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忘れんぼパパ
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直ぐに物忘れをする「忘れんぼパパ」がいた。
彼は若い頃、頭を大ケガした。
それ以前の記憶をなくし、すぐに物忘れするようになったしまった。
わすれんぼパパには、愛する妻と大学受験を控えた息子がいた。
息子はとても勉強熱心で努力家でもあったのだが、パパの血を引いてか忘れっぽかった。
テストでも、勉強した範囲は完全に網羅していたのだが、いざと言う時に忘れてしまう。
そのせいで思うように成績は振るっていなかった。
努力はするが、肝心のテストで「ド忘れ」を起こす息子は、いつも悔しい思いをしていた。
それを見ていたわすれんぼパパは不憫でならなかった。
せめて、大学受験の時だけは、「忘れんぼ」はなくなってほしい。
息子の努力が実を結ばないのは見ていて辛いと思っていた。
そこで、薬品配達の仕事をしていたパパは、人づてにとある博士を紹介してもらった。
ある先進的な研究をしている薬学博士であった。
薬学博士は、二種類の薬をパパに治験として渡した。
「これは『思い出し薬』と『忘れ薬』です。『思い出し薬』を飲むと、どんな経験でも一度経験した過去を容易に思い出せるようになります。」博士は言った。
「すごい!」パパは歓喜の声をあげた。「でも、忘れ薬はいりませんよ。」
「使わなくてもいいですよ。でも、一応持っていたらどうです?これは依存症の治療に役立てるよう製造したものです。例えば、息子さんがゲームに夢中で勉強がはかどらない…そんな時はゲームをしながらとか、ゲームについて想像させながら飲ませてみてください。ゲームのことはきれいさっぱり忘れてしまいますから」
パパは二種類の薬を持ち、大喜びで帰路についた。
それから、息子の成績はメキメキと上がった。
もともと勉強家の息子は、「思い出し薬」を使うことで、勉強の風景、教科書の内容も全て思い出せるようになった。
治験の効果も上々で博士も満足そうだった。
だが、息子はもともと勉強好きなので「忘れ薬」に関しては全く使わなかった。
数カ月がたち、見事、息子は難関大学に合格した。
あとは、勉強熱心の息子なら輝かしい未来を手に入れるだろう。
忘れんぼパパは妻と涙を流し喜んだ。
そして、薬を返すため、パパは一人博士の研究所へ向かった。
だが博士の研究所に行く道すがら、パパはあることを思いついた。
若い頃の自分の記憶である。
頭をケガするまでは何をしていたのだろう。
パパは薬を取り出した。
「思い出し薬」は最後の1錠だけある。
「忘れ薬」は1錠も飲んでいない。
パパは思い切って最後の「思い出し薬」を飲みこんだ。
蘇る記憶、ひどい激痛、恐怖、あせり…
パパは警官隊に追われていた。
そして、進退窮まって大きな橋から川へと飛び込んだのだった。
そう、おれは…過激派だった。
金持ちが支配するこの世界を変え、抑圧された人を解放しようとする革命家だったんだ。
違法に手に入れた爆弾で、大企業を爆破し、肥え太った銀行を襲って金を巻き上げた。
俺たちには大義があった。
銀行を襲い、海外の過激派と落ち合おうとしていたところ、警官隊に見つかったのだった。
俺には任務がある。
東京の大企業本社を爆破しなければならない。
爆弾の置き場所、アジト、仲間の連絡先、全て思い出した。
どうして俺は長年牙を失った一般人として生活していたのだろう。
記憶喪失は恐ろしいものだ。
そこで、パパははっとした。
確かにそうだ。俺は過激派だった。
しかし、今はどうだ。
平和な社会、人並みのくらし、家族のいる暖かな幸せ…
記憶喪失のおかげで手に入れた幸せは、何物にも代えがたいものだった。
過激派に戻るか、人並みの暮らしを続けるか…
パパは、そこで「忘れ薬」の存在を思い出した。
そして、忘れ薬を1錠とりだした。
過激派は青春だった。だが、それも若さゆえの過ち…
今手に入れたこの幸せを失う価値はない。
それに社会も大きく変化した。
今は革命なんて望まない。
私は「忘れんぼパパ」
名前もある。人生も記憶も取り戻した。
愛する妻と息子のもとへ帰ろう。
研究室に薬を返し、仕事を終えて
暖かな家庭に戻るのだ。
そう思いながら、パパは忘れ薬を飲み込んだ。
かつて、「忘れんぼパパ」と呼ばれた男は、あてもなくさまよっていた。
私は一体誰で、どこから来て、何をしているのだろうか。
彼は若い頃、頭を大ケガした。
それ以前の記憶をなくし、すぐに物忘れするようになったしまった。
わすれんぼパパには、愛する妻と大学受験を控えた息子がいた。
息子はとても勉強熱心で努力家でもあったのだが、パパの血を引いてか忘れっぽかった。
テストでも、勉強した範囲は完全に網羅していたのだが、いざと言う時に忘れてしまう。
そのせいで思うように成績は振るっていなかった。
努力はするが、肝心のテストで「ド忘れ」を起こす息子は、いつも悔しい思いをしていた。
それを見ていたわすれんぼパパは不憫でならなかった。
せめて、大学受験の時だけは、「忘れんぼ」はなくなってほしい。
息子の努力が実を結ばないのは見ていて辛いと思っていた。
そこで、薬品配達の仕事をしていたパパは、人づてにとある博士を紹介してもらった。
ある先進的な研究をしている薬学博士であった。
薬学博士は、二種類の薬をパパに治験として渡した。
「これは『思い出し薬』と『忘れ薬』です。『思い出し薬』を飲むと、どんな経験でも一度経験した過去を容易に思い出せるようになります。」博士は言った。
「すごい!」パパは歓喜の声をあげた。「でも、忘れ薬はいりませんよ。」
「使わなくてもいいですよ。でも、一応持っていたらどうです?これは依存症の治療に役立てるよう製造したものです。例えば、息子さんがゲームに夢中で勉強がはかどらない…そんな時はゲームをしながらとか、ゲームについて想像させながら飲ませてみてください。ゲームのことはきれいさっぱり忘れてしまいますから」
パパは二種類の薬を持ち、大喜びで帰路についた。
それから、息子の成績はメキメキと上がった。
もともと勉強家の息子は、「思い出し薬」を使うことで、勉強の風景、教科書の内容も全て思い出せるようになった。
治験の効果も上々で博士も満足そうだった。
だが、息子はもともと勉強好きなので「忘れ薬」に関しては全く使わなかった。
数カ月がたち、見事、息子は難関大学に合格した。
あとは、勉強熱心の息子なら輝かしい未来を手に入れるだろう。
忘れんぼパパは妻と涙を流し喜んだ。
そして、薬を返すため、パパは一人博士の研究所へ向かった。
だが博士の研究所に行く道すがら、パパはあることを思いついた。
若い頃の自分の記憶である。
頭をケガするまでは何をしていたのだろう。
パパは薬を取り出した。
「思い出し薬」は最後の1錠だけある。
「忘れ薬」は1錠も飲んでいない。
パパは思い切って最後の「思い出し薬」を飲みこんだ。
蘇る記憶、ひどい激痛、恐怖、あせり…
パパは警官隊に追われていた。
そして、進退窮まって大きな橋から川へと飛び込んだのだった。
そう、おれは…過激派だった。
金持ちが支配するこの世界を変え、抑圧された人を解放しようとする革命家だったんだ。
違法に手に入れた爆弾で、大企業を爆破し、肥え太った銀行を襲って金を巻き上げた。
俺たちには大義があった。
銀行を襲い、海外の過激派と落ち合おうとしていたところ、警官隊に見つかったのだった。
俺には任務がある。
東京の大企業本社を爆破しなければならない。
爆弾の置き場所、アジト、仲間の連絡先、全て思い出した。
どうして俺は長年牙を失った一般人として生活していたのだろう。
記憶喪失は恐ろしいものだ。
そこで、パパははっとした。
確かにそうだ。俺は過激派だった。
しかし、今はどうだ。
平和な社会、人並みのくらし、家族のいる暖かな幸せ…
記憶喪失のおかげで手に入れた幸せは、何物にも代えがたいものだった。
過激派に戻るか、人並みの暮らしを続けるか…
パパは、そこで「忘れ薬」の存在を思い出した。
そして、忘れ薬を1錠とりだした。
過激派は青春だった。だが、それも若さゆえの過ち…
今手に入れたこの幸せを失う価値はない。
それに社会も大きく変化した。
今は革命なんて望まない。
私は「忘れんぼパパ」
名前もある。人生も記憶も取り戻した。
愛する妻と息子のもとへ帰ろう。
研究室に薬を返し、仕事を終えて
暖かな家庭に戻るのだ。
そう思いながら、パパは忘れ薬を飲み込んだ。
かつて、「忘れんぼパパ」と呼ばれた男は、あてもなくさまよっていた。
私は一体誰で、どこから来て、何をしているのだろうか。
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