57 / 156
白衣の天使編
嘘 1
しおりを挟む
潮風とコーヒーの香りで、雛子は目を覚ました。
「ん……何時……?」
レースカーテンのみを引いた開放的な窓からは、爽やかな陽の光が差し込んでいる。スマホの画面を見ると時刻はam7:30と表示されていた。
同じベッドには夏帆、隣のベッドには悠貴がまだ寝息を立てている。雛子は二人を起こさないよう、そっと布団から出た。
「おはようございます、早起きですねぇ」
リビングへのドアを開けると、コーヒーの香りが濃くなった。マグカップにインスタントのドリップコーヒーを作っていた鷹峯が、平素の調子で声を掛けた。
「おはようございます。先生こそ早いですね、昨日あんなに飲んでたのに」
昨夜は結局、残った四人で余りの酒を酌み交わしつつトランプに興じていた。
とは言っても、雛子が一缶をチビチビと飲んでいる間に残りは酒好きの三人が飲み干してしまっていたのだが。
「ちなみに女性二人も既に起きていますよ。先程篠原さんを診察してきましたが、すっかり元気になっているみたいですね」
桜井君はそちらに、と鷹峯の視線の先に目をやると、ゆったりとした広めのソファで窮屈そうに身を屈めながらタオルケットを被っている長身痩躯の男が眠っていた。
「ん……あったま痛てぇ……」
雛子と鷹峯の会話にモゾモゾと起き上がった恭平が、嗄れた声で呟きローテーブルの上にあるスポーツドリンクを口にした。
「あ、おはようございます桜井さん」
「んー……」
恭平は二日酔いに顔を顰めながらも、雛子の声掛けに片手を上げて反応する。しかしスポーツドリンクを飲み終わると、再びソファへと沈んでいった。
(あ、朝分の薬、皆が起きてくる前に飲んどこ……)
恭平が二度寝に入ったのを横目に、雛子は荷物をまとめて置いてある出窓へと向かう。
「あ、あれ?」
雛子は普段持ち歩いているハンドバッグの内ポケットに手を入れ、首を傾げた。
いつもの所に目当てのピルケースが見当たらない。
「おかしいな、確かここに……」
「どした?」
「ここに入れたはずの……って桜井さん!?」
先程二度寝したはずの恭平が、ソファから起き上がり声を掛けた。驚いて大きな声を出した雛子に、彼はしかめっ面のまま耳を塞ぐ。
「あ、すみません……」
「……いや、んで、何探してるの?」
「えっと……」
何と答えようか考えあぐねていると、リビングのドアが開きふわりと花のような香りがコーヒーの香りと混ざった。
シャワーを浴びたらしい真理亜が、長い髪をタオルで押さえながらやってくる。その姿が何とも色っぽい。
「あら、おはよう雛子ちゃん。ごめんなさいね、さっき雛子ちゃんのバッグにぶつかって落としてしまって……何かなくなってるものあるかしら?」
何だ、そういう事か。
よく見れば普段とは別の内ポケットに、愛用しているピルケースの柄が見えた。
「あ、いえ、大丈夫です」
「そう? 良かったわ」
真理亜はほっとしたように微笑み、舞と一緒に使っている部屋へと入っていった。雛子はミネラルウォーターの封を切り、慣れた手つきで数種類の錠剤を喉に流し込む。
「体調悪いのか?」
「っ……」
恭平がまた不意打ちで話しかけてくる。悪い事をしている訳では無いのに、何故か胸がドキドキと騒がしくなった。
「……頭痛持ちなんです」
恭平の方を振り向かないまま、雛子は言った。
「特にお酒飲んだ次の日とか、頭痛くなっちゃって」
「……あの量の酒で二日酔いかよ」
飽きれたようにそう呟いた恭平に、鷹峯は笑いながらマグカップをローテーブルへと置いた。
「私からしたら、桜井君も大した量飲んでませんでしたけどねぇ?」
「おめーはザル過ぎるんだよ」
悪態をつく恭平に、鷹峯は余裕の笑みだ。そんな二人のやり取りに苦笑しながら、雛子もソファに腰を下ろす。
「……んで? 頭痛以外は大丈夫なのか?」
「あ、はい、大丈夫、ですよ?」
恭平の腕が伸びてきて、大きな手のひらが雛子の頭の上に乗る。ポンポンと軽く撫でられ、雛子はぎこちなく返事をした。
「ん……何時……?」
レースカーテンのみを引いた開放的な窓からは、爽やかな陽の光が差し込んでいる。スマホの画面を見ると時刻はam7:30と表示されていた。
同じベッドには夏帆、隣のベッドには悠貴がまだ寝息を立てている。雛子は二人を起こさないよう、そっと布団から出た。
「おはようございます、早起きですねぇ」
リビングへのドアを開けると、コーヒーの香りが濃くなった。マグカップにインスタントのドリップコーヒーを作っていた鷹峯が、平素の調子で声を掛けた。
「おはようございます。先生こそ早いですね、昨日あんなに飲んでたのに」
昨夜は結局、残った四人で余りの酒を酌み交わしつつトランプに興じていた。
とは言っても、雛子が一缶をチビチビと飲んでいる間に残りは酒好きの三人が飲み干してしまっていたのだが。
「ちなみに女性二人も既に起きていますよ。先程篠原さんを診察してきましたが、すっかり元気になっているみたいですね」
桜井君はそちらに、と鷹峯の視線の先に目をやると、ゆったりとした広めのソファで窮屈そうに身を屈めながらタオルケットを被っている長身痩躯の男が眠っていた。
「ん……あったま痛てぇ……」
雛子と鷹峯の会話にモゾモゾと起き上がった恭平が、嗄れた声で呟きローテーブルの上にあるスポーツドリンクを口にした。
「あ、おはようございます桜井さん」
「んー……」
恭平は二日酔いに顔を顰めながらも、雛子の声掛けに片手を上げて反応する。しかしスポーツドリンクを飲み終わると、再びソファへと沈んでいった。
(あ、朝分の薬、皆が起きてくる前に飲んどこ……)
恭平が二度寝に入ったのを横目に、雛子は荷物をまとめて置いてある出窓へと向かう。
「あ、あれ?」
雛子は普段持ち歩いているハンドバッグの内ポケットに手を入れ、首を傾げた。
いつもの所に目当てのピルケースが見当たらない。
「おかしいな、確かここに……」
「どした?」
「ここに入れたはずの……って桜井さん!?」
先程二度寝したはずの恭平が、ソファから起き上がり声を掛けた。驚いて大きな声を出した雛子に、彼はしかめっ面のまま耳を塞ぐ。
「あ、すみません……」
「……いや、んで、何探してるの?」
「えっと……」
何と答えようか考えあぐねていると、リビングのドアが開きふわりと花のような香りがコーヒーの香りと混ざった。
シャワーを浴びたらしい真理亜が、長い髪をタオルで押さえながらやってくる。その姿が何とも色っぽい。
「あら、おはよう雛子ちゃん。ごめんなさいね、さっき雛子ちゃんのバッグにぶつかって落としてしまって……何かなくなってるものあるかしら?」
何だ、そういう事か。
よく見れば普段とは別の内ポケットに、愛用しているピルケースの柄が見えた。
「あ、いえ、大丈夫です」
「そう? 良かったわ」
真理亜はほっとしたように微笑み、舞と一緒に使っている部屋へと入っていった。雛子はミネラルウォーターの封を切り、慣れた手つきで数種類の錠剤を喉に流し込む。
「体調悪いのか?」
「っ……」
恭平がまた不意打ちで話しかけてくる。悪い事をしている訳では無いのに、何故か胸がドキドキと騒がしくなった。
「……頭痛持ちなんです」
恭平の方を振り向かないまま、雛子は言った。
「特にお酒飲んだ次の日とか、頭痛くなっちゃって」
「……あの量の酒で二日酔いかよ」
飽きれたようにそう呟いた恭平に、鷹峯は笑いながらマグカップをローテーブルへと置いた。
「私からしたら、桜井君も大した量飲んでませんでしたけどねぇ?」
「おめーはザル過ぎるんだよ」
悪態をつく恭平に、鷹峯は余裕の笑みだ。そんな二人のやり取りに苦笑しながら、雛子もソファに腰を下ろす。
「……んで? 頭痛以外は大丈夫なのか?」
「あ、はい、大丈夫、ですよ?」
恭平の腕が伸びてきて、大きな手のひらが雛子の頭の上に乗る。ポンポンと軽く撫でられ、雛子はぎこちなく返事をした。
0
お気に入りに追加
32
あなたにおすすめの小説
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
【R18】こんな産婦人科のお医者さんがいたら♡妄想エロシチュエーション短編作品♡
雪村 里帆
恋愛
ある日、産婦人科に訪れるとそこには顔を見たら赤面してしまう程のイケメン先生がいて…!?何故か看護師もいないし2人きり…エコー検査なのに触診されてしまい…?雪村里帆の妄想エロシチュエーション短編。完全フィクションでお送り致します!
イケメンエリート軍団の籠の中
便葉
恋愛
国内有数の豪華複合オフィスビルの27階にある
IT関連会社“EARTHonCIRCLE”略して“EOC”
謎多き噂の飛び交う外資系一流企業
日本内外のイケメンエリートが
集まる男のみの会社
唯一の女子、受付兼秘書係が定年退職となり
女子社員募集要項がネットを賑わした
1名の採用に300人以上が殺到する
松村舞衣(24歳)
友達につき合って応募しただけなのに
何故かその超難関を突破する
凪さん、映司さん、謙人さん、
トオルさん、ジャスティン
イケメンでエリートで華麗なる超一流の人々
でも、なんか、なんだか、息苦しい~~
イケメンエリート軍団の鳥かごの中に
私、飼われてしまったみたい…
「俺がお前に極上の恋愛を教えてやる
他の奴とか? そんなの無視すればいいんだよ」
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
二十歳の同人女子と十七歳の女装男子
クナリ
恋愛
同人誌でマンガを描いている三織は、二十歳の大学生。
ある日、一人の男子高校生と出会い、危ないところを助けられる。
後日、友人と一緒にある女装コンカフェに行ってみると、そこにはあの男子高校生、壮弥が女装して働いていた。
しかも彼は、三織のマンガのファンだという。
思わぬ出会いをした同人作家と読者だったが、三織を大切にしながら世話を焼いてくれる壮弥に、「女装していても男は男。安全のため、警戒を緩めてはいけません」と忠告されつつも、だんだんと三織は心を惹かれていく。
自己評価の低い三織は、壮弥の迷惑になるからと具体的な行動まではなかなか起こせずにいたが、やがて二人の関係はただの作家と読者のものとは変わっていった。
【R18】ドS上司とヤンデレイケメンに毎晩種付けされた結果、泥沼三角関係に堕ちました。
雪村 里帆
恋愛
お陰様でHOT女性向けランキング31位、人気ランキング132位の記録達成※雪村里帆、性欲旺盛なアラサーOL。ブラック企業から転職した先の会社でドS歳下上司の宮野孝司と出会い、彼の事を考えながら毎晩自慰に耽る。ある日、中学時代に里帆に告白してきた同級生のイケメン・桜庭亮が里帆の部署に異動してきて…⁉︎ドキドキハラハラ淫猥不埒な雪村里帆のめまぐるしい二重恋愛生活が始まる…!優柔不断でドMな里帆は、ドS上司とヤンデレイケメンのどちらを選ぶのか…⁉︎
——もしも恋愛ドラマの濡れ場シーンがカット無しで放映されたら?という妄想も込めて執筆しました。長編です。
※連載当時のものです。
地味系秘書と氷の副社長は今日も仲良くバトルしてます!
めーぷる
恋愛
見た目はどこにでもいそうな地味系女子の小鳥風音(おどりかざね)が、ようやく就職した会社で何故か社長秘書に大抜擢されてしまう。
秘書検定も持っていない自分がどうしてそんなことに……。
呼び出された社長室では、明るいイケメンチャラ男な御曹司の社長と、ニコリともしない銀縁眼鏡の副社長が風音を待ち構えていた――
地味系女子が色々巻き込まれながら、イケメンと美形とぶつかって仲良くなっていく王道ラブコメなお話になっていく予定です。
ちょっとだけ三角関係もあるかも?
・表紙はかんたん表紙メーカーで作成しています。
・毎日11時に投稿予定です。
・勢いで書いてます。誤字脱字等チェックしてますが、不備があるかもしれません。
・公開済のお話も加筆訂正する場合があります。
ミックスド★バス~家のお風呂なら誰にも迷惑をかけずにイチャイチャ?~
taki
恋愛
【R18】恋人同士となった入浴剤開発者の温子と営業部の水川。
お互いの部屋のお風呂で、人目も気にせず……♥
えっちめシーンの話には♥マークを付けています。
ミックスド★バスの第5弾です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる