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第8章
第421話 ユジンSIDE 囮作戦⑥ 作戦再開②
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これまで何百回も頭の中で考えてきた青フード捕獲のための動きが頭の中を駆け巡る。
(勝負は放課後。とにかくさっさと動こう。一人になれる時間を一分たりとも無駄にすることはできない……)
そう、実は僕はこの時を待っていた。
というのも……この二人はとんでもなく頭がいいし腕も立つ。作戦を実行する仲間として力は申し分ない。
“ニセ兄様は朝と放課後に現れること、授業中に出没することはないこと。現れる場所は僕の教室と寮、そして宵闇の洞窟周辺であること。”
こうして場所や時間を特定できたのは、この二人の協力のおかげだ。それは間違いない。
ただ、彼らの自分に対する扱いには大いに不満があった。
リオン様とノエル様にとって、僕はあくまで囮役。青フードを追うのは自分たちの役目というスタンスで、僕が直接手出しをしようとすればなんだかんだと理由をつけて止めてくる。
毎回あと一歩のところでニセ兄様に逃げられてしまうのも、僕の護衛などという不必要なことに二人が気を回しすぎているせいなんじゃないか、と思えてならない。
そして、相手に気取られないようにこっそり追跡するやり方も焦れったく感じていた。二人がそうやって動くのは『決して無茶をするな』というクライス王子の忠告を守ってのことだろう。
もちろん黒魔法を使う危険な相手に警戒されないよう慎重に動くのは大切なことだとは思うが、これでは時間がかかりすぎる。
(情報も集まったし、そろそろもっと大胆に行動していいんじゃないか?)
僕としては真正面から敵と対峙してでも、早く相手を捕まえたい。このままのらりくらりと逃げられていては、いつその矛先が再び兄様の方に向くかわからない。
ターゲットが自分であるうちになんとかしないと。
(ここまで来たらあとは一人の方が動きやすいに違いない)
そう思い、一人で行動できる機会を窺っていたのだ。
僕は逸る気持ちが顔に出ないように気をつけながら言った。
「それなら僕は欠席している間に出た課題を片づけておきます。お二人はお仕事頑張ってください」
「そうしていただけると助かります。念の為護衛をつけておきますが、くれぐれも危ない行動は控えてください」
「今はキルナちゃんじゃなく、君が狙われてるんだから、気をつけてねぇ」
「僕のことなら心配は無用です。それと、授業が終わったらすぐ部屋に戻って光魔法の結界を張るので、護衛も必要ありません」
「しかし、」
「必要ありません」
「そう……ですか」
護衛の話はきっぱりと断り、「看病ありがとうございました」と愛想よく感謝の言葉を述べて彼らを送り出した。
ところが、彼らはやはり僕をか弱いお姫様か何かだと勘違いしているらしい。
(あれほどいらないと言ったのに)
最後の授業が終わる数分前から教室の外に屈強な人間たちの気配を感じる。魔力のレベルからしておそらく護衛だろう。三人……か。いずれも手だれのようだが、リオン様とノエル様に比べれば撒くのはたやすい。
放課後になると、僕は一度大人しく部屋に帰った。
用意しておいた自分と同じくらいの大きさの人形をベッド下から引き摺り出すと、勉強机の前に座らせ呪文を唱える。すると人形はまるで僕が勉強しているかのように動き始めた。
カリカリと鉛筆がノートの上を滑る音が聞こえる。
この人形には僕の魔力を纏うように細工をしているから、外の護衛には僕の気配が感じられるはずだ。近くで見るとすぐに偽物だとわかってしまうが、護衛が許可もなく部屋の中まで入ってくることはないだろうから心配ない。
部屋に光の結界を張り準備を整えると、小さな声で転移魔法の呪文を唱え教室に戻った。
自分の席で自習しているふりをしながら待機して、やつの訪れを待つ。
(来たな……)
しばらくすると、廊下に麗しいキル兄様にそっくりのシルエットが見えた。
姿形だけは兄様、でも中身はゴミ……という邪悪な存在が、僕の方を見てケタケタと笑った。
(勝負は放課後。とにかくさっさと動こう。一人になれる時間を一分たりとも無駄にすることはできない……)
そう、実は僕はこの時を待っていた。
というのも……この二人はとんでもなく頭がいいし腕も立つ。作戦を実行する仲間として力は申し分ない。
“ニセ兄様は朝と放課後に現れること、授業中に出没することはないこと。現れる場所は僕の教室と寮、そして宵闇の洞窟周辺であること。”
こうして場所や時間を特定できたのは、この二人の協力のおかげだ。それは間違いない。
ただ、彼らの自分に対する扱いには大いに不満があった。
リオン様とノエル様にとって、僕はあくまで囮役。青フードを追うのは自分たちの役目というスタンスで、僕が直接手出しをしようとすればなんだかんだと理由をつけて止めてくる。
毎回あと一歩のところでニセ兄様に逃げられてしまうのも、僕の護衛などという不必要なことに二人が気を回しすぎているせいなんじゃないか、と思えてならない。
そして、相手に気取られないようにこっそり追跡するやり方も焦れったく感じていた。二人がそうやって動くのは『決して無茶をするな』というクライス王子の忠告を守ってのことだろう。
もちろん黒魔法を使う危険な相手に警戒されないよう慎重に動くのは大切なことだとは思うが、これでは時間がかかりすぎる。
(情報も集まったし、そろそろもっと大胆に行動していいんじゃないか?)
僕としては真正面から敵と対峙してでも、早く相手を捕まえたい。このままのらりくらりと逃げられていては、いつその矛先が再び兄様の方に向くかわからない。
ターゲットが自分であるうちになんとかしないと。
(ここまで来たらあとは一人の方が動きやすいに違いない)
そう思い、一人で行動できる機会を窺っていたのだ。
僕は逸る気持ちが顔に出ないように気をつけながら言った。
「それなら僕は欠席している間に出た課題を片づけておきます。お二人はお仕事頑張ってください」
「そうしていただけると助かります。念の為護衛をつけておきますが、くれぐれも危ない行動は控えてください」
「今はキルナちゃんじゃなく、君が狙われてるんだから、気をつけてねぇ」
「僕のことなら心配は無用です。それと、授業が終わったらすぐ部屋に戻って光魔法の結界を張るので、護衛も必要ありません」
「しかし、」
「必要ありません」
「そう……ですか」
護衛の話はきっぱりと断り、「看病ありがとうございました」と愛想よく感謝の言葉を述べて彼らを送り出した。
ところが、彼らはやはり僕をか弱いお姫様か何かだと勘違いしているらしい。
(あれほどいらないと言ったのに)
最後の授業が終わる数分前から教室の外に屈強な人間たちの気配を感じる。魔力のレベルからしておそらく護衛だろう。三人……か。いずれも手だれのようだが、リオン様とノエル様に比べれば撒くのはたやすい。
放課後になると、僕は一度大人しく部屋に帰った。
用意しておいた自分と同じくらいの大きさの人形をベッド下から引き摺り出すと、勉強机の前に座らせ呪文を唱える。すると人形はまるで僕が勉強しているかのように動き始めた。
カリカリと鉛筆がノートの上を滑る音が聞こえる。
この人形には僕の魔力を纏うように細工をしているから、外の護衛には僕の気配が感じられるはずだ。近くで見るとすぐに偽物だとわかってしまうが、護衛が許可もなく部屋の中まで入ってくることはないだろうから心配ない。
部屋に光の結界を張り準備を整えると、小さな声で転移魔法の呪文を唱え教室に戻った。
自分の席で自習しているふりをしながら待機して、やつの訪れを待つ。
(来たな……)
しばらくすると、廊下に麗しいキル兄様にそっくりのシルエットが見えた。
姿形だけは兄様、でも中身はゴミ……という邪悪な存在が、僕の方を見てケタケタと笑った。
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