白衣とブラックチョコレート

宇佐田琴美

文字の大きさ
70 / 156
白衣の天使編

内緒話はサブローザ 2

しおりを挟む
「それで、話というのは?」

 カウンター越しにシェイカーを振る美しい所作をぼんやり眺めている雛子に、鷹峯が訊ねる。

「あ、はい。実は、真理亜さんのことで……」



 雛子は心を決め、舞と幸子から聞いた話を告げた。




「ふむ、なるほど……」


 雛子の話を聞いた鷹峯は、顎に手を当てて何やら考え込む。雛子は彼の答えを、固唾を飲んで待ち構える。


「それは、彼女達の気のせいでしょう」


「へっ……?」


 覚悟していたものとは違う答えに、雛子は拍子抜けして間抜けな声を上げる。

「気のせい、ですか……?」

 鷹峯の否定に安心する自分と納得いかない自分が同居する。雛子は目を瞬かせた。

「気のせいです。そんな事をして清瀬さんに何のメリットが? ああ、それと二歳児の記憶がそこまで明確に残る例もほぼありません」

「で、ですよね……私もそう思ったんですけど、あの二人が嘘を言っているようにも思えなくて……」

 断言する鷹峯に一瞬安心するも、やはり腑に落ちない部分もある。


「お待たせ致しました」

 その時、ショートグラスに注がれたオレンジ色のカクテルが雛子の前にそっと置かれた。しっかりと冷やされたグラスの細い脚を慎重に持ち、雛子は「いただきます」と言いながら口に運ぶ。

「ん、美味しい!」

 爽やかな柑橘とトロピカルな南国の香りが口いっぱいに広がる。甘味と酸味のバランスが良く、フルーティでいくらでも飲めそうだ。

「飲みやすくてもショートカクテルは度数が高いものが多いですよ。気を付けて飲んで下さいね」

「うっ、き、気を付けます……」

 鷹峯に釘を刺され、以前酩酊した前科がある雛子は一気に飲み干しそうになっていたカクテルを慌ててコースターに戻す。

「で?」

「で? とは?」

 鷹峯に促され、雛子は首を傾げる。

「ん? もしかして話ってそれだけですか?」

 雛子のものに続いて提供されたカクテルを楽しみながら、鷹峯が飽きれたように笑う。

「そ、それだけです……」

 もっと愉しい話が聞けると思ったのに、と言いたげな鷹峯の様子に、思い詰めていた自分が何だか馬鹿馬鹿しく思える。

「で、でも、さっちゃんが見た『薬をポケットに入れた』っていうのも勘違いですか? そんな都合良く見間違えますかね……」

 安心したいと思いつつ、雛子は尚も疑問をぶつける。

「ああ、それはあの日、私が小林さんの内服を変更したからですよ。恐らく清瀬さんは、指示変更を受けて一度配薬したものを回収したんでしょう」

「なるほど……」

 鷹峯の説明を聞き、雛子はようやく安堵の表情を浮かべた。

「というか、貴女は以前も篠原さんに騙されて痛い目見てますよね。歴史に学べとは言いませんが、せめて経験から学習するって事が出来ないんですか?」

「うっ……」

 それを言われてしまうとグウの音も出ない。

「池野先生のお子さんも、いくら聡明とはいえまだ五歳。医療の知識もないのですから、看護師が何のために点滴や薬を触っているかなど理解出来るとは思えません」

 まだ何か疑問でも? とチャームのミックスナッツを摘みながら鷹峯は訊ねる。

「……だったら何で、先生は真理亜さんの事を嫌ってるんです? 私はてっきり、先生は何かに気付いているからだと……」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
現代文学
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

月弥総合病院

御月様(旧名 僕君☽☽‪︎)
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。 また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。 (小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!

『続・聖パラダイス病院』

菊池昭仁
現代文学
『聖パラダイス病院』の続編です。こんな病院なら入院生活も悪くはありません。

はじまりと終わりの間婚

便葉
ライト文芸
画家を目指す夢追い人に 最高のチャンスが舞い降りた 夢にまで見たフィレンツェ留学 でも、先立つ物が… ある男性との一年間の結婚生活を ビジネスとして受け入れた お互いのメリットは計り知れない モテないおじさんの無謀な計画に 協力するだけだったのに 全然、素敵な王子様なんですけど~ はじまりから想定外… きっと終わりもその間も、間違いなく想定外… ミチャと私と風磨 たったの一年間で解決できるはずない これは切実なミチャに恋する二人の物語 「戸籍に傷をつけても構わないなら、 僕は300万円の報酬を支払うよ 君がよければの話だけど」

【完結】僕ら二度目のはじめまして ~オフィスで再会した、心に残ったままの初恋~

葉影
恋愛
高校の頃、誰よりも大切だった人。 「さ、最近はあんまり好きじゃないから…!」――あの言葉が、最後になった。 小島久遠は、新たな職場で、元カレとまさかの再会を果たす。 若くしてプロジェクトチームを任される彼は、 かつて自分だけに愛を囁いてくれていたことが信じられないほど、 遠く、眩しい存在になっていた。 優しかったあの声は、もう久遠の名前を呼んでくれない。 もう一度“はじめまして”からやり直せたら――そんなこと、願ってはいけないのに。 それでも—— 8年越しのすれ違いは、再会から静かに動き出す。 これは、終わった恋を「もう一度はじめる」までの物語。

子持ち愛妻家の極悪上司にアタックしてもいいですか?天国の奥様には申し訳ないですが

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
胸がきゅんと、甘い音を立てる。 相手は、妻子持ちだというのに。 入社して配属一日目。 直属の上司で教育係だって紹介された人は、酷く人相の悪い人でした。 中高大と女子校育ちで男性慣れしてない私にとって、それだけでも恐怖なのに。 彼はちかよんなオーラバリバリで、仕事の質問すらする隙がない。 それでもどうにか仕事をこなしていたがとうとう、大きなミスを犯してしまう。 「俺が、悪いのか」 人のせいにするのかと叱責されるのかと思った。 けれど。 「俺の顔と、理由があって避け気味なせいだよな、すまん」 あやまってくれた彼に、胸がきゅんと甘い音を立てる。 相手は、妻子持ちなのに。 星谷桐子 22歳 システム開発会社営業事務 中高大女子校育ちで、ちょっぴり男性が苦手 自分の非はちゃんと認める子 頑張り屋さん × 京塚大介 32歳 システム開発会社営業事務 主任 ツンツンあたまで目つき悪い 態度もでかくて人に恐怖を与えがち 5歳の娘にデレデレな愛妻家 いまでも亡くなった妻を愛している 私は京塚主任を、好きになってもいいのかな……?

腹黒上司が実は激甘だった件について。

あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。 彼はヤバいです。 サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。 まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。 本当に厳しいんだから。 ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。 マジで? 意味不明なんだけど。 めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。 素直に甘えたいとさえ思った。 だけど、私はその想いに応えられないよ。 どうしたらいいかわからない…。 ********** この作品は、他のサイトにも掲載しています。

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

処理中です...