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番外編 救済と贖罪

【後日談】魔導士会に貢ぎたい(1/2)※ーーーセオ

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その難解な依頼は、定期的に連絡をしてくれるオーレンが持ち込んだものだった。

「ナナフル?…ってあの、ちょっとドロッとしたやつ?」

「そうだ。ロイズバリドの伝統食で、牛の乳を原料に、メスミアで風味づけをし、コートリスでとろみをつけたものだ。セオ、神の愛し子。君に聖国ロイズバリドで鳥の曜の礼拝時に提供する、ナナフルの製造を頼みたい」

そう朝の牛舎の宙に浮かんだ画面の中で無表情で頷くオーレンに、俺は呆然と呟き返した。

「ナナフル…」

故郷の伝統食らしいが、俺はそのナナフルを食べたことがなかった。




「セオ社長ー、またロイズバリド便ですよー」
「あっ、届いた!?ありがとうございますダスティンさん。不良品は…毒はなさそうですね、見た目だとコレかな?ピンク色。変色だけかな?」
「これも一応やめておいた方がよさそうですね、黒いものが浮いてます」

「う~ん…この転移陣の不良品さえ何とかなれば、一気に全世界に進出して、商品の値段も下げられるんだけどなぁー…」
「全員過労死するので人増やしてからにしてくださいね」

俺はいつも秘書っぽいサポートを買って出てくれている副社長のダスティンと、ロイズバリドから転移陣で届けられた瓶詰めのナナフルを検品していった。

転送陣は昔からある魔法陣らしいがその転移はかなり不安定で、人を送るのは非常に危険らしい。

遠く離れたロイズバリドに転移陣で様々な乳製品を届けるようになって三年ほど経つが、一割くらいは不良品みたいになってしまう。
味や見た目が変わってしまったり、パッケージの破片が混ざっていたり、パッケージシールのプリントが文字化けしていたりと…そういう状況を目の当たりにすると、とても人では試せるものじゃないなと思う。
食べ物でもかなり微妙ではあるが。

一応魔導研究部では長年改良を重ねているらしい。
ちゃんとロイズバリドでも検品をしてもらっていて、その状況をオーレンから聞き取った俺は魔研部にも簡単な報告書として上げている。
早く転移陣が完璧な形になるといいな。

不良品を弾き終えて、俺はダスティンに伺いを立てる。

「これまたみんなでお昼に試食したいんですけど、大丈夫そうですか?」
「甘いんですか?ならデザートに良さそうですけど…冷やしておきます?」

「それが食べたことなくて…やっぱり今ちょっと味見しよう」
「え?ちょ…社長…?もしかして食べたこともないものの製造を請け負ったんですか?」
「う…っ」

転移陣の前でしゃがみこみながら、ダスティンが明るい茶色の瞳を丸くして俺を見る。
頬が紅潮し始めるが、人を上目遣いで見てはダメだといつもアークに叱られるので、俺は俯いた。

「だって…いっぱいお金くれるって…約束してくれたし…も、儲かりますよ…?」

「社長ーーーッ!!!」

ダスティンはその赤髪を沈めていき、ついに大きな身体で瓶詰めのケースに寄りかかって絶叫した。
いつもこんなんでごめん、ダスティンさん。




「えー皆さまお忙しい中お集まりいただきありがとうございます。社長がまたいつものように買収されたので、魔界の地に突如出現した謎の桃源郷・ロイズバリド聖国に伝わるという更に謎な伝統食、ナナフルの試食研究会を始めたいと思います」
「よろしくお願いします」

ダスティンが急遽集めた人出は、牛舎と工場で手が空いていたり、少し遠出の配達を終えて戻って来たロスディア乳業の社員たちである。魔導士会からも出向してもらっているが、今回は捕まらなかったらしい。

他の新商品のプロジェクトを抱えているメンバーの顔色はあまり良くはないが、その辺の選出はダスティンが年の功でちゃんと配慮してくれるので、大丈夫なはずだ。

俺の前にはオーレンから聞き取ったレシピと、数種類の材料が置いてある。試作品はここで一気に作ってしまうつもりだ。

「社長が魔法で毒物検査は行いましたが、転移品なのでアタリには気をつけてください。いつものように黄色い皿が常温、赤い皿が六十度、白い皿が十度、青い皿がマイナス二十度に設定されています。お手元の報告書に感想を書いて私に提出してください。それでは試食をお願いします」
「お願いします」

ダスティンの横で頭を下げるだけの俺は申し訳なさに身を縮めながら食堂を見渡した。
すると社員たちからはいつもながらにしげしげと眺められた後、諦めたような深いため息をつかれる。
無茶な仕事ばかり取ってきて大変申し訳ない。

俺も早速試食しようと小さなスプーンで目の前の白いドロドロを掬う。
見た目はヨーグルトなのだが、匂いがまるで違うのだ。
いち早く口をつけた社員たちから声が上がる。

「ん…?これ…酒かな…?」
「え?酒?」
「あ、ホントだ。牛乳で作った酒みたいな…ボトンガみたいな味しますね。南の方の。僕は冷たい方が好きかなー」
「うー、自分は苦手ですこれ」
「ん?どれも美味いんじゃないか?凍らせても美味い。でもこっちはもう少し甘くてもいいかな?」
「うぇっ、まっず!くっさ!これアタリだ!」
「おっ、どれどれ…」

ワイワイと意見を出し合いながら、一部で不良品に盛り上がっていたのでダスティンが回収に向かう。
俺も味わうために口の中で転がしてみると、パンのような香りがして、少し鼻に抜けるような喉が焼けるような、まろやかな甘みとピリピリした刺激がある。

「へぇ…」

ペロリと舌で唇に残ったものを舐めとる。熱い感じは慣れないが、香りは最高だ。
美味しいかもしれない。
一口ずつ味わいながらスプーンで攫ってしまうと、ナナフルはあっという間になくなってしまった。

「これがお酒の味かぁ~…」
「セ、セオ社長…?もしかして、お酒を召し上がったことが…?」
「ん?ないです。ダスティンさん、美味しいですね、これ…ちょっと…癖になりそうな…ね?」
「そ、そうですね…?」
「ん、じゃあとりあえず、作ってみますね!」
「大丈夫ですか?酔ってないですよね?」
「え?…ええ、多分、大丈夫だと思うんですけど…ダメですか…?酔うって、本当にあるんですか…?」
「いえ、大丈夫です…」
「ふふっ…」

心配するダスティンに微笑んで、俺は早速レシピを元に試作品を作っていった。
ダスティンはそれを眺めながらもプロジェクトメンバーの選出をして打診していた。

「…砂糖と、メスミア酵母を、まーぜまぜ。そんで、時間が、一週間…『時よ、早まれ』ふふふーん、きっかり一週間!」
「…あの、本当に大丈夫ですか?」
「え?大丈夫ですよ?コートリスーをえいっ、まーぜまぜ…はいっ、できました~!どうかな~?」
「あっ、そっちの試食は私が…!」

さっさと完成品をよそってペロリとスプーンを舐めれば、ダスティンが心配して手を出してくる。

「え?…ダメ?俺、何かおかしいですか…?」
「いえ、おかしいというか…おいしそうというか…」
「うん、んふふ、おいしいですよ~、はい、ダスティンさん。俺の初めてのナナフル、食べてもらえますか?」

皿に盛って差し出し、首を傾げて笑いかけると、ダスティンは頬を赤くして受け取ってくれた。きっとダスティンの方が酔っているんだと思う。
そこへ最近急に真面目になったと評判のマーレイが近づいて来て、ダスティンに何事かを耳打ちした。

『副社長、エマージェンシーコールしますか』
『いや待てマーレイ、あの人にあまり入り浸ってもらっても困る。他の社員たちが寄りつかなくなるからな…』「ごほん。…ともかく社長、これ以上あなたの試食はいいので、試作品だけは完成させてしまってください」

「はい!ふふっ…いつもありがとうございますダスティンさん。マーレイくんも…ウチに来てくれて、真面目に働いてくれてありがとう。俺、ロスディア乳業を始めて…皆さんに出会えて本当に良かった。商売は人の縁…働くってこんなに幸せなことなんですね。まさに相互利益…。みんなで頑張って、たっくさんお金儲け、しましょうね!そしてメイスンで暮らす人たちも、魔導士会の人たちも、世界中の人々が、経済力と政治力を身につけて、自分たちの国を平和に守っていけるように…お金の力で、世界を平和にしましょう!」

「は、はい…」
「まーぜまぜ~」

それから俺は、鳥の曜の聖国ロイズバリドの礼拝に相応しいというオーレンイチオシの、光る虹色のジュレがトッピングされたナナフルの製作に勤しんだ。




「…連絡が遅い」
「すみませんでしたーッ!!」

ロスディア乳業の事務所にしている社屋に、なぜか俺の最愛である夫のアークが現れていた。
しかもそのアークに向かってダスティンやマーレイが謝っている。
気がつけば時刻は午後になり、もう少ししたら終業時刻で、マイセン支部の生活研修室でのお迎えの受付が始まるかなという頃合いだ。

ロスディアよりも多少気温が低めのマイセンで、黒一色の衣装には違いはないが、アークは俺が冬用にと買った厚手のマントと襟巻きを身につけてくれていた。
たっぷりと重力に落ちる感じのマントがまた違った雰囲気でかっこいい。我ながら最高の買い物ができた。

俺はその中に入り込みたい気持ちを必死に抑えながら、おずおずと最愛のアークに近寄った。

「えっと…?アーク…?どうして?まだティオのお迎えまで、時間あるよね?今日も俺の番だったよね?」
「…ああ。ホーレイ草が上手く育っていなくてな。別に食いたくもないし、ゴリシシだけ拾って来た」

そんないつも通りの返事を聞いて、俺はケラケラ笑った。

「ふふふ…っ、もう、アークは野菜が嫌いなんだから…かわいい…すき…変なの…いつもかっこいい…んー…ふふっ、あれ?なんだろ?んー…ちゅ…っ、だいすき…」

「…どうしてこんなになるまで放っておいたんだ」
「あー…その…今回のは社長にしかどうにもできない案件でして…」
「はい…でも…すげーっすね…いや本当に。今の今までもっと大丈夫だったんですけど…」

ダスティンとマーレイは頭を掻きながら小さくなって弁明している。
俺はそんな会話が不思議で仕方なかった。

「アーク…?ダスティンさんとマーレイくんは、今日も働き者ですよ?でもティオは?おむかえ行こ?かわいいティオ…まだ早いかな…生修室楽しいのかな?さびしい…」
「まだ早い。それよりお前はどうしたんだ?まるで魔力あたりのようだぞ?」
「まりょくあたり?」

そう言われて、おおそうかと頷く。

「魔力あたり!おれ、今魔力あたり!」
「ああ」
「はあ…すき…アーク管理官…永久に保存したい…尊い…」
「…ああ」

『アレを“ああ”で流す精神力…』
『やめよう。俺たちとは次元が違う』

アークが目の前にいるのが嬉しくて、俺はなぜかその時、自分が会社の建屋の中にいることすら認識していなかった。
マントの中に入ると、とてもあったかくていい匂いがした。




「ん…すき…あのね、はい、おみやげ…」
「何だこれは」

俺は家のベッドに運ばれていた。
何かがおかしい気がしたが、ひとまず今日できたての試作品を献上する。牛乳瓶より少し太めの瓶に入れたナナフルだ。
ちゃんとシールもトラスレットでザックリとデザインして魔法で焼き付けてある。

「ナナフルっていって、ロイズバリドの伝統食なんだって。俺は食べたことなかったんだけど、すっごく美味しかったよ」

「ソレの原因はコレか…だがなぜ七色の光を?」
「さあ?何か礼拝で配るらしいよ?」
「それは…後々…じっくりと話を聞かせてもらおう…」
「ん…っ、わあ…っ、ちゅ…ふふっ」

軽い口づけはどんどん深くなって、俺はすっかりその気になってしまう。
いやアークが迎えに来た時から妙にムラムラしていたのだが。

「あの、でもティオ…」
「今日は俺が行くからいい」
「…本当に?その…今…してもいい?」
「むしろしないと行けない」

アークはそう言いながら俺の作業着のボタンを外しにかかる。
俺もアークの服を脱がせ始めた。マントはもう脱いでしまっていたので、黒いシャツをまくり上げる。最近アークは七分袖のTシャツを愛用している。Vネックが忍者っぽい。

「わあ…っ、嬉しい…アーク…大好き…アークのおちんちん、ぺろぺろしたい…」
「…暴発するからダメだ」
「いじわる…たくさんピュッピュすればいいのに…ふふっ、はあ…、アークの汗、おいしいね…」

色っぽい首元を舐め上げながらそう強請るが、いつもあまり色良い返事はもらえない。
俺はアークのシャツの袖を抜き取らせて、我慢しきれずにアークの腹筋に自分のモノを押しつけた。
ゴリゴリと固い肉感が気持ちいい。

「んちゅ…はあ…っ、すき…、アークの…早く、食べさせて…?」
「ぐ…っ、では、ちょっと退け」
「はあ…だめ…、アークの首…おいしぃ…はあ…っ、おちんちん…なめたい…」
「はあ…っ、くそ…っ」

首筋を裏筋に見立ててネロリと舐めしゃぶる。喉仏を唇で食んで、本当は玉袋も食みたかったなーと思う。

自分の尻に浄化と水魔法が合わさった愛汁魔法をかければ、アークを食べる準備は万端だ。

俺はアークの身体に覆い被さって、すっかり大食らいになってふくふくと柔らかく変形してしまった肛門を広げた。

「ちゅ…たべていい…?」
「いや、少し…待て。これだと動きにくい」
「ん…いつもの?」
「…ダメか?」
「ううん…俺もアレ一番すき…」

結局俺はベッドの上に転がされて、いつもと同じく腰を高く持ち上げられる。アークはその真上から俺の尻に肉棒を当てがうと、体重をかけて一気に奥まで突き挿して、俺を押し潰した。

「んんんーーーッ!!」

濡らしただけで慣らしてもいないが、ゴリゴリと中を削られてブチュンと最奥に入り込まれると、もうあふれ出る幸福感でどうにかなってしまいそうだった。

「ああ…っ!んぐ…っ、はあ…っ、はあ~…、あぁ…、ふぅ~…っ」
「く…っ」
「はあ…っ、ああ…っ、はあっ、ん…っ、うふ…っ、ん…、はあ~…」
「はあ…っ」

アークは俺を獰猛な目つきで見下ろしながら、何度も体重をかけて奥まで激しく押し潰してくる。
その重みが愛しい。
苦しさまでがすっかりとろける快感に変換されて、腹の奥にできている卵の殻がゴリッと押されてしまう。

「あ…、るぁ…め、たまご…、おして…りゅ…、はあ…、たまご…」
「はあ…っ、ここか…?殻は、強い…、肉では、割れん…っ」
「ああ…ッ、りゃめ…、はあっ、はひ、らぃしゅきぃ…っ、あーきゅ…しゅきぃ…」
「ああ…セオ。愛してる…っ」
「はひぃ…、あ…ひ…」

幸せ。

そのあまりの多幸感に、俺は多分いつも通り泡を吹いて失神したんだと思う。




「おかーさま、おきたー?」
「ん…」

ティオの愛らしい声で目が覚める。
部屋の中には肉を焼いた匂いが充満していて、そういえばゴリシシを拾ったとか言っていたなと思い出す。
同時に自分が会社で犯した失態も思い出してしまい、俺は一気に青褪めた。

起き上がってすぐガックリと手をついた俺の背中に、ティオがよじ登ってきてお馬さんごっこをさせられる。
愛の営みで腰が抜けるようなことはなくなったが、やはり起き抜けはつらい。

「はあ…おきた…お父さまは、ごはん…?」
「うん!ごはんですよ~」

ゴリシシはかなり獰猛な魔獣と言われる害獣のはずだが、アークはどんな獣もヒョイと仕留めてポイと魔導背嚢に入れ、何事もなかったかのように畑の草を抜いていくのだ。
畑の草むしりだけは魔法ではどうにもならないらしい。

この世界にはあまり安全な農薬がないので、地球に調べに行きたいなと思ってしまう。
でもこの身体はもう普通の人間なので、魂が抜けてしまうとどうなるのかわからなくて、実行には移せていない。

「ひひーん…」
「もー!ぜんぜんはやくないー!」
「もーもー…」
「もーもー!うしさん!もー!」

家は俺がどうしても土足は慣れないからと頼み込んで、アークに玄関を増設してもらっていた。
ロスディアではかつての御子たちの影響で土足禁止の家が多いのだが、マイセンでは土足の家が多い。

のたのたと居間まで這っていくと、今日もかっこいいアークがツヤツヤした顔で振り返った。黒いシャツの背に結わえた銀の髪が揺れる。
ああ、この姿もフィギュアにしたい。

「…大丈夫か?ティオ、セオに無理をさせるな。二日酔いにはなっていないか?」
「はい…いつも好きです」
「ああ…まだ残ってるな?言葉が戻ってるぞ」

アークは俺が丁寧な言葉遣いをするのが好きではないらしい。
年上にばかり囲まれて過ごした昔の癖でたまに出てしまう話し方を呑み込み、俺は口元を押さえた。

「あ、ごめん…つい。かっこよくて…」
「もー、しかたないなぁ」

ティオのこれは最近の俺の口癖の真似らしい。自分では言ってるつもりがなかったので驚いたものだ。
ティオが俺の背から降りて身体が軽くなる。もうすぐ六歳なので結構重い。
この重さもまた愛しいのだが。

「美味しそう、いただきます」
「あ、おかーさま、またやってるよ!」
「おっといけね。へへ…えっと、ありがとうねアーク。その…食べる」
「ああ」
「たべるー」

日本に居たのは短かったはずなのに余程印象深かったせいか、加藤さん肝いりで仕込まれたいただきますの習慣はなかなか抜けない。

アークの作る料理はいつも豪快に肉の塊を焼いて、パンと野菜を挟んだりして食べる形なのだが、焼き方が上手いのかどんな肉も絶品だ。
塩をかけただけでも美味しいし、俺が作り置きしている各種のソースをかけても美味しい。

アークは大きな肉を俺とティオ用に薄く切り分けながら、薄っすらと微笑んだ。

「ほら」

俺の最愛が最愛すぎる。
肉を切り分けて渡してくれるバージョンのアークが一分の一フィギュアで欲しい。

「ありがとう」

俺がうっとりと見つめて受け取ると、アークはまた苦笑のような笑みを浮かべて席についた。
しかしその笑みは、食事を進める内に徐々に険しく曇ってしまう。

「…ところで…あの狂信者のことだが」
「オーレンが?どうかした?」

パンで皿の肉汁を攫いながら問いかけると、ティオが可愛らしく爆弾を放り投げてきた。

「オーレン!おかーさまのシモベ!」
「ちょ…っティオ!?しもべじゃないだろ?オーレンは友達だよ!」
「でもオーレンいってた!『コイのチがつっつくカギに、わたしはきみのシモベだ』って!」

「いやあれは、『この命が続く限り』って言ってたんだって!…あ」

うっかりティオの間違いを訂正すれば、機密性は高いはずの造りの家にヒュウと隙間風のような風が吹いた。
その風上を窺い見れば、アークは彫りの深い目元に更に影を作って俺を睨みつけている。

「…どういう意味だ」

超低空飛行で飛んできた声音は、敵を仕留める鷲のような鋭さを孕んでいた。

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