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第8章
第417話 ユジンSIDE 囮作戦③ 触れられない記憶
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(なんで思い出せないんだ? キル兄様に関することを僕が忘れるなんてありえないのに!)
僕はあれから何度も一瞬で消えてしまった映像を思い出そうと足掻いていた。あの映像がどんなものだったのか、何を意味しているのか、何度も何度も考える。
目の前で兄らしき人が死ぬというお決まりの悪夢も、日が経つにつれより鮮明になっていて、今にも全てがわかりそうな気がする。なのに、いざそこに辿り着きそうになると、酷い頭痛がして吐きそうになる。
ーー手を伸ばした先に見える真っ赤な鮮血。
その先に答えにつながる何かがあるはずなんだ。
ぽたぽたぽた……
赤い血を吐くシーンが頭に浮かぶと同時に強い吐き気を感じ、廊下の真ん中で立ち止まってしまった。すっと隣にきたリオン様が僕の額の汗をハンカチで拭う。
「ユジン様、顔色が悪いようです。今日の捜索はここまでにしましょう」
「ほんとだ、真っ青だよ。ここ最近、遅くまで偽キルナちゃんの探索してたし、疲れてるんじゃない?」
「いえ、大丈夫です」
心配してくれる二人には悪いが、犯人の捜索は続けたい。休んでいる暇なんてない。
(だって兄様には時間がないんだ……)
無理やり足を進めようとしてよろめきふらついた体を両脇から支えられる。と、次の瞬間視界が反転し、体が宙に浮いた。
(……って、えええ!?)
「ノエル……様?」
なんと、ノエル様に持ち上げられていて愕然とする。このお姫様みたいな容貌をしている彼にお姫様抱っこされているなんて屈辱でしかない。
「お、降ろしてください!」
「ダメだよ。ユジンくんフッラフラだからこれ以上無理はさせられない。ユジンくんの部屋まで僕が運んであげるよ」
「そうですよ。今日はもう帰りましょう。大丈夫です、ノエルはこう見えてギアの次にバカ力なので」
「あ~~なんか余計な言葉が聞こえたような~~!!」
「気のせいです」
(この二人、前から思っていたけど、あんまり仲はよくないのか?)
とにかく降ろしてもらおうともがくが、本当に馬鹿力でびくともしない。彼らの魔法であっという間に自室に転移すると、そのままベッドの上に寝かされてしまった。すると、自覚していなかった疲れが一気に押し寄せベッドから動けなくなる。あまりの不甲斐なさに、はぁと重いため息を吐いた。
(こんなふうに体調を崩すことはここ最近はなかったのに、しくじったな……)
ノエル様はバタバタとどこかへ出かけていき、リオン様は冷たいおしぼりを僕の額に載せたり布団をかけてくれたりとベッド周りを整えてくれる。病人扱いしないでくれと言いたいのに……一度閉じてしまった瞼はそう簡単に開けられそうになかった。どろどろとした強い眠気を感じる。
僕はぼんやりとした頭で、今と同じように衰弱して倒れたあの時のことを思い出していた。
僕はあれから何度も一瞬で消えてしまった映像を思い出そうと足掻いていた。あの映像がどんなものだったのか、何を意味しているのか、何度も何度も考える。
目の前で兄らしき人が死ぬというお決まりの悪夢も、日が経つにつれより鮮明になっていて、今にも全てがわかりそうな気がする。なのに、いざそこに辿り着きそうになると、酷い頭痛がして吐きそうになる。
ーー手を伸ばした先に見える真っ赤な鮮血。
その先に答えにつながる何かがあるはずなんだ。
ぽたぽたぽた……
赤い血を吐くシーンが頭に浮かぶと同時に強い吐き気を感じ、廊下の真ん中で立ち止まってしまった。すっと隣にきたリオン様が僕の額の汗をハンカチで拭う。
「ユジン様、顔色が悪いようです。今日の捜索はここまでにしましょう」
「ほんとだ、真っ青だよ。ここ最近、遅くまで偽キルナちゃんの探索してたし、疲れてるんじゃない?」
「いえ、大丈夫です」
心配してくれる二人には悪いが、犯人の捜索は続けたい。休んでいる暇なんてない。
(だって兄様には時間がないんだ……)
無理やり足を進めようとしてよろめきふらついた体を両脇から支えられる。と、次の瞬間視界が反転し、体が宙に浮いた。
(……って、えええ!?)
「ノエル……様?」
なんと、ノエル様に持ち上げられていて愕然とする。このお姫様みたいな容貌をしている彼にお姫様抱っこされているなんて屈辱でしかない。
「お、降ろしてください!」
「ダメだよ。ユジンくんフッラフラだからこれ以上無理はさせられない。ユジンくんの部屋まで僕が運んであげるよ」
「そうですよ。今日はもう帰りましょう。大丈夫です、ノエルはこう見えてギアの次にバカ力なので」
「あ~~なんか余計な言葉が聞こえたような~~!!」
「気のせいです」
(この二人、前から思っていたけど、あんまり仲はよくないのか?)
とにかく降ろしてもらおうともがくが、本当に馬鹿力でびくともしない。彼らの魔法であっという間に自室に転移すると、そのままベッドの上に寝かされてしまった。すると、自覚していなかった疲れが一気に押し寄せベッドから動けなくなる。あまりの不甲斐なさに、はぁと重いため息を吐いた。
(こんなふうに体調を崩すことはここ最近はなかったのに、しくじったな……)
ノエル様はバタバタとどこかへ出かけていき、リオン様は冷たいおしぼりを僕の額に載せたり布団をかけてくれたりとベッド周りを整えてくれる。病人扱いしないでくれと言いたいのに……一度閉じてしまった瞼はそう簡単に開けられそうになかった。どろどろとした強い眠気を感じる。
僕はぼんやりとした頭で、今と同じように衰弱して倒れたあの時のことを思い出していた。
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