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白衣の天使編
内緒話はサブローザ 2
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「それで、話というのは?」
カウンター越しにシェイカーを振る美しい所作をぼんやり眺めている雛子に、鷹峯が訊ねる。
「あ、はい。実は、真理亜さんのことで……」
雛子は心を決め、舞と幸子から聞いた話を告げた。
「ふむ、なるほど……」
雛子の話を聞いた鷹峯は、顎に手を当てて何やら考え込む。雛子は彼の答えを、固唾を飲んで待ち構える。
「それは、彼女達の気のせいでしょう」
「へっ……?」
覚悟していたものとは違う答えに、雛子は拍子抜けして間抜けな声を上げる。
「気のせい、ですか……?」
鷹峯の否定に安心する自分と納得いかない自分が同居する。雛子は目を瞬かせた。
「気のせいです。そんな事をして清瀬さんに何のメリットが? ああ、それと二歳児の記憶がそこまで明確に残る例もほぼありません」
「で、ですよね……私もそう思ったんですけど、あの二人が嘘を言っているようにも思えなくて……」
断言する鷹峯に一瞬安心するも、やはり腑に落ちない部分もある。
「お待たせ致しました」
その時、ショートグラスに注がれたオレンジ色のカクテルが雛子の前にそっと置かれた。しっかりと冷やされたグラスの細い脚を慎重に持ち、雛子は「いただきます」と言いながら口に運ぶ。
「ん、美味しい!」
爽やかな柑橘とトロピカルな南国の香りが口いっぱいに広がる。甘味と酸味のバランスが良く、フルーティでいくらでも飲めそうだ。
「飲みやすくてもショートカクテルは度数が高いものが多いですよ。気を付けて飲んで下さいね」
「うっ、き、気を付けます……」
鷹峯に釘を刺され、以前酩酊した前科がある雛子は一気に飲み干しそうになっていたカクテルを慌ててコースターに戻す。
「で?」
「で? とは?」
鷹峯に促され、雛子は首を傾げる。
「ん? もしかして話ってそれだけですか?」
雛子のものに続いて提供されたカクテルを楽しみながら、鷹峯が飽きれたように笑う。
「そ、それだけです……」
もっと愉しい話が聞けると思ったのに、と言いたげな鷹峯の様子に、思い詰めていた自分が何だか馬鹿馬鹿しく思える。
「で、でも、さっちゃんが見た『薬をポケットに入れた』っていうのも勘違いですか? そんな都合良く見間違えますかね……」
安心したいと思いつつ、雛子は尚も疑問をぶつける。
「ああ、それはあの日、私が小林さんの内服を変更したからですよ。恐らく清瀬さんは、指示変更を受けて一度配薬したものを回収したんでしょう」
「なるほど……」
鷹峯の説明を聞き、雛子はようやく安堵の表情を浮かべた。
「というか、貴女は以前も篠原さんに騙されて痛い目見てますよね。歴史に学べとは言いませんが、せめて経験から学習するって事が出来ないんですか?」
「うっ……」
それを言われてしまうとグウの音も出ない。
「池野先生のお子さんも、いくら聡明とはいえまだ五歳。医療の知識もないのですから、看護師が何のために点滴や薬を触っているかなど理解出来るとは思えません」
まだ何か疑問でも? とチャームのミックスナッツを摘みながら鷹峯は訊ねる。
「……だったら何で、先生は真理亜さんの事を嫌ってるんです? 私はてっきり、先生は何かに気付いているからだと……」
カウンター越しにシェイカーを振る美しい所作をぼんやり眺めている雛子に、鷹峯が訊ねる。
「あ、はい。実は、真理亜さんのことで……」
雛子は心を決め、舞と幸子から聞いた話を告げた。
「ふむ、なるほど……」
雛子の話を聞いた鷹峯は、顎に手を当てて何やら考え込む。雛子は彼の答えを、固唾を飲んで待ち構える。
「それは、彼女達の気のせいでしょう」
「へっ……?」
覚悟していたものとは違う答えに、雛子は拍子抜けして間抜けな声を上げる。
「気のせい、ですか……?」
鷹峯の否定に安心する自分と納得いかない自分が同居する。雛子は目を瞬かせた。
「気のせいです。そんな事をして清瀬さんに何のメリットが? ああ、それと二歳児の記憶がそこまで明確に残る例もほぼありません」
「で、ですよね……私もそう思ったんですけど、あの二人が嘘を言っているようにも思えなくて……」
断言する鷹峯に一瞬安心するも、やはり腑に落ちない部分もある。
「お待たせ致しました」
その時、ショートグラスに注がれたオレンジ色のカクテルが雛子の前にそっと置かれた。しっかりと冷やされたグラスの細い脚を慎重に持ち、雛子は「いただきます」と言いながら口に運ぶ。
「ん、美味しい!」
爽やかな柑橘とトロピカルな南国の香りが口いっぱいに広がる。甘味と酸味のバランスが良く、フルーティでいくらでも飲めそうだ。
「飲みやすくてもショートカクテルは度数が高いものが多いですよ。気を付けて飲んで下さいね」
「うっ、き、気を付けます……」
鷹峯に釘を刺され、以前酩酊した前科がある雛子は一気に飲み干しそうになっていたカクテルを慌ててコースターに戻す。
「で?」
「で? とは?」
鷹峯に促され、雛子は首を傾げる。
「ん? もしかして話ってそれだけですか?」
雛子のものに続いて提供されたカクテルを楽しみながら、鷹峯が飽きれたように笑う。
「そ、それだけです……」
もっと愉しい話が聞けると思ったのに、と言いたげな鷹峯の様子に、思い詰めていた自分が何だか馬鹿馬鹿しく思える。
「で、でも、さっちゃんが見た『薬をポケットに入れた』っていうのも勘違いですか? そんな都合良く見間違えますかね……」
安心したいと思いつつ、雛子は尚も疑問をぶつける。
「ああ、それはあの日、私が小林さんの内服を変更したからですよ。恐らく清瀬さんは、指示変更を受けて一度配薬したものを回収したんでしょう」
「なるほど……」
鷹峯の説明を聞き、雛子はようやく安堵の表情を浮かべた。
「というか、貴女は以前も篠原さんに騙されて痛い目見てますよね。歴史に学べとは言いませんが、せめて経験から学習するって事が出来ないんですか?」
「うっ……」
それを言われてしまうとグウの音も出ない。
「池野先生のお子さんも、いくら聡明とはいえまだ五歳。医療の知識もないのですから、看護師が何のために点滴や薬を触っているかなど理解出来るとは思えません」
まだ何か疑問でも? とチャームのミックスナッツを摘みながら鷹峯は訊ねる。
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