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白衣の天使編
内緒話はサブローザ 4
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「楽しくてちょっと飲み過ぎちゃいました……明日も日勤だし、早く帰って休まないと……」
飲んだと言ってもショートカクテル三杯程度である。缶チューハイ一本と比べても驚くほど酔いを感じないが、真理亜に対し後ろめたさを感じてつい饒舌になってしまう。
「あらあら、大丈夫?」
真理亜が困ったように整った眉根を寄せる。そんな顔も綺麗だな、と呑気に考える。やはり彼女は優しい。
「二日酔い予防のドリンクがうちに置いてあるから、明日に残らないよう飲んで行ったら?」
「え、良いんですか?」
真理亜の提案に、雛子は素直に従う。最近独り立ちしたばかりだし、調子に乗って飲酒して次の日インシデントを起こすなど最悪のパターンは何としても回避したい。
「ええ、どうぞ上がっていって」
エレベーターが真理亜の部屋の階に到着すると、雛子は大人しく真理亜の後に着いていく。玄関のドアを開けると、真理亜と同じほのかな甘い香りが漂った。
(私の部屋と同じ作りなのに、何故か部屋の空気まで色っぽい……)
何となく来てはいけない秘密の花園に来てしまったような気がして、少しだけ落ち着かない。家具家電付きのため内装も一緒のはずなのに、住む人間が違うだけでこうも差が出るのかと感心する。
「ちょっと待ってて。適当に座っていてね」
部屋の真ん中に置かれている小さなテーブルの前に、雛子は所在なさげに座る。真理亜はキッチンの方で何やら準備すると、トレイに小さな瓶とサプリを乗せて部屋に入ってきた。
「はい、これとこれ。雛子ちゃん相当飲んだんじゃない? 大分顔が赤いけれど」
瓶の蓋を開けながら、真理亜が心配そうに訊ねる。
「えへ、分かります? 実は普段あまり行かないようなお店だったので、つい楽しくなっちゃって……」
いただきます、と声をかけ、雛子はドリンクでサプリを流し込む。瓶にはインパクトのある色使いで『その日の酔いは、その日のうちに!!』とプリントされていた。
何だか真理亜のイメージとはそぐわない。
「普段行かないようなお店? 何それ、デートでもしてきたの?」
真理亜からニコニコとからかうように聞かれ、雛子は首がちぎれるほど横に振る。
「ま、まさか! えっと……同期の夏帆ですよ! 先輩に教えて貰ったらしくて、私も連れていってもらっただけです!」
咄嗟に嘘が口をつく。真理亜に申し訳ないと思いつつ、今度夏帆に口裏合わせをお願いしなければと心に決める。
真理亜は特に疑った様子もなく、雛子を微笑ましげに見つめた。
「ふふ。最近独り立ちしてどう? 何か困ってることはない?」
ああ、姉がいたらこんな感じなんだろうな。一人っ子の雛子は思う。
「もういっぱいいっぱいですよぉ。今まで以上に桜井さんにも迷惑かけっぱなしで……」
早く一人前になりたい、と雛子は意気込む。
「あら、焦ることないわよ。初めは皆出来なくても当然だもの」
「真理亜さぁん……」
病棟が真理亜のような優しい人ばかりだったら良いのに。とはいえ自身の性格を鑑みるに、もし本当にそうだったらいつまでも甘えて成長すらしないかもしれない。
「本当に、うっかりミスが多いんですよね私って……今まで皆さんに……特に、桜井さんや真理亜さんにはどれだけ助けられたことか……」
「あら、そんな事ないわ。一年目なんて皆同じよ」
目の前がぼんやりとする。
(あれ、時間差で急に酔いが回ってきたな……)
鷹峯にも釘を刺されたと言うのに、飲みやすいからといってやはり調子に乗ってしまっただろうか。
それに物凄く眠い。
「雛子ちゃん?」
急に黙り込んだ雛子に、真理亜の心配気な声がどこか遠くに聞こえる。
大丈夫ですよ、と言ったつもりが、果たして声が出ていたかどうかすら怪しい。
視界が急激に回転する。
あれ、さっそくまた迷惑、かけてるな……。
そんな事を微かに考えているうち、視界は完全に暗闇に溶けた。
飲んだと言ってもショートカクテル三杯程度である。缶チューハイ一本と比べても驚くほど酔いを感じないが、真理亜に対し後ろめたさを感じてつい饒舌になってしまう。
「あらあら、大丈夫?」
真理亜が困ったように整った眉根を寄せる。そんな顔も綺麗だな、と呑気に考える。やはり彼女は優しい。
「二日酔い予防のドリンクがうちに置いてあるから、明日に残らないよう飲んで行ったら?」
「え、良いんですか?」
真理亜の提案に、雛子は素直に従う。最近独り立ちしたばかりだし、調子に乗って飲酒して次の日インシデントを起こすなど最悪のパターンは何としても回避したい。
「ええ、どうぞ上がっていって」
エレベーターが真理亜の部屋の階に到着すると、雛子は大人しく真理亜の後に着いていく。玄関のドアを開けると、真理亜と同じほのかな甘い香りが漂った。
(私の部屋と同じ作りなのに、何故か部屋の空気まで色っぽい……)
何となく来てはいけない秘密の花園に来てしまったような気がして、少しだけ落ち着かない。家具家電付きのため内装も一緒のはずなのに、住む人間が違うだけでこうも差が出るのかと感心する。
「ちょっと待ってて。適当に座っていてね」
部屋の真ん中に置かれている小さなテーブルの前に、雛子は所在なさげに座る。真理亜はキッチンの方で何やら準備すると、トレイに小さな瓶とサプリを乗せて部屋に入ってきた。
「はい、これとこれ。雛子ちゃん相当飲んだんじゃない? 大分顔が赤いけれど」
瓶の蓋を開けながら、真理亜が心配そうに訊ねる。
「えへ、分かります? 実は普段あまり行かないようなお店だったので、つい楽しくなっちゃって……」
いただきます、と声をかけ、雛子はドリンクでサプリを流し込む。瓶にはインパクトのある色使いで『その日の酔いは、その日のうちに!!』とプリントされていた。
何だか真理亜のイメージとはそぐわない。
「普段行かないようなお店? 何それ、デートでもしてきたの?」
真理亜からニコニコとからかうように聞かれ、雛子は首がちぎれるほど横に振る。
「ま、まさか! えっと……同期の夏帆ですよ! 先輩に教えて貰ったらしくて、私も連れていってもらっただけです!」
咄嗟に嘘が口をつく。真理亜に申し訳ないと思いつつ、今度夏帆に口裏合わせをお願いしなければと心に決める。
真理亜は特に疑った様子もなく、雛子を微笑ましげに見つめた。
「ふふ。最近独り立ちしてどう? 何か困ってることはない?」
ああ、姉がいたらこんな感じなんだろうな。一人っ子の雛子は思う。
「もういっぱいいっぱいですよぉ。今まで以上に桜井さんにも迷惑かけっぱなしで……」
早く一人前になりたい、と雛子は意気込む。
「あら、焦ることないわよ。初めは皆出来なくても当然だもの」
「真理亜さぁん……」
病棟が真理亜のような優しい人ばかりだったら良いのに。とはいえ自身の性格を鑑みるに、もし本当にそうだったらいつまでも甘えて成長すらしないかもしれない。
「本当に、うっかりミスが多いんですよね私って……今まで皆さんに……特に、桜井さんや真理亜さんにはどれだけ助けられたことか……」
「あら、そんな事ないわ。一年目なんて皆同じよ」
目の前がぼんやりとする。
(あれ、時間差で急に酔いが回ってきたな……)
鷹峯にも釘を刺されたと言うのに、飲みやすいからといってやはり調子に乗ってしまっただろうか。
それに物凄く眠い。
「雛子ちゃん?」
急に黙り込んだ雛子に、真理亜の心配気な声がどこか遠くに聞こえる。
大丈夫ですよ、と言ったつもりが、果たして声が出ていたかどうかすら怪しい。
視界が急激に回転する。
あれ、さっそくまた迷惑、かけてるな……。
そんな事を微かに考えているうち、視界は完全に暗闇に溶けた。
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