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第8章
第422話 小さな訪問客
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「あ、ポポ!」
湖から戻ってきたあとも、僕はユジンに一度も会うことができずにいた。ルーナの雫のおかげで体調もいいし、探しに行きたい気持ちはあるのだけど、クライスに強く止められてしまったから。
ただ、その寂しさを埋めるようにポポが部屋に遊びにきてくれるようになった。ちゃんとベルを鳴らしてドアの前で待っているのが面白い。
最初はまさかポポだとは思わなくて、キョロキョロとドアの外を探し、ようやくパタパタと耳を動かして浮いている彼に気づいたのだ。
「んじゃ今日もよろしくね」
小さな袋を首にくくりつけると、「わかったよ」というように「きゅう」と勇ましく鳴くポポ。袋の中には手作りクッキーがたくさん入っている。食べてくれるかわからないけれど、ユジンが特においしいと言っていたクッキーを詰め込んだ。
ふよふよと飛んでいくポポを見送って、また部屋に戻る。部屋にはロイルとギアがいて、僕の護衛をしてくれている。ユジンだけではなくクライスもここのところ、とても忙しいようで、何度か手伝うことを申し出てはみたものの、青フードの動きが活発になっているらしく却下された。
ということで、今の僕は、
(むぅ、お留守番ばっかり……)
少々やさぐれていた。危ないからついてくるなと言われているのに無理やりついていくのは迷惑でしかない。ずっと護衛してくれている騎士やギア、ロイルだって、僕がふらふらユジンやクライスを追って外に出てしまうと困るというのはわかる。でもでも、せっかくお腹の痛みが減ったのに、学園の授業の時以外は部屋に篭りっきりなんて!
(ふう、でも仕方ないよね。今できることをしよ。っていうか、もうすぐまたテストがあるし……)
この間テストが終わったところだと思ったらまた次は二学期の期末テスト。時間の流れが早すぎて死にそう。一度いい点数が取れたからって、次が悪かったら意味がない。しっかり勉強しなきゃ。次は僕が苦手な実技のテストもあるし……
「キルナ様、計算問題のミスが前より減ってますね。さすがです」
「解くのも早いし、すごいです。薬草学のことも細かいところまでよく覚えてますね!」
「へへ、二人が勉強教えてくれるおかげだよ。ありがと」
一緒にテスト勉強をしているロイルとギアに褒められてだだ下がりだったテンションが上がる。最近はずっとセントラとの補習の後、彼らと一緒に部屋で勉強をしているから、二人には僕のちょっとした成長もよくわかるらしく、こうして些細な進歩も見つけて誉めてくれるのがうれしい。
「そだ、今日もクッキーたくさん焼いたから持って帰ってね」
「「ありがとうございます!」」
「うん……」
お礼を言うのは僕の方だと思う。
大食いだという彼らのためにお菓子を作るのは、自分のもやもやとした気持ちを紛らわせるのにすごく役立っている。戻ってきたらクライスにもあげよう。きっと喜んでくれるに違いない。
でもこれでいいのだろうか? ユジンに謝ることもできず、クライスが何やら忙しいのを手伝うこともできず、ただテスト勉強をして、普通に過ごして……
ルーナの花……死期が近づくと咲く花が、もうすぐ咲く。
(もうすぐ死ぬかもしれないのに? もっとやるべきことがあるんじゃ?)
「キルナ様、どうかされましたか?」
「え、いや、なんでもないよ」
心配そうに問いかけたロイルにそう返し、僕は問題の続きに取りかかった。
湖から戻ってきたあとも、僕はユジンに一度も会うことができずにいた。ルーナの雫のおかげで体調もいいし、探しに行きたい気持ちはあるのだけど、クライスに強く止められてしまったから。
ただ、その寂しさを埋めるようにポポが部屋に遊びにきてくれるようになった。ちゃんとベルを鳴らしてドアの前で待っているのが面白い。
最初はまさかポポだとは思わなくて、キョロキョロとドアの外を探し、ようやくパタパタと耳を動かして浮いている彼に気づいたのだ。
「んじゃ今日もよろしくね」
小さな袋を首にくくりつけると、「わかったよ」というように「きゅう」と勇ましく鳴くポポ。袋の中には手作りクッキーがたくさん入っている。食べてくれるかわからないけれど、ユジンが特においしいと言っていたクッキーを詰め込んだ。
ふよふよと飛んでいくポポを見送って、また部屋に戻る。部屋にはロイルとギアがいて、僕の護衛をしてくれている。ユジンだけではなくクライスもここのところ、とても忙しいようで、何度か手伝うことを申し出てはみたものの、青フードの動きが活発になっているらしく却下された。
ということで、今の僕は、
(むぅ、お留守番ばっかり……)
少々やさぐれていた。危ないからついてくるなと言われているのに無理やりついていくのは迷惑でしかない。ずっと護衛してくれている騎士やギア、ロイルだって、僕がふらふらユジンやクライスを追って外に出てしまうと困るというのはわかる。でもでも、せっかくお腹の痛みが減ったのに、学園の授業の時以外は部屋に篭りっきりなんて!
(ふう、でも仕方ないよね。今できることをしよ。っていうか、もうすぐまたテストがあるし……)
この間テストが終わったところだと思ったらまた次は二学期の期末テスト。時間の流れが早すぎて死にそう。一度いい点数が取れたからって、次が悪かったら意味がない。しっかり勉強しなきゃ。次は僕が苦手な実技のテストもあるし……
「キルナ様、計算問題のミスが前より減ってますね。さすがです」
「解くのも早いし、すごいです。薬草学のことも細かいところまでよく覚えてますね!」
「へへ、二人が勉強教えてくれるおかげだよ。ありがと」
一緒にテスト勉強をしているロイルとギアに褒められてだだ下がりだったテンションが上がる。最近はずっとセントラとの補習の後、彼らと一緒に部屋で勉強をしているから、二人には僕のちょっとした成長もよくわかるらしく、こうして些細な進歩も見つけて誉めてくれるのがうれしい。
「そだ、今日もクッキーたくさん焼いたから持って帰ってね」
「「ありがとうございます!」」
「うん……」
お礼を言うのは僕の方だと思う。
大食いだという彼らのためにお菓子を作るのは、自分のもやもやとした気持ちを紛らわせるのにすごく役立っている。戻ってきたらクライスにもあげよう。きっと喜んでくれるに違いない。
でもこれでいいのだろうか? ユジンに謝ることもできず、クライスが何やら忙しいのを手伝うこともできず、ただテスト勉強をして、普通に過ごして……
ルーナの花……死期が近づくと咲く花が、もうすぐ咲く。
(もうすぐ死ぬかもしれないのに? もっとやるべきことがあるんじゃ?)
「キルナ様、どうかされましたか?」
「え、いや、なんでもないよ」
心配そうに問いかけたロイルにそう返し、僕は問題の続きに取りかかった。
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読み直ししてます。
キルナがほんと可愛くて、独り言含めて話し方も思考も可愛くて、愛しいのだけど、自己評価が低くて、自分は消える前提で、頑張ったり、耐えるのが切ないです😢
早くハッピーになって欲しい
読み直しありがとうございます•͙‧⁺o(⁎˃ᴗ˂⁎)o⁺‧•͙‧⁺キルナの話し方や性格を気に入っていただけてすごくうれしいです。
おっしゃる通り、キルナの自己評価はいつも最低レベルで、大事な人たちの幸せのためなら自分はどうなってもいい、って思ってるところが辛いですよね🐰⭐️
前世から続いてるこの考え方はなかなか変えるのが難しいところですが、クライスくんに頑張ってもらいたいところです🦁🌊キルナの幸せを願ってくださりありがとうございます!!
ユジンが大丈夫って言っても信用されないキルナたんと同じ扱い受けてる☺️
微熱あるなら休んで欲しいけどね💦
ユジン無理しないで💦
おぉ、お気づきになりましたか!?やっぱり兄弟、こんなところまで似ちゃって🐰🐺とニマニマしながら書きました🥰
不眠やら微熱やら、実は結構苦労しているユジン。でも全然休む気がないという……。ユジンの心配してくださりありがとうございます〜(*´꒳`人)アリガトウ💕
あああ〜〜〜やっぱりキルナに癒されます〜〜〜😆
なんでこんなに可愛いのぉ〜〜〜😍
しばらく読むのでいっぱいいっぱいで気づいたら約2年ぶりの感想でした😱
書籍も買わせていただきました‼️
これからも読み続けますっ‼️
ふふふ、キルナを盛大に可愛がってくださりありがとうございます😆
いや、あの、その…私も本書くのにいっぱいいっぱいで全然更新できなかったので💦2年ぶりに感想いただけてめちゃくちゃうれしいです。
書籍ゲットしてくださりありがとうございます(,,>᎑<,,)✨しかもこれからも読んでくださるなんて、うれしすぎて泣きそう😭あれこれ書きたい気持ちが溢れた結果、全体的にボリュームアップして360ページ近くある本になったので、ゆっくり楽しんでいただけるといいな〜って思います☕️