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第8章

第419話 番外編:2巻発売記念 水の花

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「いくよ、ルゥ」
「はい、キルナ様。存分に」
「う~~~~ん! で、でない。なんで?」

 今日はセントラに、『魔力の水の出し方』と、『初級の魔法』を一つ教えてもらった。
 本当なら、水を出す練習をして、それが完璧にできるようになってから初級魔法の練習に移るのだって。でもどうしてもやってみたい魔法があったから我儘を言って、一気に教えてもらったの。

 やってみたかったのは、『魔力の水を好きな形に変える魔法』。

 始める前は、どうしよう、魔力の水が出たらどんな形にしよう、とワクワクしていた僕。でもやってみると難しすぎて楽しいものではなかった。
 さっきから何度も何度も練習をしているのだけれど、言われた通り呪文を唱えてもうんともすんともいわない。

(一体何が悪いんだろ……)

「もう一回頑張りましょう」

 結局その日はいくらやっても成功しなかった。
 自分は悪役だし、そもそも使える魔力が少ない。もう無理なのかも……
 それでも次の日も、また次の日も練習を続けていると、数ヶ月経ったある日、手に違和感を感じた。

(ん? 手がいつもより濡れているような……もしかしてこれって)

「みて、ルゥ、メアリー! なんかてがしっとりしてぬれてきた!! これがまりょくのみず!?」
「それはですね……」

 ルゥはちょっと困った顔をしてこちらを見ている。どうしたのかな?
 彼らによく見えるように、手のひらを突き出す。するとメアリーが寄ってきて真顔で言った。

「キルナ様、それは汗です。お拭きします」
「あ、せ……」

 火が出そうなほど顔が熱くなる。なんてこと。汗をうれしそうに見せびらかしていたなんて恥ずかしすぎる。
 ささっとハンカチで拭き取られてしまい、僕はぐうっと項垂うなだれた。

「んもうムリだよぅ。ぜんっぜんできるきがしない」

 半泣きになっている僕に、ルゥは優しくアドバイスをくれる。

「そうですね。イメージが足りていないのかもしれません。キルナ様は魔力の水が出たらそれで何か作りたいものはありますか?」
「作りたいもの?」
「キルナ様がお好きなものだと想像しやすいかと思いますが」

 ん~僕の好きなものかぁ、なんだろ?
 そだ。

(よぅし、ばっちりイメージできてる。今度こそ)

 全身の力を手のひらに向けて集める。

「むうう、おはな!」

 すると──
 手のひらに金平糖のような何かが載っていた。これは……
 小さなお花、に見える! 
 いや、でも……さっきの失敗が頭を過る。
 ちらっと横目でメアリーを見れば、またハンカチを持って近づいてきた。

(うわああん。やっぱりこれも汗なの? さっきよりはお花っぽいのに!)

 どっちなのか様子を窺うも、メアリーの表情からはわからない。近づいてくる彼女にまた手を拭かれるところを見るのが嫌でぎゅっと目を瞑った。おでこに柔らかなハンカチの感触を感じ、ゆっくりと目を開く。

「あ……の。メアリー、これって……」
「はい、それは魔力の水でできたお花です。おめでとうございます、キルナ様」

 相変わらず無表情で棒読みだけど、心なしかいつもより明るい声な気がする。そしてその横ではルゥが大量の涙を流していて怖い。

「素晴らしいです、キルナ様。魔力の水を出すだけでなく、いきなり花の形にしてみせるなんて! うう、この瞬間が見られるなんて、私は幸せです!!」

 やった、ついにできたんだ。セントラにも見せよう!
 そうっと溢さないように気をつけながら、勉強部屋にいるセントラに見せにいく。

「キルナ様どうされたのですか?」
「ふふ、じゃーん! これ、はじめてできたみずのおはな、セントラにあげる」

 水の花を差し出すと、セントラはふと黙った。そして次の瞬間には何かとても難しい呪文を唱え、それを受け取った。

「それってなんのまほう?」
「ふふ、内緒です」
「むう、きになる」

 それが『永久凍結』という最上級の氷魔法であり、魔法学園のショーケースに飾られた水の花を人々が驚きの目で見るようになることを、この時の僕はまだ知らないのだった。

                          🌼(おしまい)🌸


 ***


 2巻本日発売です!! 読者様のおかげで2巻が出ました。ありがとうございます! 1巻のキルナもちょっと思い出していただきたくて、今回は小さい頃のキルナのSSを書いてみました💐

 たくさん加筆修正し、ハプニングにイチャラブにと盛りだくさんの内容になっております。そしてそして、登場人物紹介には好奇心旺盛の彼も、あと憎き敵も!加わりました。
 1巻から成長した二人の物語を楽しんでいただけるとうれしいです🦁🐰📘💕
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