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番外編 救済と贖罪

【番外編】魔導士会はやめられない(1/2)ーーーフィリップ

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運動場での魔法実技の授業を終えると、数人の若者たちが少し興奮した様子で私の周りに集まって来た。

「フィリップ先生~、先生ってあの『神の落とし子』の先生だったんですよね?どんな方なんですか?」

私はまたかと苦笑して、もう何度目かになるやんわりとした人物像を答える。

「そうですね…少し頼りないところもありますが…真面目で、優しい子ですよ」
「お、ってことは噂通り可愛いのか~!」
「天使が恋に目覚めた感じって聞いたことあるんですけど、何なんですかそれ?本当ですか?」
「てかさ、フィリップ先生もその人のこと狙ってるからまだ独身なんじゃないの?確か特務管理部?の人と結婚したんだよな?でも先生なら全然イケるって!ってか俺も見に行っちゃおっかなぁ~」

この手の話に若者たちは敏感だ。
次の講義へ向かおうとしていた生徒たちまでもが足を止めて、私の返事に聞き耳を立てていた。
私は少し顔を強張らせながら大げさに手を振ると、肩をふるりと震わせた。

「とんでもない…!あの子は死神しか眼中にないですよ。それに何より、あの死神は嫉妬深いですからね…その上容赦がない。あの子狙いで家に来た者は屍も残さないとか…。そういえば…最近妙に、行方不明者が多くないですか?」
「えっ」
「ちょ…特務ってそこまですんの…?」
「はは、まさか…」

今日の私の表情は良かったのか、生徒たちは一気に青ざめて驚いた顔をしてくれた。
悪戯盛りの若者たちはこうしてちょくちょく脅しつけておかないと、のちのち厄介なことになりかねない。

「ぶ…っ、ふふふっ…!冗談ですよ。しかし彼らは世界を救った英雄ですからね。彼らに対する迷惑行為はさすがに七賢人が黙ってないでしょう。君たちがはた迷惑な蛮勇を試すような真似をしないことを願っていますよ」

からかった上にそう説教を垂れれば、若者たちはすぐにへそを曲げてしまった。

「うわくそ、引っかかった!」
「なぁんだウソかあー!」
「センセー性格悪くね?」
「けっ、感じ悪ぃ…」
「お前今ビビってたんだろ」
「なわけねーし」
「おいもう次行こうぜー」

わらわらと仲良さげに群れを組んで去っていく、その大きいだけの幼い背中を目で追う。
まだ戦闘訓練が始まってもいないこの時期特有の生温い空気に、私は心底嫌気が差していた。

この中の何人が、任務の最中に命を落とすことになるだろう。

魔界が無くなって魔物や魔族の被害もなくなったが、それでも魔物並みの猛獣はそこかしこの山や森に住んでいるし、共通の敵を見失ったせいで人同士の争いは激しくなる一方だった。

今も大陸中央部のティルメイアで地方監査官らが襲撃を受け、五人の魔導士たちが拘束されているという事件が起きている最中だ。
それには国際国境防衛隊と特務管理部が救出に向かっている。そのどちらにも何人もかつての教え子たちが従事していた。

魔法が使えるからと言って、魔導士が無敵なわけではないのだ。
強襲されれば反応できないことも多い。
そう考えて、私はまた己の力量を省みもせず、無謀な任務に志願したあの時の自分を恨みたくなった。




あの日。
奇妙な変化を遂げた魔界と、その奥深くで発見したロイズバリド城。七賢人の一時撤退の指示を受けて駐留した草むした草原。
そこに至近距離から突然放たれた大型の魔物用の魔導砲に、私はまるで反応できなかった。

それにいち早く気づいたのはアークと、たまたま私の近くに座って報告書を仕上げていたヤルスだった。

「逃げろ!!!」
「うぐぅ…っ!」

アークは声を上げながらヘルシエフを抱えて走り抜け、ヤルスはとっさに私を突き飛ばして被弾した。

「は…?」

瞠目して身構えただけで動けなくなってしまった私をよそに、立派な体格のはずのヤルスは身体ごと吹き飛ばされていった。

巨体が転がったその先で、赤く抉れた肩に誰かの足が乗る。

「がああぁ…ッ!」

「……一人か。上々だ。アーク管理官、杖をしまうことを推奨する。お前が魔法を放つよりも先に、私はヤルス司令官の頭部を破壊する」

そう冷酷に告げる声は、掟を犯して失踪したオーレンのものだった。




その後すぐに魔封じをかけられてしまったので、私はヤルスに治癒魔法を施すことすらできなかった。

神が生み落としたというセオの神力がなければ、今頃彼の左肩は無くなっていたはずなのだ。

そんな苦い思い出を思い返しながら校内の渡り廊下を歩いていると、背後から柔和な低い声がかけられた。

「フィリップ先生~、今度の考古学展、一緒に行ってもらえませんかぁ?」
「ああ…そういうことならハンス先生にお願いしてください。私は魔術指導の専門ですので」
「で、でもぉ…」

温厚そうに大きな身体を縮めて上目遣いをしてくる彼は、最近妙に懐いてくる新入生だ。

どんな理由であれ頼られて悪い気はしない。
私は小さくため息を漏らすと、その考古学展とやらがどんなものなのか聞こうとしたのだが…。

「起立ッ!!!背筋を伸ばさんか背筋をッ!!」
「ひぃっ!?」

突如としてかけられたバカでかい声に、私は思わず指を突っ込んで耳を塞いだ。

「教官の休日を生徒が消費するとは本末転倒!貴様にあるのは非常識な性欲だけだ!せめて必修課程を修了してから出直して来いッ!」
「は、はいぃっ!!」

温厚な生徒は悲鳴のように返事をすると、渡り廊下を走って逃げて行ってしまった。
私はため息をつきながらも、思わず振り返って彼の無事を確認してしまう。

「ヤルス…防衛部長」
「フィリップ養成副部長、貴様はまだ新人相手にこんな生温い指導をしているのか。健気なことだな」

組まれた腕は健康そのもので、無駄に厳つい身体も何も怪我などないように見えた。
そのことに小さな安堵が生まれる。
彼のことばかりを心配しているわけではないが、それでも自分は少なからず彼の出動も気にかけていたのだと自覚する。

「何か私にご用ですか」
「用事がなければ話しかけるなと?」
「…そこまで言うつもりはありません」
「ふん。どうだか」

そうそっぽを向くが、元々用もないのに会いにくる人間ではないのだ。
いつかの戯言は本気だったのだと今となってはわかってしまう。
私は嫌々彼に向き直った。

「…ティルメイアに拘束された魔導士たちはどうしたのです」
「救出した。ウチが出る前に大ごとに発展してるケースがほとんどでな。あいつが抜けたのがつくづく痛い」
「アークはいつも単独で無茶ばかりしていたようですからね。これが本来あるべき姿なのでしょうが…」
「表沙汰になると不穏分子が活気付くのが厄介だ」

それはそうだろう。
七賢人に頼まれてセオとアークの様子を見に行くこともあるが、たびたびセオからアークののろけ話を聞かされる。

その時聞いた話によると、アークがセオを助け出した際には、王宮の窓ガラスを全て割り、向かってきた王国の兵士をまとめて暴風で吹き飛ばしたそうだ。
完全に管理官の仕事を逸脱している。

だが逆を言えば、それくらいのことをしなければ、魔導士会の対国間交渉は上手くいかないことが多いのだ。

「…あなたは、まだ現場に?」
「後継を育ててはいるのだがな。下手に目を離すと死人が出るだろう」
「ふっ、あなたも相応に生温いと思いますよ」
「部下が死ぬのを見過ごして引っ込めと?」

片眉を持ち上げて睨みつけてくる彼に、私は肩をすくめた。

「…アークのように駄々をこねればいいではないですか」
「俺はあいつとは違う」
「そうですね…」
「だが…貴様が行くなと言うのなら、考えてやらんでもない」
「くくくっ…まさか。言いませんよ」
「そうか…」

肩を落としたようなポーズをとるヤルスに、私は若干鼻白む。

「では私は午後の授業の支度がありますので」
「ぐむ…だ、だが、その…もう昼だろう。メシでも一緒に、どうかと、思ってだな…」
「ふっ、ご冗談を。あなたと食事なんてしたら、私まで広報室の餌食にされるじゃないですか。ご自身の影響力くらい自覚してください。仕事の話がないのならお帰りを。任務に支障を来しますよ」

そう言うと二の句を継げなくなった様子のヤルスを放置し、私は廊下の端の魔術指導準備室に引っ込んだ。

しばらくしてから存在感の大きな足音が去っていく。
私はそれを扉を背にして聞いていた。

彼はたびたびああして冗談めかして、自分に引退を迫るようなことを言わせようとしてくる。
しかし教育養成部の副部長にまでなって毎日若者たちの尻を叩いておいて、一体どの口でそんなことを言えばいいというのだ。

「…言えません」

恨みがましく呟いたその声は、準備室の埃と共に当てもなく宙を彷徨った。




ティルメイアの言い分では、魔界がなくなった今、魔導士会が魔導士たちを保護し続けることは世界の権力バランスを歪めることに他ならず、その魔力は使い方次第で貧困する人々の暮らしを飛躍的に向上することができるのだということだった。

全くもって貧弱国家の主張は聞くに堪えない愚論しか出てこない。

数少ない魔導士を酷使することで得られる富など、貴様らが日々無駄に着飾っている布一枚で賄えるであろうに。

魔導士会での生活は、基本的に個人の豪遊を良しとはしない。
意思決定では頂点に立つ七賢人であろうと、一年そこそこの戦闘訓練を終えただけで任務に就くのを拒絶した引きこもりであろうと、衣食住にかけられる予算は同等だ。

「…ティルメイアのような愚かな国ばかりになってしまえば魔導士は奴隷のように酷使され、魔力切れで殺されるなどということが常態化しかねない」

私がそう愚痴混じりに話すと、別格すぎる問題児だったかつての教え子は、紅茶を置いて物憂げに宙を見つめた。

「確かに、魔法は見た目の印象が強いですからね…。魔法は便利ではありますし、可能性も多いでしょうが…でもそんなものは魔道具も普通の兵器でも同様だし、数を揃えられればすぐにひっくり返されてしまうことだし。そうして誤解されやすい魔導士たちの命を守るために魔導士会は影響力を身につけたのに…。かえってそのせいで他国から恨まれ妬まれている…」

そう言ってセオはけぶる睫毛に彩られた鮮やかな翠色の瞳をうるうると震わせた。
彼はいつも通りの無駄な色気を醸し出して、長年の魔導士会のジレンマを的確に明文化してみせる。

「はあ…その通りです。私は任務をこなすことが魔導士会に貢献することだと今まで信じてきましたが…魔界が消失して五年…。あなたのように世界を俯瞰すれば、私たちは存続の危機に直面しているのかもしれません…」
「そんなことは…。いえ、俺がこんなことを言う資格はないでしょうが…やはり魔界は混沌を見せつけることで、人間社会に秩序を育ませるという面も、少なからずあったのだと…今となっては思います…。でもそれが良いことだったとは思えません。やはり魔導士会は、他国にも魔界にも頼らない、独立した道を歩むべきなのです」

彼は自分の胸に手を当てて私を微かに見上げると、短く切った金髪を揺らして物哀しそうに微笑んだ。
その微笑みがあまりに妖艶で、私も苦笑してしまう。

この子は神の贖罪という名の救済を受けたとはいえ、まだ悩みながらも自分の罪に向き合おうとしているのだ。そのために試行錯誤して、任務でもないのに魔導士会に多額の寄付を続けている。
彼が必死に足掻いて生きる姿に、私も少なからず溜飲が下がる気分がしていた。

「そうですね…。私も、そう思います」

そう頷いたところで、トラスレットで時間を確認する。
さっき来たばかりだが、そろそろ頃合いだろう。

私はその艶やかな頬に手を添わせた。

「師匠…?」

彼の手を取り椅子から立ち上がりながら肩を引き寄せれば、この世の奇跡かと見紛うほどに美しく成長した子はいとも容易く私の腕の中に収まった。

「セオ…」
「あ、あの…っ、離してくだ…」

戸惑いを隠さず私の胸を押し返す力は、結構強くなってきた。毎日重たい牛乳を元気に運んでいるからだ。
そこにタタタタッと地を蹴る気配が近づく。

ドカンッ!!
バタンッ!
ズザザーッ!!

そんな慌てふためいた騒がしい音を聞き届けると、腕の中にいたはずの水色の作業着姿の愛弟子が忽然と姿を消した。
そして視界の端の居間の奥の方から小さな悲鳴が聞こえてくる。

「ぎゃ…っ、えっ?ちょっ、アーク!?ティオが目ぇ回してる!」
「寝ているだけだ。…フィリップ。俺のいない時に家に勝手に入るなと言ったはずだが…?」

「ぶふっ!…くっくっくっく…、ああ…すみません。今日こそ第二の夫にどうかと口説きに来たのですが…ひと足遅かったようです」

「おのれ…!」
「ちょ…アーク!いつもの冗談だって!ていうかフィリップ師匠、なんでいつもアークが来るタイミングが分かるんですか?」

そう言うとセオは担ぎ上げられた肩の上から、アークの銀髪をベシベシと無遠慮に叩いた。
一時は全魔導士から恐れられていた死神も、順調に尻に敷かれているようだ。

「別に。あなたに先ほど牛舎で声をかけた時、慌てた様子で見かけない魔道具を操作している作業員を見かけましたので…アークの息のかかった者が潜んでいるなと思っただけです」
「ち…っ!」
「えっ?誰…?」

私がそう肩をすくめると、アークは小さく舌打ちして、セオはキョトンと目を瞬いてアークに問いかけていた。

「…こいつの勘違いだ」
「紫色の髪の若い子ですよ」
「マーレイくん?アーク、あの子のことすっごい文句言ってたよな?いつの間に仲良くなったんだ?」
「…ちょっとな」
「ふ…ふふふ…っ」

アークがしらばっくれるので、セオは早々に追求を諦め、彼の背中にくくりつけられていた、背負うには大きいような気がする物体に手を伸ばした。

「もー仕方ないなぁ…早く扉直してね。夜寒いんだから」
「はい」
「何でわざわざ壊すんだよ」
「その方が早いからだ」
「いや早さ求めすぎじゃない?ヘルシエフ先生ならわかるけどさ、師匠だよ?」
「こいつの方がタチが悪い。油断していると気まぐれに本気を出してくるぞ」

アークは未だに二十年前の訓練研修生時代に私が奇襲し続けたことを根に持っているらしい。
あれは「強くなりたければ虚勢を張らず、強い者に習いなさい」という恩人からの指導でそうしたのだが、若い時の記憶というのは残りやすいものだ。

「まさか。私はずっと本気ですよ。しかしティオは良く寝る子ですね。これなら夜に多少騒いでも問題ないでしょう。一週間くらい混ぜてもらっても?」
「いいわけあるかッ!!」
「残念…最近のセオは大人びてきて更に危険な色気を振りまいていますからね…どうせ増えるなら早い内にと思ったんですが」
「増えん!!」

そう言えばアークは元々目つきの悪い目を更に悪くして、まさに死神の形相で睨みつけてきた。そしてティオを抱えたセオを大事そうに部屋の入り口の方まで運ぶと、銀の杖を呼び出して扉に蝶番を大雑把に溶接し始める。

これだけ大雑把で適当な人間が、よくも一人の妻にこれだけ甲斐甲斐しくなったものだと内心でひやりとする。

結婚というものは、彼のように任務よりも大切なものを作ることだ。
彼らは早々に引退したが、命を育む結婚生活と命を脅かす任務とを天秤にかけ、前者を選ぶ者は少なくない。そしてやはり母親になったものは特に、戦闘職に復帰することも躊躇うようだった。

大切なものを守り続けるためには、自分自身も守らなければいけないのだ。

「コドル師父…」

守りきれなかったあの方のことを思えば、私はいつだって臆病になる。

「…師匠、フィリップ師匠」
「…どうしました?私に近づいても大丈夫なんですか?」

いつの間にか子どもは別の部屋に置いてきたのか、セオはアークに見つからないようにこっそりと私のローブを引っ張っていた。
アークも不自然にこちらを見ないようにしているようだが。

「もう、師匠は意地悪です!…あの、今度ロスディア乳業で乳製品を使ったレシピを広めるための、試食会をする予定なんですが」
「試食会。それはそれはまた…変わったことを思いつきますね。それも『魔導の御子』の記憶ですか?」
「そういうことになりますかね。それで…フィリップ師匠、ヤルス司令…じゃなかった防衛部長を、誘ってきてくれませんか?」
「…」
「だ、ダメでしょうか…」

思ってもみなかった名前を出されて、少し戸惑う。

「それは…彼に頼まれでもしたのでしょうか?」
「ぐ…っ」

セオは気まずそうに私のローブを揉むと、柔らかそうな唇をふにゅりと歪める。
小さかった彼は少し屈めば丁度良さそうな身長にまで成長した。
もうこの状況は口づけても良さそうなものである。
念のため伺いを立てるか。

「相変わらず可愛いですね…口づけても?」
「えっ!?何でですかダメです!」

そう言って唇を隠してしまう。
この子の人懐っこさと身持ちの堅さはいつもちぐはぐで納得がいかない。

「あ、あのですね…実は…」

そう言ってアークを気にするそぶりをしつつも、性懲りもなく私の肩に手をかけて耳元に心地のいい声で囁いてくる。

「アークの若い時の写真を数枚いただいてしまいまして…」
「なるほど、買収されたのですね」
「はい!商売は相互利益が大切ですから!」

はにかみながらも輝く笑顔で頷かれて、私はすっかり毒気を抜かれてしまった。

「はあ…本当に。君には敵いません。彼もなかなかの妙手を打ってきたものです」
「本当ですか!?やった!ヤルス司令官が師匠に褒められてる!」

「ついでに口づけでもしてくれれば結婚も考えるんですがね、もちろん君とのですが…」
「うわっ!」
「…そこまでだ」

興味の尽きない愛弟子は、扉を直したらしいアークの肩にあっという間に担ぎ上げられて引き離されてしまった。

「残念。厄介な任務を押し付けられたことですし、冥界に誘われる前に今日のところは退散しましょうか」
「帰り道が地獄に続いていないといいがな」
「もうアーク!師匠、またいつでも来てくださいね、あ!これ試食会のお知らせです!」

セオはそう言って作業着の懐から紙を二枚差し出してきた。
この子はなぜかいちいちやることがエロい。

「これは今私が誘われてるのはベッドでは…」
「ない!帰れ!」

セオを担ぎながらも私の背中を押して家から追い出したアークは、直したばかりのはずの扉を叩きつけるように閉めた。
ガコンと間抜けな音を立てて蝶番が外れる。

『セオ!何でお前は紙をいちいち胸元に入れるんだ!?』
『え?だって紙は懐に入れるもんだってカトーさんが…』
『またカトーか…!』

「ふふふ…っ」

トラスレットで送られてくる日々刻々と変化していく魔導士会の情勢を憂いてささくれ立っていた心が、すっかり癒されてしまった気分になった。

セオが酪農家になると言い始めた時は、恵まれた素質があるのに一体何を考えているのかと正気を疑ったものだが、彼が魔導士会の将来を憂いていた通りのことが今起こり始めていた。

「試食会…」

見たこともない小洒落た形に装飾された文字が、ロスディア乳業五周年感謝祭と銘打って楽しげな写真と共に企画の紹介をしている。

失ったものと与えられたものでがんじがらめにされて、身動きが取れなくなっている自分。

彼はこれで何が守れるというのだろうか。

紙の中で見違えるような笑顔を浮かべるかつての教え子を眺めた後、私は厩舎で休ませていた飛竜の手綱を引いた。

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