15 / 156
出会いと別れ編
ライバル?? 1
しおりを挟む
「雨宮ー、入院来るから取ってくれるー?」
「は、はい!」
病室からステーションに戻ってきたところを大沢に呼び止められ、雛子は緊張で身体を堅くする。
「誰っすか?」
ひょいと横から出てきた恭平が、大沢の開いているカルテの画面を覗き込む。
「ん、いつもの」
「ああ……」
「??」
入院と聞いて少し真剣な表情をした恭平だったが、カルテを見た途端すぐにいつもの調子へと戻った。
「よく来る患者さんなんですか?」
雛子の問いに、恭平は頷く。
「そう。俺のプライマリー」
「入退院を繰り返してるって事は……もしかして重い病気の方ですか?」
「うーん、何とも……。まぁ関わりの難しい患者である事は間違いない。病棟上がる前に情報拾っといて」
それだけ言うと、恭平は病室の準備をするためステーションを後にする。雛子は大沢から聞いた患者の名前で、カルテを検索して開く。
「えーっと、篠原舞さん、二十四歳、疾患名は……」
(PFAPA……症候群?)
もはや、読めない。
あと十五分もすれば病棟も外来も入院準備が整うだろう。さらに雛子の気持ちを焦らせるのは疾患だけではない。
(っていうか、入院回数多過ぎ! これじゃ経過が追い切れないんですけど……!)
とりあえず直近の入院期間中に書かれたカルテを経過順に開いていく。その中で時々、文字が薄い色に変換されている部分がある事に気付く。カルテの背景と同化しておりパッと見ただけでは何と書いてあるのか分からない。
(……? 何だろうこれ、反転させれば見えそうだけど)
雛子が薄い文字をドラッグし、反転させようとした時。
「ひなっち、今耳鼻科外来でオブザ中だから、とりあえず迎えに行く」
「あ、はい!」
残念ながら時間切れだ。残りのカルテはあとで見ることにして、雛子はカルテを閉じる。
(あ、あの人かな?)
外来に到着すると、すぐに篠原舞を見つける事が出来た。
舞は車椅子に座り、外来の隅で点滴を受けていた。明るめに染められたツヤツヤセミロングの髪に、色白の肌は熱のせいか上気して色っぽい。少女と大人の両方の魅力を兼ね備えたルックスで、「モテそうだな」というのが雛子の率直な感想だ。
舞は少しうとうとしていた様子だが、恭平の姿を見つけるとぱっと花が綻ぶような笑みを浮かべた。雛子は舞に駆け寄り声を掛ける。
「篠原さん初めまして! 新人の雨宮と言います!」
恭平しか認知していなかった舞は最初驚いた様子だったが、すぐにまた花のような笑みを浮かべてくれた。
「初めまして、篠原舞です。よろしくお願いします」
同性の雛子ですら、思わずキュンとしてしまう笑顔。礼儀正しく挨拶をされ、何となく照れてしまう。
(すっごく優しそうな人! でも関わりが難しいって……PFAPA症候群ってどんな病気なんだろう? あとでちゃんとカルテ見ておかないと)
雛子の思考を他所に、舞は恭平に視線を向ける。
「こちらの病院には本当によくお世話になっているの。特にいつも担当してくれる恭平には……ね、恭平?」
潤んだ瞳で上目遣いをする舞。恭平も満更でもない様子で笑みを返す。
「今回は三ヶ月近く入院しなかったんだな。体調管理、頑張ったんだ?」
そう言って、恭平の手のひらが舞の頭部に置かれる。
(あ……)
「は、はい!」
病室からステーションに戻ってきたところを大沢に呼び止められ、雛子は緊張で身体を堅くする。
「誰っすか?」
ひょいと横から出てきた恭平が、大沢の開いているカルテの画面を覗き込む。
「ん、いつもの」
「ああ……」
「??」
入院と聞いて少し真剣な表情をした恭平だったが、カルテを見た途端すぐにいつもの調子へと戻った。
「よく来る患者さんなんですか?」
雛子の問いに、恭平は頷く。
「そう。俺のプライマリー」
「入退院を繰り返してるって事は……もしかして重い病気の方ですか?」
「うーん、何とも……。まぁ関わりの難しい患者である事は間違いない。病棟上がる前に情報拾っといて」
それだけ言うと、恭平は病室の準備をするためステーションを後にする。雛子は大沢から聞いた患者の名前で、カルテを検索して開く。
「えーっと、篠原舞さん、二十四歳、疾患名は……」
(PFAPA……症候群?)
もはや、読めない。
あと十五分もすれば病棟も外来も入院準備が整うだろう。さらに雛子の気持ちを焦らせるのは疾患だけではない。
(っていうか、入院回数多過ぎ! これじゃ経過が追い切れないんですけど……!)
とりあえず直近の入院期間中に書かれたカルテを経過順に開いていく。その中で時々、文字が薄い色に変換されている部分がある事に気付く。カルテの背景と同化しておりパッと見ただけでは何と書いてあるのか分からない。
(……? 何だろうこれ、反転させれば見えそうだけど)
雛子が薄い文字をドラッグし、反転させようとした時。
「ひなっち、今耳鼻科外来でオブザ中だから、とりあえず迎えに行く」
「あ、はい!」
残念ながら時間切れだ。残りのカルテはあとで見ることにして、雛子はカルテを閉じる。
(あ、あの人かな?)
外来に到着すると、すぐに篠原舞を見つける事が出来た。
舞は車椅子に座り、外来の隅で点滴を受けていた。明るめに染められたツヤツヤセミロングの髪に、色白の肌は熱のせいか上気して色っぽい。少女と大人の両方の魅力を兼ね備えたルックスで、「モテそうだな」というのが雛子の率直な感想だ。
舞は少しうとうとしていた様子だが、恭平の姿を見つけるとぱっと花が綻ぶような笑みを浮かべた。雛子は舞に駆け寄り声を掛ける。
「篠原さん初めまして! 新人の雨宮と言います!」
恭平しか認知していなかった舞は最初驚いた様子だったが、すぐにまた花のような笑みを浮かべてくれた。
「初めまして、篠原舞です。よろしくお願いします」
同性の雛子ですら、思わずキュンとしてしまう笑顔。礼儀正しく挨拶をされ、何となく照れてしまう。
(すっごく優しそうな人! でも関わりが難しいって……PFAPA症候群ってどんな病気なんだろう? あとでちゃんとカルテ見ておかないと)
雛子の思考を他所に、舞は恭平に視線を向ける。
「こちらの病院には本当によくお世話になっているの。特にいつも担当してくれる恭平には……ね、恭平?」
潤んだ瞳で上目遣いをする舞。恭平も満更でもない様子で笑みを返す。
「今回は三ヶ月近く入院しなかったんだな。体調管理、頑張ったんだ?」
そう言って、恭平の手のひらが舞の頭部に置かれる。
(あ……)
0
お気に入りに追加
32
あなたにおすすめの小説
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
【R18】こんな産婦人科のお医者さんがいたら♡妄想エロシチュエーション短編作品♡
雪村 里帆
恋愛
ある日、産婦人科に訪れるとそこには顔を見たら赤面してしまう程のイケメン先生がいて…!?何故か看護師もいないし2人きり…エコー検査なのに触診されてしまい…?雪村里帆の妄想エロシチュエーション短編。完全フィクションでお送り致します!
イケメンエリート軍団の籠の中
便葉
恋愛
国内有数の豪華複合オフィスビルの27階にある
IT関連会社“EARTHonCIRCLE”略して“EOC”
謎多き噂の飛び交う外資系一流企業
日本内外のイケメンエリートが
集まる男のみの会社
唯一の女子、受付兼秘書係が定年退職となり
女子社員募集要項がネットを賑わした
1名の採用に300人以上が殺到する
松村舞衣(24歳)
友達につき合って応募しただけなのに
何故かその超難関を突破する
凪さん、映司さん、謙人さん、
トオルさん、ジャスティン
イケメンでエリートで華麗なる超一流の人々
でも、なんか、なんだか、息苦しい~~
イケメンエリート軍団の鳥かごの中に
私、飼われてしまったみたい…
「俺がお前に極上の恋愛を教えてやる
他の奴とか? そんなの無視すればいいんだよ」
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
二十歳の同人女子と十七歳の女装男子
クナリ
恋愛
同人誌でマンガを描いている三織は、二十歳の大学生。
ある日、一人の男子高校生と出会い、危ないところを助けられる。
後日、友人と一緒にある女装コンカフェに行ってみると、そこにはあの男子高校生、壮弥が女装して働いていた。
しかも彼は、三織のマンガのファンだという。
思わぬ出会いをした同人作家と読者だったが、三織を大切にしながら世話を焼いてくれる壮弥に、「女装していても男は男。安全のため、警戒を緩めてはいけません」と忠告されつつも、だんだんと三織は心を惹かれていく。
自己評価の低い三織は、壮弥の迷惑になるからと具体的な行動まではなかなか起こせずにいたが、やがて二人の関係はただの作家と読者のものとは変わっていった。
【R18】ドS上司とヤンデレイケメンに毎晩種付けされた結果、泥沼三角関係に堕ちました。
雪村 里帆
恋愛
お陰様でHOT女性向けランキング31位、人気ランキング132位の記録達成※雪村里帆、性欲旺盛なアラサーOL。ブラック企業から転職した先の会社でドS歳下上司の宮野孝司と出会い、彼の事を考えながら毎晩自慰に耽る。ある日、中学時代に里帆に告白してきた同級生のイケメン・桜庭亮が里帆の部署に異動してきて…⁉︎ドキドキハラハラ淫猥不埒な雪村里帆のめまぐるしい二重恋愛生活が始まる…!優柔不断でドMな里帆は、ドS上司とヤンデレイケメンのどちらを選ぶのか…⁉︎
——もしも恋愛ドラマの濡れ場シーンがカット無しで放映されたら?という妄想も込めて執筆しました。長編です。
※連載当時のものです。
ミックスド★バス~家のお風呂なら誰にも迷惑をかけずにイチャイチャ?~
taki
恋愛
【R18】恋人同士となった入浴剤開発者の温子と営業部の水川。
お互いの部屋のお風呂で、人目も気にせず……♥
えっちめシーンの話には♥マークを付けています。
ミックスド★バスの第5弾です。
腹黒上司が実は激甘だった件について。
あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。
彼はヤバいです。
サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。
まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。
本当に厳しいんだから。
ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。
マジで?
意味不明なんだけど。
めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。
素直に甘えたいとさえ思った。
だけど、私はその想いに応えられないよ。
どうしたらいいかわからない…。
**********
この作品は、他のサイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる