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白衣の天使編

季節外れの海旅行 5

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 一瞬の出来事過ぎて確信が持てなかった。次の瞬間には真理亜のアタックが二人の間を縫うようにして放たれ、ボールはそのまま砂浜へ着地した。

「ゲームセット! 真理亜さん市ヶ谷チームの勝利!!」

 悠貴が興奮したように拍手している。

「もぉ~! 恭平も鷹峯先生も私のためにもっと頑張って欲しかったぁ~!」

 舞は可愛く頬を膨らませながら恭平の腕に絡み付く。

「真理亜さん最後めっちゃ格好良かったですー!」

「うふふ、ありがとう夏帆ちゃん」

 ビーチバレー対決ですっかり仲良くなった夏帆と真理亜は、ハイタッチで勝利を分かち合っていた。

「……あ~あ、ちょっと油断しましたかねぇ?」

「……そうかもな」

 鷹峯は前髪をかき上げ、ミネラルウォーターを口にしながら恭平に問う。二人とも汗こそかいているものの、あれだけの試合後なのに息一つ乱れていない。

「最初の威勢はどうされたのかしら、鷹峯先生?」

 真理亜が勝ち誇ったようにそう訊ねる。鷹峯はさして気分を害した様子はなく、軽快に拍手してみせる。

「いやぁ~お見逸れ致しました。さすがは経験者だけある。学生時代とても努力されていたんでしょうねぇ」

 鷹峯は新しいミネラルウォーターを一本、真理亜に手渡す。

「……『何事も』このくらい真剣に向き合ったらいかがです?」

「……? 何の事かしら?」

 そのやり取りは、他の者には聞こえなかった。

「……いえ別に? さて、そろそろ休憩にしましょうか」

 鷹峯はさっさと皆の方に向き直り休憩を提案する。午前中ひたすらスポーツに興じていた一同に、異論を唱える者はいない。

「……しかし白熱し過ぎてさすがに疲れたな」

 恭平がちらりと雛子の方を気にしながら告げる。

「あ、それなら午後はウチらが泊まる予定のコンドミニアムで遊びません? なんなら皆さん泊まっていっちゃって良いですし」

「あ、それ良い~! 恭平と鷹峯先生も行くでしょ?」

 夏帆の提案に、すかさず舞が男性二人の片腕ずつを取って頷く。

「私は明日も休みですし構いませんよ。泊まりなら……そうですねぇ、飲み会でもしますかねぇ?」

「げっ……マジかよ……」

 彼はまだ人間関係を引っ掻き回したくて仕方ないようである。本気とも冗談ともつかない鷹峯の発言に、悠貴は顔を引き攣らせ小声で抗議する。

「……たかみーが行くなら俺も行く」

 鷹峯には以前に雛子を泥酔させた前科がある。その事を警戒している恭平も名乗りを上げる。

「私は恭平が運転してくれないと帰れないし、行くしかないかしら?」

 困ったような口ぶりの真理亜も、満更でもなさそうである。

「よし、決まりですね。泊まるのは人数分の料金を払えば了承して貰えると思います」

 こうして急遽、恭平、鷹峯、真理亜、舞の四人も宿泊旅行に参加する事となった。

「俺達三人はコンビニで色々買っていくんで、コンドミニアムのロビー集合で良いっすか?」

悠貴が一年三人で買い出しに行く事を提案する。さすがに先輩や患者にお遣いを頼むのは気が引けるので、このメンバーでは自分達が妥当だろう。

「リクエスト受け付けます」

 Tシャツとホットパンツを身につけながら夏帆も頷く。

「いやでも……」

 恭平が何か言い淀んで再び雛子に目を向ける。皆に背を向け、薬を急いで流し込んでいた雛子は彼の二度の視線にも気付かない。

「ちょっと、アンタ何飲んでんの?」

「はうっ! えっ、し、篠原さんっ!?」

 舞に肩を叩かれ、雛子はビクリと振り返る。皆の視線が自分に注がれているのが分かり、一気に嫌な汗が吹き出る。

(嘘……まさか見られたっ……?)

 心臓がドキドキと嫌な音を立てる。一瞬の間が、まるで永遠のように長く感じた。

 知られたくない。

 その気持ちが、雛子の判断力を鈍らせ言葉が浮かばない。

「はぁ? 何よその反応は? それよ、それ! ちょっと貸して!」

 言葉を詰まらせた雛子の手から、業を煮やした舞がペットボトルを取り上げた。

 「あ、これ新発売のフレーバーティーね。私もこれが良い! これ買ってきて!」

「あっ……」

 単純に飲み物を訊ねられただけだと気付き、全身から緊張が抜ける。舞から粗雑にペットボトルを投げ返されると、まだ薬の効いていない身体が堪えきれずふらりと揺らいだ。

 その身体を、さり気なく支える大きな手。

「大丈夫か」

 恭平が、雛子の顔を見下ろす。彼の大きな手がペットボトルを持っていない方の手に指を絡め、そして手首へと移動する。

「指先が冷たい。脈は……ちょっと速いな。熱中症か?」

 雛子からは逆光になっていて、平素より乏しい恭平の表情が今は更に分からない。

「あ……だい、じょうぶ、です、よ?」

 そう告げたのに、恭平の手はなかなか雛子を離してはくれなかった。

「なぁんでお前にパシられなきゃなんねーんだ! 雨宮の代わりにお前が着いてこいよ!」

「嫌よ疲れたもん! アンタがその三人で行くって言ったんでしょ!」

 放っておくとこの二人はすぐに罵り合いが始まる。結局雛子も同期三人で行く事に賛成したため、その場は事なきを得た。
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