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第8章

第402話 新作の水着(ちょい※)

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「またここに来ることになるとはな……。今度は手を放すなよ」
「だいじょぶ。もう一人でいなくなったりしないよ」

週末、僕たちは再びヒカリビソウの湖にやってきていた。僕たちにとってここは結構複雑な場所だ。

誓いの湖と呼ばれるこの場所でゲームのキルナがクライスにこっぴどく振られ地面に這いつくばった場所でもあるし、泳ぐ練習をしたりキャラ弁を食べた楽しい思い出の場所でもあるし、そうかと思えば妖精に呼ばれて妖精の世界に連れて行かれた場所でもある。でも、妖精側の湖は初体験の場所でもあるわけで……。

(あの時のクライス、激しかったな)

「ん? 何赤くなっているんだ?」
「え……あ……えと、ルーナの花は本当にあるかな~って心配でドキドキしてたの」
「ああ、そうだな。俺も正直少し緊張している。明るいうちに探そう。たしかこの湖の孤島にあると言っていたな?」
「うん」

ヒカリビソウの湖にルーナの花が咲く。それは『ニジウミ』で得た情報だ。キルナ=フェルライトはここでクライスにキスをせがんで手酷く拒否され、一人取り残されたこの湖でルーナの花をみつけた。それを使って弟の殺害を画策するのだ。結局それは攻略対象たちに阻まれてしまうわけだけど。

紺の髪に金色の瞳に白い肌、あの日地面をガリガリと引っ掻いたせいで剥がれた桃色の爪。

湖にはゲームのキルナと同じ容姿をしている僕が映っている。中身は違うけど、僕には彼の辛い気持ちが手に取るようにわかる。家族の愛情を独り占めする弟に嫉妬し、愛する婚約者まで奪われた、嫌われ者の悪役令息の気持ちが。

そりゃ毒ぐらい盛るかもしれないと思ってしまう自分に身震いする。

(ちがうちがう、そんなことしない)

この世界はゲームとは違う。ユジンは可愛い弟だし、僕は絶対に彼に毒なんて盛らない。たとえゲーム通り弟との仲がうまくいってなかったとしても。

「キルナ、できるだけ早く花を見つけて戻ろう」
「ん、まだ2学期だから花が咲くには早いと思うけど。ルーナの花は成長が遅いらしいから、3学期に咲くならもう大分大きく育っているかもしれないね」

ルーナの花は前世の百合に似ていて結構大きい。色は地味だけど目立つ花だから見つけるのはそう難しくない気がする。ただ、なにせその生態はよくわかっていないから図鑑の情報が正しいのかも不明だし、ゲーム通りここにあるのかもわからない。

(見つかるかな?)

色々と不安はあるものの他に手がかりもないし、とにかくここを探すしかない。


湖に入る前に二人で水着に着替える。水着を取りに一度家に立ち寄ってからきたのだけど、ルゥが「お気をつけて」と目をうるうるさせながらこの水泳セットを渡してきた。

急いでいたから確認する間がなかったけれど、前回と同じだと困るな……。そう思いながら袋から取り出した水着は、黒ではなくアイスブルーの綺麗な色をしている。

「あ、前のと違うやつだ、よかった~。って、んぇ??」

広げてみるとなんと! 前のと色違いの紐ビキニだった。ウサ耳フード付きのスケスケラッシュガードは、白い透け感のあるレースの布にキラキラと光るゴールドのラメが散りばめられ、前回より派手になっている。

(もうもうもう、ルゥったら! こんなの絶対着こなせないのにさらに目立たせるなんて! 帰ったら絶対文句を言ってやるぅ)

呪いの言葉を吐き出すのを我慢しながらなんとか着替えると、

「着替え終わったか?」

後ろを向いて着替えていた彼が振り返り、僕を見て、また向こうを向いた。見たくもないくらい似合わないのかな。

「やっぱ変だよね? 今日は別に泳ぐわけじゃないし、やっぱり脱ぐよ。服のまま探そ……」
「待て、似合ってるから脱がないでくれ」
「え?」

サイドの紐を解こうとしたところを背後から逞しい腕に掴まれ止められてしまった。

「いや、思いきり俺の色だったものだから、照れてしまったんだ。すまない」
「クライスの色? あ……」

ビキニのアイスブルーはクライスの瞳の色で、キラキラ光るゴールドのラメはクライスの髪の毛の色だった。これってまるで僕の体を彼が包み込んでいるような。大事な部分を彼が守ってくれているような。

紐ビキニを見て、そこを包み込むような彼の手を想像すると、んっぎゃああ一気に体が熱くなってきた。

「は、早くさがそっ!」

真っ赤になった体を冷やすため、僕は彼を湖へと引っ張っていった。
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