚を乗せ、足首とつま先を吉和の肘裏と脇に食い込ませた。

五百川の左脚によって、吉和の右腕は固定され動かなくなった。


吉和は若干動揺した表情を見せた。
しかし、吉和はにっと笑うと、自由な左腕を振り上げ、五百川の右の顔を殴打しようと左へ回り込む…

その瞬間、五百川が固定した左足を使い、吉和の右腕に体重をかけた。

五百川と体格はそん色ない吉和の巨体は、突然弧を描いた。

吉和の巨体は砂埃をあげ、地面に倒れた。



そして、五百川は吉和の体側に座り込み、まだ吉和の右腕を左足首に巻きつけ、掴んでいる。

五百川は腰を落とし、吉和の右腕に体重をかける。

吉和の上腕二頭筋と腕橈骨筋は、五百川の鋼のような足首を挟み込んだまま、五百川の尻によってプレスされ、千切れんばかりに圧迫され、激痛が走った。


吉和は再び苦悶の声を漏らし、苦痛に眉間にしわを寄せた。

「あんたは体格がいい。組技が強いんだろうなと思った。万一柔術ならと危惧したが、寝技の様子を見て安心したよ」
五百川がつぶやいた。
「どうする?降参するなら今だぞ」

「警官なんかに負けられないぜ」吉和は五百川をにらみつけ言った。

「そういう軍人の心意気、俺は好きだね」五百川はそういうと微笑んだ。「でもあんたの腕を壊すと、陸戦隊員を一人傷病休業にしちまう。」

五百川はそうつぶやくと、吉和の右腕を尻で固定したまま、右の拳を高く振り上げ、上半身を捻転させ、力を込めて吉和の顔に拳を叩き込んだ。

吉和の頭は地面で後頭部を打ち、バウンドした。
吉和の鼻から血が噴き出した。

大男が拳を振り上げ、力いっぱい地面に倒れた相手を殴る迫力に巡査たちはどよめいた。

五百川はさらにもう一度、上半身を捻転させ、拳を振り上げ、顔面に叩き込む…

パンチは立った状態であれば、足の踏み込みと、腰の回転で強い威力を生み出す。

しかし、両者が地でもみ合う寝技局面では、足の踏み込みと腰の回転も使えない。

捻転する上半身や拳を振り上げる力が威力を生み出すのである。



三回目のパンチが吉和の顔面にめり込んだ瞬間、吉和の体は放られたぬいぐるみのように力が抜け、抵抗してバタついていた手足が地面に広がった。

失神・・・ノックアウトであった。

「それまで!」堅岩軍曹が叫ぶより前に、五百川は腕を外し、吉和を助け起こしていた。

「くそっ・・・」吉和はつぶやいた。

「俺は軍人上がりだよ。おまけに格闘技もやってる。純粋な警官じゃない」五百川が吉和の肩をポンポンと叩いた。


このような荒々しい格闘訓練が1週間続いた。


最も、五百川平治は苦痛の表情は微塵も浮かべず、目が輝いてすらいたのだった。
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