ヴァンパイア陛下は森の中に住む女性に恋に落ちる。

藍田 のひか

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 フェアリーキタス王国から離れた森でひとり暮らしているサラーナ・ティオは寝る前に寝室の小窓を開けて雲一つない満月を眺めながら呟いた。

「今日は綺麗な満月だわ」

 夏の終わりの夜は微かに風が吹いて気持ちがいい。

 満月を見ていると大きな羽根が生えた鳥が飛んでいた。 

 すると、大きな鳥は空を飛んでいたのにいきなり急降下をした瞬間ザッザッザッザッと大きな音が聞こえた。

(もしかして、森の奥に落ちてしまったのかしら)

 私は心配になり寝室を出て階段を降り蝋台に蝋燭を差してマッチで火を付けて持って家を出る。 昼間の森の奥は太陽の陽射して明るいけれど夜は蝋燭かないと辺りは真っ暗で何も見えない。

「大きな音がしたのはここら辺のよな……」

 今日は満月の明かりが少し森の中を照らしてくれている。 

 森の奥を進んで行くと男性が大きな木の幹に寄りかかるような形で倒れていた。

 私は慌てて男性の元に駆け寄った。

「あの、大丈夫ですか?」

 すると男性は唸り声をあげた。

「あぁ、うっ……」

 男性は右手で何処かを抑えている。 サラーナは男性の右手の近くに蝋台を向けると肩を怪我していた。

「早く、手当てをしないと。 あの、歩けますか?」

「あ、歩けるが立たせてくれ」

 私は男性の手を取り立ち上がらせた。

「私に少し寄りかかって、私の家がすぐなの。 怪我の手当てをしないと」 

 ゆっくりと歩きながら家に着きそのまま寝室へ向かった。

 静かに寝室に入ると男性は眠っていた。 ベッドサイドに水差しを置いた途端に男性が唸り始めた。

「う、うっ――」

「だ、大丈夫ですか!? 他にまだ痛いところが・・・・・・」

 他の怪我の確認をしようとしても男性は目を開けない。 

「あ、そうだ」

 サラーナはふと頭の中であることを思い出した。 生前お母様が私が体調が悪い時に手を握ってくれていたのを思い出した。

(いきなり、手を握ってしまってごめんなさい。 でも今は我慢をして)

 心の中で呟きながらサラーナは両手で男性の左手をそっと握った。

 男性は痛みが引いたようで静かな寝息でサラーナはホッとした。

「よかった」

 サラーナは男性の手を握りながらベッド寄りかかるようにして眠りについた。


 ***


 うっすら目を開けると見慣れた場所ではないことはすぐにわかった。

 起き上がろうとすると左肩に痛みを感じ上半身は裸で左肩には手当てされていた。

 そしてベッドのサイドで見知らぬ女性が俺の手を握って寝ている。

 少し左腕を上げようとしたら痛みで声が出てしまった。

「うっ――」

 すると俺の声で女性が目を覚ました。

「んっ――。 あっ、起きたんですね。 おはようございます」

「――おはよう。 それよりも手をどかしてくれないか」

 サラーナはそっと男性の手を放した。

「朝食をお持ちしました」

「ありがとう」

 男性の膝の上にトレーを乗せてサラーナはベッドサイドの机の上で朝食を食べることにした。

 二人は一言も話さずに野菜スープとパンを食べ終えた。

「ごちそうさま。美味しかった」

「ありがとうございます」

 男性に「美味しかった」と言われてサラーナは素直に嬉しかった。

 食器を片付け終えてから男性の怪我の様子で一度白い布を解いてガゼを取った。

「よかった、血は止まっていますね」

 消毒をしたいけど男性の身体には土や血で汚れている。

「身体を布で拭きますか? それとも、シャワーしかないんですけど身体を洗いますか?」

 サラーナの質問に男性は「洗うが着替えがない」と言った。

「着替えは私のお父さまの服でよければいいですよ」

「ありがとう」

 男性を浴室まで案内をして男性が出てくるまでにタオルと生前お父さまが着ていた衣類を用意した。

 昨夜は暗くてよくわからなかったけれど、男性は長身にセピア色の髪で青みかかった瞳をしていて美貌。

 浴室から出てきた男性は下は身に付けてはいるが上は着ていなかった。

「ごめんなさい、昨日あなたが唸されていてその・・・・・・手を握ったら落ち着いたので」

「昨夜にそんなことがあったとはわからず、すまない」

 サラーナは立ち上がって小窓のカーテンに触れた時に大きな声で「開けるな!」と言われて身体がびくついた。

「あ、すまない。 いきなり大声を出してしまって」

「いえ、あの。 部屋の電気は付けても大丈夫ですか?」

「ああ、大丈夫だ」

 サラーナは電気をつけて男性の元へ近寄った。

「怪我の方はどうですか? 他に痛い所はありますか?」

「まだ、左肩は痛むが他は大丈夫だ」

 目視で見る限り肩や腕の至る所に赤紫のあざができていた。

「赤紫のあざは本当に痛くはないんですか?」

「痛くはない」

 男性の言葉にサラーナは話しを続けた。

「お腹は空いてますか?」

 すると男性は「……ああ」と答えた。

「今から朝食の準備をしてここに持ってくるので待っててくださいね」

「わかった」

 男性の言葉にサラーナは急いで寝室を出て階段を降りてそのまま玄関の横に置いてある鎌とザルを持って家を出て畑に向かった。

 畑には旬な野菜を小さな畑で育ててそれを城下市で野菜を売って自給自足をしている。

「簡単に作れて、食べやすい朝食がいいよね」

 キャベツ、カボチャ、トウモロコシ、ミニトマトを収穫して家へ戻りすぐに朝食の支度へ取りかかる。

 トマトを使った野菜スープを作りパンを用意した。 サラーナはトレーの上にふたり分の朝食を持って寝室へと向かった。

「手当てするものを用意するので少し待っててください」

 男性をベッドに座らせて急いで必要なものを用意をして寝室に向かう。

「今から怪我の手当てをしますので寝巻きの上着を剥いでくれますか?」

 男性は左手で上着のボタンを外そうとするがなかなかボタンが外れない。男性は私の目を見ながら言ってきた。

「……ボタンを外してくれないか」

 サラーナは男性にお願いをされて無言で男性の上着を脱がせ思わず驚いてしまった。上着を脱がせた男性の身体は鍛え上げられた身体をしていた。

「今から手当てをしますけど我慢をしたくださいね」

「わかった」

 消毒液を怪我したところへかけると男性は「うっ・・・・・・」と唸り声をあげた。

 痛々しい怪我は少し傷口が深く菌が入らないように念入りに素早く消毒をし傷口をガーゼで塞いで白い布で覆う。

「これで大丈夫ね、何か上着を着て寝ないといけないわね」

「このままで大丈夫だ」

「わかりました。 では、このままベッドで寝てください」

 私は手当てしたのもを片付けるために寝室を出た。

 階段を降りながら私の頭の中には大きな羽の鳥のことが気になっていた。

『大きな鳥は大丈夫かしら、怪我をしてないといいけど』

 そう思いながらも手当てした男性をひとりにするわわけにはいかない。

 サラーナは水差しにお水を入れ蓋がわりにグラスをかぶせてから寝室へと向かった。

「上着、もしかして着れませんでしたか?」

「ああ」

「急いで手当てしますので寝室に行きましょう」

 男性と一緒に寝室へ行きサラーナは怪我の手当てをしながら恐る恐る聞いてみた。

「あの、あなたの名前と昨日の夜どうして森の中で倒れていたんですか?」

「俺の名はサグイス。 飛んでる途中にいきなり力尽きて落ちた」

「サグイスさま」

 そういうとサグイスはサラーナに「サグイス。 それと普段通りに話してくれ」と言われた。

「私はサラーナ」

「サラーナ」

「はい」

「素敵な名前だな、それい黒茶色の髪にオレンジ色の瞳が綺麗だ」

「ありがとう」

 お父様、お母さ様以外に名前を呼んでもらって心の奥がドキッとした。

「それで、サグイスは夜に空を飛んでいて力尽きて怪我をしたってこと?」

「そうだ」

 そい言いながらサグイスは昨日までの出来事を話してくれた。
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