差掛エッセイ

色白ゆうじろう

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書斎の窓

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寝室の窓から見えるのは隣の家の壁と、屋根の雨樋と軒部である。頭を動かせば、空も少し見える。


高窓なのである。



書斎の窓からは夜景が見えたり、山の稜線や湖が見えた方がいいが、現実はそうもいかない。


何とか確保した住処である。

ベッドタウンの只中で、摩天楼もなければ湖もない。


高窓の他には、腰高窓もあるが、書斎にいる際はカーテンを閉めている。


私が絵を描いたり、執筆に没頭する姿を近所を散歩する老人らに見られたくないからである。


地方の住宅街も高齢化は顕著である。


高窓も脚立を用意して覗きこまない限り見えない高さなので、まず人に見られる心配はない。


窓からの光景も、色々心奪われる景色がない方が作業に没頭できていいかもしれない。



偉そうに書斎と言っているが、実際は寝室である。


書斎を構える予定はなかった。


寝室にLANポートを引いたがために、私が書斎として間借りさせてもらっているのだ。


私は書斎が欲しいといったが、妻と設計士が考案したのは、書斎の代わりに屋外物置(差掛という)にトレーニングベンチを設置した空間であった。


空調はない。非常に暑い中ダンベルを持ち上げる。


当時、私は書斎を持つような男に思われなかった。


書斎を持つより、ダンベルを持ち上げることが何より好きな男と見られていた。


私はダンベルを持ち上げるより、PCで執筆をする方が当然好きである。


執筆は進まなかったが、幾分筋肉はついた。



今や寝室は、私の書斎兼寝室兼子ども達のサロンである。


子ども達は、寝室より子供部屋で寝るようになった。寝室では寝ていない。

夜は、書斎のソファベッドに集まり寛いでいる。


私は自分の作業をする事もあれば、子どもと遊ぶ事もある。


寝る時間が来ると、子ども達は食べかすと、おもちゃを残したまま去ってゆく。


子どもと同じ空間で過ごすのはいい事である。


20分に一度は子供同士が言い争うので、仲裁する手間はあるが、できる限り子ども達と過ごしたいと思う。


もう10年もして、思春期が到来すれば私の書斎に入ってくることはないだろうから。


息子とは、がんばってお金を稼いで部屋を宇宙船のコクピットのようなゲーミング部屋にしようと話し合っている。


夢のような空間だ。

ただ、先の事は分からない。


息子は私の血を継いでゲーム好きだが、いつか目が覚めて宇宙船の夢を破棄するかもしれない。


そして、寝室にスミスマシンやケーブルマシン、懸垂バーを置くと言い出すかもしれない。



その時は自立させるか、私の本来の書斎であるトレーニング物置の所有権を譲ろうと思っている。

 

トレーニングはLANポートのある書斎でも、蒸し暑い物置でも可能だが、執筆に関しては蒸し暑い物置では難しい。


その時書斎が必要なのである。

設計士は理解してくれなかったが。


息子は分かってくれると思う。








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