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第8章
第403話 ルーナの花探し①
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「孤島といってもいくつかあるな。どのあたりかわかるか?」
「たぶん、花の場所は妖精が教えてくれると思う。前もそうだったから」
ちょうど湖の水からぱしゃんと華麗なジャンプをキメた妖精にルーナの花のある場所を尋ねてみると、「しってるよ~」と即答してくれた。話しかけられたのが嬉しかったのか、満面の笑みでヒュルリと先を飛んでいく。
「ルーナのはなはこっちだよ~ついてきて~」
「あ、待って」
動きの速い妖精を見逃すまいとして水中に足を踏み入れそうになって、ふと止まる。
(あ、そうだ。一人で行っちゃダメだった)
痛いくらい強く握られた手の先をみると、クライスが緊張した面持ちで僕を見ていた。
「ねえ、クライス。妖精が呼んでる。ルーナの花はあっちだって。一緒に行こ!」
僕も力を入れて手を握り返すと、今にも泣き出しそうな顔をしていた彼が少しだけホッとした顔をして頷いた。前回彼を置いて一人で行ってしまったことを思い出してたのかも……と思うと申し訳ない気持ちになる。
絶対にクライスの手を離さないことと、あとは絶対に絶対に溺れないこと。それが大事だ。“水に入れば溺れる悪役令息”の汚名を今日こそ返上してみせる!
「今日の僕は一味違うから、溺れたりしないよ。安心して」
「それはいい心構えだな。だが、できるだけ水には入らずに行こう」
「んぇ? どういうこと?」
彼の合図で数名の護衛騎士たちが力を合わせて何かを運んできて湖にそれを浮かべた。ふむふむ、先端が細く木の葉のような形をしているこれは、エメラルドグリーンにゴールドの紋様が施されなんとも豪華ではあるものの、前世でも湖や池でお馴染みの乗り物にそっくり。
「手漕ぎボート?」
「ああ、危険はなるべく減らしたいからな」
もしも水に入ることになった時のために二人で入念にストレッチをしてから、先にクライスが乗り、続いて僕が乗り向かい合って座った。オールがついているけれど、どうやらこれは魔道具だから自力で漕ぐ必要はないらしい。クライスがオールを握って魔力を流すだけであとは勝手に回転してボートは前方に向かって進んでいく。
「妖精は俺には見えないから場所を教えてくれ」
「ん、任せて。えと、あっちだよ」
クライスはまだ緊張しているのか、口数が少ない。絶えず周囲を警戒しているように見える。
僕の方はというと、妖精が花まで道案内してくれているし、近くにクライスがいるし、不安はもうほとんどない。むしろこんなに美しい湖を二人でボートに乗って渡るなんて、ちょっと素敵だと思っていることは内緒だ。
ルーナの花……
前にここでユジンにルーナの花びら入りハーブティーを飲ませるイベントを思い出した僕は、どうしようもなく取り乱してしまい、花の芽を引きちぎって湖に投げ捨てようとまで考えていた(実際には妖精の世界に行ってしまって無理だったけど)。それを思えば、今こんなに穏やかな気持ちでルーナの花探しをしていることが奇跡だと思う。
(クライスが僕のことを聞いてくれて、「大丈夫、絶対に死なせない」って言ってくれた。それがなかったらきっとこうして自分のために花を探そうとはしなかっただろうな……)
思いを巡らせているうちにボートはかなり進んでいた。まだ朝方のはずが、奥に進むにつれて暗く翳っていき、闇が深くなっていく。
「あれ、さっきは咲いてなかったのに……」
「そうだな。まだ咲くには早いはずだが」
キラキラキラ……
周囲の草むらにヒカリビソウの花が開いていた。時期的にはまだ早いはずの水色の花が咲き乱れ、青白い光を放っている。その光を受けて虹色に輝く水面も、この世のものというにはあまりにも幻想的で、いつの間にか妖精の世界に紛れ込んでいるような気がした。
「ここだよ~」
前を行く妖精がほんの小さな孤島の上空で止まった。
「あの島だって」
「たぶん、花の場所は妖精が教えてくれると思う。前もそうだったから」
ちょうど湖の水からぱしゃんと華麗なジャンプをキメた妖精にルーナの花のある場所を尋ねてみると、「しってるよ~」と即答してくれた。話しかけられたのが嬉しかったのか、満面の笑みでヒュルリと先を飛んでいく。
「ルーナのはなはこっちだよ~ついてきて~」
「あ、待って」
動きの速い妖精を見逃すまいとして水中に足を踏み入れそうになって、ふと止まる。
(あ、そうだ。一人で行っちゃダメだった)
痛いくらい強く握られた手の先をみると、クライスが緊張した面持ちで僕を見ていた。
「ねえ、クライス。妖精が呼んでる。ルーナの花はあっちだって。一緒に行こ!」
僕も力を入れて手を握り返すと、今にも泣き出しそうな顔をしていた彼が少しだけホッとした顔をして頷いた。前回彼を置いて一人で行ってしまったことを思い出してたのかも……と思うと申し訳ない気持ちになる。
絶対にクライスの手を離さないことと、あとは絶対に絶対に溺れないこと。それが大事だ。“水に入れば溺れる悪役令息”の汚名を今日こそ返上してみせる!
「今日の僕は一味違うから、溺れたりしないよ。安心して」
「それはいい心構えだな。だが、できるだけ水には入らずに行こう」
「んぇ? どういうこと?」
彼の合図で数名の護衛騎士たちが力を合わせて何かを運んできて湖にそれを浮かべた。ふむふむ、先端が細く木の葉のような形をしているこれは、エメラルドグリーンにゴールドの紋様が施されなんとも豪華ではあるものの、前世でも湖や池でお馴染みの乗り物にそっくり。
「手漕ぎボート?」
「ああ、危険はなるべく減らしたいからな」
もしも水に入ることになった時のために二人で入念にストレッチをしてから、先にクライスが乗り、続いて僕が乗り向かい合って座った。オールがついているけれど、どうやらこれは魔道具だから自力で漕ぐ必要はないらしい。クライスがオールを握って魔力を流すだけであとは勝手に回転してボートは前方に向かって進んでいく。
「妖精は俺には見えないから場所を教えてくれ」
「ん、任せて。えと、あっちだよ」
クライスはまだ緊張しているのか、口数が少ない。絶えず周囲を警戒しているように見える。
僕の方はというと、妖精が花まで道案内してくれているし、近くにクライスがいるし、不安はもうほとんどない。むしろこんなに美しい湖を二人でボートに乗って渡るなんて、ちょっと素敵だと思っていることは内緒だ。
ルーナの花……
前にここでユジンにルーナの花びら入りハーブティーを飲ませるイベントを思い出した僕は、どうしようもなく取り乱してしまい、花の芽を引きちぎって湖に投げ捨てようとまで考えていた(実際には妖精の世界に行ってしまって無理だったけど)。それを思えば、今こんなに穏やかな気持ちでルーナの花探しをしていることが奇跡だと思う。
(クライスが僕のことを聞いてくれて、「大丈夫、絶対に死なせない」って言ってくれた。それがなかったらきっとこうして自分のために花を探そうとはしなかっただろうな……)
思いを巡らせているうちにボートはかなり進んでいた。まだ朝方のはずが、奥に進むにつれて暗く翳っていき、闇が深くなっていく。
「あれ、さっきは咲いてなかったのに……」
「そうだな。まだ咲くには早いはずだが」
キラキラキラ……
周囲の草むらにヒカリビソウの花が開いていた。時期的にはまだ早いはずの水色の花が咲き乱れ、青白い光を放っている。その光を受けて虹色に輝く水面も、この世のものというにはあまりにも幻想的で、いつの間にか妖精の世界に紛れ込んでいるような気がした。
「ここだよ~」
前を行く妖精がほんの小さな孤島の上空で止まった。
「あの島だって」
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