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一章

青い髪の冒険者、魔法学園、懲罰室にて 3

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「僕の耳が悪かったのかな?ごめん聞き取れなかったみたいだからもう一回行ってもらってもいいかな?」

 クリオスはジルの言葉を聞きもう一度同じ言葉を伝える。

「あなたに、我が学園で教師をして欲しいんです」

 口角を吊り上げてそんな言葉を投げかけてくるクリオスをジルは正真正銘の馬鹿を見るような目で見つめた。こんな視線を他人に向けたのは最凶の10人の連中に向けた時以来である。そんな視線など関係ないというばかりに口角を吊り上げて笑うクリオスの瞳に獰猛な野心の色が見て取れる。
 本来、魔法を使うものは冒険者ギルドに所属している冒険者たちを毛嫌いしている。それなのにもかかわらずジルの眼前に腰掛ける男はそのことを気にしていない。自身の目的のために使うものは使う。そんな強い意志を感じる。

「僕に魔導師の卵たちに教鞭を振るえと?僕の正体に気がついていながら何故そんなことを言ってくるのかな?僕は君たち魔導師が大嫌いな冒険者…しかも、最凶の一角だよ?僕に教えられることなんて人とかの殺し方とか殺さない程度に痛めつける方法とか、死んでも死ねない地獄を見せることくらいしかできないよ?」

「そういうのを教えていただきたい。我が校の生徒たちは優秀なものが多いです。しかし、卒業後宮廷魔導師になったものたちが戦場などでいきなり戦うことはできるでしょうか?……答えは決まっています。できないです。そんな彼らが若い命を散らすのは辛い、ならば本職の方にそのノウハウを叩き込んであげて欲しいのですよ。」

 クリオスの言いたいことはよく分かる。手塩をかけて育ててきた生徒たちが無駄に命を散らすのが忍びないということだろう。そう解釈したジルは顎に指先を当て思考を巡らせる。
 冒険者ギルドに長年席を置いているとわかるのだが、ごく稀に冒険者ギルドから徴兵されたときがあった。その際若くして宮廷魔導師になるものたちも同じ戦争に駆り出されているのを何度か見ている。彼らは学生気分が抜けておらず、狭い枠組みの中でしか己の実力を知らない。何人の敵兵を自慢の魔法でなぎ倒せるか、そんなことをよく仲間内で話していたのを耳にしていた。そんな大口を叩くものほど血の匂いが充満する戦場では何の役にも立たず、戦争が終わる頃には物言わぬ屍となって朽ちていく。
 ごく稀にそんな戦争を息抜きその才覚を発揮するものはいるが、たいていの魔導師たちはその命を無駄に散らせているのが現実だ。冒険者ギルドのように命に価値を見出さず神の禁忌に触れようが、禁術でも使って蘇生できるようにでもすればいいと常日頃からジルは考えている。
 彼らにとって、そんな信仰する神に背くことはできないと知りながらも。

「僕は冒険者だからね、依頼でもない限りそんなめんどくさい仕事はしないよ」

「封印の巫女がこの学園にいます」

「…何?」

 封印の巫女。その言葉がここで出てくるとはジルは予想していなかった。彼の脳裏に浮かぶのは100年ほど前の記憶。それはまだ彼ら最凶の10人なんてくくりがなかった時代。魔王と呼ばれる存在の手引きにより召喚された邪神。それを封じるために10人は様々なものを犠牲にし戦った。邪神とはいえ神の一柱、五人の巫女に邪神の魂を分割し封印。その代償として、10人は命の価値がない世界で永劫の時を生きなくてはならなくなったのだ。

「その役割を巫女は理解しているのか?」

 自然と口調が荒くなる目つき自体普段から悪いのだが、現在のそれは普段の目つきの悪さとは比較にもならない。

「いえ、理解はしていませんよ。させるつもりもない」

 そんなジルを愉快そうにクリオスは眺める。ジルから溢れ出んばかりの殺気を当てられながらもその余裕そうな態度は崩さない。彼とジルを隔てる強化ガラスの壁はジルが本気を出せばまるでなかったかのように粉砕することもできる。それを知っていながらもクリオスは余裕の表情を浮かべ続ける。

「いいだろう、その仕事受けてやる。報酬はお前から徴収させてもらう、覚悟しとけよ」
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