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第3話「終わるユメと君と。」

崩れるユメ。

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「…これ」

 春弥はそっと袖を捲くって俺に腕を見せる。
 春弥の腕には1と数字が書かれていた。
 書かれていた、というよりは刻まれていると言った方が正しいかもしれない。

「これ、なんだ?」

「僕も途中で気づいたんだ。これに気がついたときには数字は30って出てた。この数字がここに来るたびに1ずつ減ってるのを見て、この夢を見ることができる回数なんだって気づいたんだ。数字のカウントが進むたびに自分の体が時々ブレるのがわかった…だから、きっと明日からは……」

 春弥はその先の言葉を、呑み込んだ。

 この夢がどういう仕組みになっているのかわからないが、1ということは今日が最後ということで。

「だから、会えないってことかよ…?」

「うん…」

 その言葉を最後に俺たちの間から会話が消える。
 お互いの息遣いと風の音だけが耳に届いていた。
 それでも春弥は絞り出すように口を開いた。

「短い間だったけど、凛空といられて楽しかった。体が弱いせいでスポーツなんて出来なかったから、一緒に遊んでくれて本当に感謝してる。今まで、ありがとう。この先も凛空の幸せを一番に願って───」

「だったら、俺が春弥に会いに行く!」

「え?」

「俺が現実で春弥に会いに行けばいい!それだったらなんの問題もないだろ!」

 そう、夢で会えないなら現実で会いに行けばいい。
 俺が春弥を大切に思っていることに変わりはないし、好きな気持ちも消すことなんてできない。
 春弥が現実に存在するなら俺が夢を飛び越えて春弥に会いに行けばいいだけだ。

「そんなの、出来ないよっ…僕は凛空には会えない…!」

 だが、意外にも返ってきた言葉は否定だった。

「なんでだよ…やっぱり、夢で会っただけの相手なんかに会いたくないってことか?」

「そうじゃない…そうじゃ、ない」

「だったら───」

「僕、急性骨髄性白血病なんだ…だから、きっと凛空のこと、幸せになんてしてあげられないし、迷惑しかかけないし、もしかしたら……」

 春弥がその先を言えないのは、死というものを想像しているのだろうか。
 その顔は目を逸らしたくなるほどに暗く、青い。

 俺は見ていられなくなり春弥の側に寄るとその体をそっと抱きしめた。
 春弥の体は寒気を覚えるようにガタガタと震えていた。

「…凛、空」

「それでも、お前に会いたい。たとえ春弥が体に何かを抱えていても、春弥がどんなに俺を拒絶してもそれでも俺は春弥が好きだから…だから、俺が春弥の心の支えになれないか…?」

「……ふ…っ、ぅ…、……っ」

 春弥はそろそろと俺の背中に腕を回して抱き返してくると堰を切ったように俺の肩に顔を押し付けてしゃくりあげた。

「僕も、凛空が好き…っ、凛空と一緒に…生きていきたい……っ」

「うん…。そばに居る。必ず、春弥に逢いに行く。その時にはもう一度、告白、させて」

「うん…、待ってる…凛空のこと、待ってる……っ」

 春弥から離れて俺はその涙で濡れた顔を服の袖で拭いてから春弥の唇に自分の唇を重ねた。
 手に触れている春弥の手に優しく指を絡めて握りしめる。

 次の瞬間、目の前が真っ暗になった。

 夢から覚める瞬間のあの暗闇。
 だけれど、いつもより長く感じた。

 そして、いつもと違うのは、俺の耳に春弥の声が、手に春弥が手のひらの感触があることだった。

「凛空。ありがとう、僕と出逢ってくれて。ありがとう…」

 そう言って春弥は俺の手のひらに何かを握らせた。

「はる───」

 言葉を紡ごうとして、それは声にはならず、ぷつりと糸が切れるように途切れた。
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