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しおりを挟む「おはようございます、ナオ様」
「……ん、……おはよう」
ジョンさんの声で目が覚める。
カーテンが開けられた窓から日が差し込んでいる。
最近はレイが起こしに来てくれてたから変な感じ。
あぁ、そうか。
昨日気を遣わないでいいって言ったから、もう来ないんだ……。
「ナオ様、早速ですがお伝えすることがあります」
霞む目を擦りジョンさんを見ると、何時に無く真剣な顔をしている。
何か、嫌な予感がする……。
「本日からしばらくの間レイモンド様にはお会いできません」
「えっ、」
「お部屋にも近付かないで下さい。それから、騎士団での訓練もお休みして下さい」
「っ」
あまりのショックで声が出ない。
うそ……。
覚悟はしてたけど、ここまで……?
顔に出ていたのだろうか、ジョンさんが悲しそうな表情でこちらを見ている。
「あ、あぁ、分かった」
「ナオ様……」
「そんな顔しないでよ、ジョンさん。俺、平気だから!」
ジョンさんは余計に顔を歪め、黙ってしまう。
俺は、しんみりとした空気が余計に辛くて、とにかく何かを話そうとする。
「あのさっ、俺は部屋から出ない方がいい?」
「いえ、レイモンド様は騎士団の寮で寝泊まりされますので、お屋敷の中では普段通り過ごしていただいて大丈夫です。ただ、再度申し上げますがレイモンド様のお部屋には絶対に近づかないで下さい」
「そっか、わかった……」
屋敷に帰って来ないのは、俺を避ける為だよね?
それに、騎士団での訓練にも行っちゃ駄目って……。
昨晩考えたことが、思ったより早く起こってしまうかもしれない。
俺には、まだこの世界で生きていける程の実力がない。それに、お金も。
平気そうに繕うのはやっぱり無理かも……。
「ねぇ、ジョンさん。俺、これからどうしたらいいんだろう……」
「……レイモンド様次第としか言いようがありませんね」
そうだよね……。
ジョンさんはレイに使えているんだから、レイの指示に従うしかない。
「私に出来る限りの事はしたいと考えております。何なりとお申し付け下さい」
「うん……ありがとう、ジョンさん」
俺は、結局その日1日部屋に籠った。
食事をジョンさんが部屋に運んで来てくれたけど、喉を通らない。
気分転換に何かしたらどうかと提案されたが、そんな気にもなれなかった。
・
・
・
翌朝、目が覚めるとソファー上にいた。
いつの間にか眠っていたようだ。
少しだけ軋む体を伸ばす。
昨日1日ショックから立ち直れなかったけれど、今日はまだましな気分。
いつまでもウジウジしてちゃ駄目だよね。
────俺にあるのは膨大な魔力だけ。
せめて、それを磨いて使い物になるようにしないと。
最近はエリクやロジャーと訓練をしていたお陰で、大分良くなってきた。
しかし、まだまだ簡単な魔術しか使えない。
何か、仕事になるような……お金になるような魔術はないのだろうか?
……書庫に行って魔術の本が無いか探してみようかな。
そうと決まれば、エネルギー補給からだ。
コン、コン、コン
「おはようございますナオ様」
タイミングよく部屋にやって来たジョンさんに声をかける。
「おはよう、ジョンさん。今日はちゃんと食べるから、いつも通りの食事をお願いできる?」
少しでも食べやすいようにって、流動性のあるものや、果物なんかを昨日は用意してくれてたんだ。
ジョンさんの垂れた耳が、ピクッと持ち上がる。
「はいっ、かしこまりました」
嬉しそうな顔をしてカーテンを開ける。
やっぱり落ち込んでいる姿は見せちゃ駄目だ……。
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