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第8章
第397話 ユジンSIDE 生徒会室からの呼び出し②
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抑えきれない魔力のせいで、生徒会室が長時間灼熱の太陽に照らされた砂漠のように暑くなっていく。
「まずい状態だな。ユジン、気を鎮めて力を抑えろ」
「はぁ…はぁ…駄目だ…力の制御が…できない。おう…じ……僕から離れてください」
身体が熱い。こんなところで炎を出してはいけないと、頭ではわかっているが、止められない。目の前が真っ赤で何も見えず、何も聞こえなくなってきた。
遠くから? いや、すぐ近くから、自分の口から声が聞こえる。
『死なないで……』
泣いているのは誰だ?
僕?
いや違う、またあの夢。僕は優斗と呼ばれる少年になって何かを叫んでいる。目の前で死にゆく人を見ながら、無力な自分に絶望している。
『生きて!! 生きてよ!! ーーーー七海』
重苦しい後悔の念が体を支配する。どこもかしこも燃えるように熱い。このまま自分は死ぬんじゃないかとさえ思う。
すると、硬く握りしめた拳が無理やり開かされ、その手にひんやりと冷たいものを渡された。視覚や聴覚を超えて、脳内に直接流れ込んできたそのイメージは、
「う…み……?」
少し冷静になり、見えるようになった目で自分の右手を見てみると、そこには小さな丸い海があった。ザー…ザザーーン……と小さな海面が波打つたびに心地よい波の音が聞こえ、徐々に心が静まっていく。しばらくすると、虹色の海からぽろりと何かがこぼれ落ちた。
(あ、これは…キル兄様の水の花だ)
小さな水の花を手にすると、心が喜びで満ちた。水の花をカラカラになった口に含めば、固形だった花はじゅわりと溶け、甘い魔力の水になる。
(おいしい……)
乾いた身体に染み渡る水の魔力に、ようやく思考が働き始めた。
手渡されたものは、懐中時計だった。今はつるりとして何もない金色の表蓋は、魔法で細工がしてあり、魔力を流すと蓋に海のイメージが浮かび上がるようになっているらしい。
鑑定してみると、中に入っている魔宝石から小さな小さな優しい水の魔力を感じる。それはよく知っている魔力で、自分を救ってくれる唯一の人のものだった。
「落ち着いたか? もう大丈夫なようだな」
クライス王子がポンと僕の肩を叩く。いつの間にか危険な魔力が収まり部屋の温度も正常に戻っている。周囲を見まわし、どこも被害を受けていないことにほっとした。
「すみません。キル兄様の魔力が感じられるこの懐中時計のおかげで、正気に戻りました。ありがとうございます」
「その時計にはキルナの魔力が込められた魔宝石が入っているからな」
兄様の魔宝石入りの懐中時計という素晴らしすぎるものを貸してくれるなんて、この王子は太っ腹かもしれない(自分なら絶対に誰にも貸さないだろう)。傷つけないよう気をつけながら、クライス王子の手にそれを返した。
そのやりとりが終わると同時に、リオン様が僕に向かって深々と頭を下げた。
「先ほどは軽率な発言をしてしまい、申し訳ございません。今朝、ユジン様への嫌がらせの犯行現場を目撃したばかりでしたので、ついあのような発言をしてしまいました。どうかお許しください」
「え? 犯人を見たんですか!? その話を詳しく聞かせてください」
彼の話によると、今日の早朝と放課後にリオン様とノエル様が、嫌がらせを実行する犯人の姿を目の前で確認したらしい。その犯人がまるきりキル兄様の姿と声だったことで、ありえないとは思いながらも疑惑の念を抱いたらしい。
そこに文字も魔力も兄様に似ていたという事実が加わり、疑うような発言をしてしまったという。
「実は、前にも似た場面を目撃したことがあったのです。6年生の1学期、最初のころです。早朝、一年生の靴箱の前でキルナ様がお一人で何かしているようだったので見守っていると、ユジン様の上靴の中に、水の花を入れておられました。その時は、危険なものではなかったのでそのままにしていたのですが……」
「まずい状態だな。ユジン、気を鎮めて力を抑えろ」
「はぁ…はぁ…駄目だ…力の制御が…できない。おう…じ……僕から離れてください」
身体が熱い。こんなところで炎を出してはいけないと、頭ではわかっているが、止められない。目の前が真っ赤で何も見えず、何も聞こえなくなってきた。
遠くから? いや、すぐ近くから、自分の口から声が聞こえる。
『死なないで……』
泣いているのは誰だ?
僕?
いや違う、またあの夢。僕は優斗と呼ばれる少年になって何かを叫んでいる。目の前で死にゆく人を見ながら、無力な自分に絶望している。
『生きて!! 生きてよ!! ーーーー七海』
重苦しい後悔の念が体を支配する。どこもかしこも燃えるように熱い。このまま自分は死ぬんじゃないかとさえ思う。
すると、硬く握りしめた拳が無理やり開かされ、その手にひんやりと冷たいものを渡された。視覚や聴覚を超えて、脳内に直接流れ込んできたそのイメージは、
「う…み……?」
少し冷静になり、見えるようになった目で自分の右手を見てみると、そこには小さな丸い海があった。ザー…ザザーーン……と小さな海面が波打つたびに心地よい波の音が聞こえ、徐々に心が静まっていく。しばらくすると、虹色の海からぽろりと何かがこぼれ落ちた。
(あ、これは…キル兄様の水の花だ)
小さな水の花を手にすると、心が喜びで満ちた。水の花をカラカラになった口に含めば、固形だった花はじゅわりと溶け、甘い魔力の水になる。
(おいしい……)
乾いた身体に染み渡る水の魔力に、ようやく思考が働き始めた。
手渡されたものは、懐中時計だった。今はつるりとして何もない金色の表蓋は、魔法で細工がしてあり、魔力を流すと蓋に海のイメージが浮かび上がるようになっているらしい。
鑑定してみると、中に入っている魔宝石から小さな小さな優しい水の魔力を感じる。それはよく知っている魔力で、自分を救ってくれる唯一の人のものだった。
「落ち着いたか? もう大丈夫なようだな」
クライス王子がポンと僕の肩を叩く。いつの間にか危険な魔力が収まり部屋の温度も正常に戻っている。周囲を見まわし、どこも被害を受けていないことにほっとした。
「すみません。キル兄様の魔力が感じられるこの懐中時計のおかげで、正気に戻りました。ありがとうございます」
「その時計にはキルナの魔力が込められた魔宝石が入っているからな」
兄様の魔宝石入りの懐中時計という素晴らしすぎるものを貸してくれるなんて、この王子は太っ腹かもしれない(自分なら絶対に誰にも貸さないだろう)。傷つけないよう気をつけながら、クライス王子の手にそれを返した。
そのやりとりが終わると同時に、リオン様が僕に向かって深々と頭を下げた。
「先ほどは軽率な発言をしてしまい、申し訳ございません。今朝、ユジン様への嫌がらせの犯行現場を目撃したばかりでしたので、ついあのような発言をしてしまいました。どうかお許しください」
「え? 犯人を見たんですか!? その話を詳しく聞かせてください」
彼の話によると、今日の早朝と放課後にリオン様とノエル様が、嫌がらせを実行する犯人の姿を目の前で確認したらしい。その犯人がまるきりキル兄様の姿と声だったことで、ありえないとは思いながらも疑惑の念を抱いたらしい。
そこに文字も魔力も兄様に似ていたという事実が加わり、疑うような発言をしてしまったという。
「実は、前にも似た場面を目撃したことがあったのです。6年生の1学期、最初のころです。早朝、一年生の靴箱の前でキルナ様がお一人で何かしているようだったので見守っていると、ユジン様の上靴の中に、水の花を入れておられました。その時は、危険なものではなかったのでそのままにしていたのですが……」
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