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第8章
第398話 ユジンSIDE 生徒会室からの呼び出し③
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上靴の中に水の花。それにはたしかに覚えがあった。
「ええ、それはキル兄様で間違いないですね。その時の水の花は大切に保管してありますので、調べればすぐにわかります。調べなくても僕が兄様の水の花を見間違えるはずはありませんが」
「本物のキルナ様が水の花を仕込んだのですか? なぜそんなことを……?」
「そんなの決まってます。僕へのサプライズプレゼントです。僕が水の花が好きなことを兄様は知っていますので」
本当に?? という表情で僕を見つめるリオン様とノエル様。クライス王子だけはふむふむと頷いている。
「たしかに水の花は可愛らしく美しい。もらったら嬉しいだろうな。キルナはたまにサプライズのプレゼントをくれることがあるから、そういうことがあったとしても不思議ではない。この時計も、誕生日でもない日に誕生日プレゼントとして用意してくれたものだ」
「その懐中時計、いいですね。海が好きなキル兄様らしいプレゼントだ」
キル兄様は公爵家にいる間、暇さえあればいつも砂時計を眺めていた。あの砂時計の中の砂は王子と行った海で拾ってきたのだと聞いている。
『とっても綺麗だったの。七色の海、ユジンにも見せてあげたい』
フェルライト領の港街には遊びに行くことがあるから正直海なんて見慣れていたけど、僕は首が壊れそうなくらいこくこく頷いたのだった。兄様となら何度でも見たいと思って。
キル兄様の作った懐中時計は心底羨ましい。でも、僕にはこれがある、と兄様にもらったものを思い出してニマニマしていると、鋭い王子に「お前、他にもキルナに何かもらったのか」と聞かれてしまう。教えたくはないけれど、言い逃れはできそうにない。
「実は以前、こんなものも頂きました」
そう言って僕がカバンから取り出したものにみんなの目が釘付けになる。
「それってただの数術の教科書じゃないんですかぁ? すっごいボロボロだし、誰かの使い古し?」
ノエル様もリオン様も首を傾げているが、クライス王子だけははっとした表情を浮かべた。
「そ、それはもしや、一年生の時のキルナの教科書か!? 恥ずかしいから見るなと言われ、俺も触らせてもらえなかったのに!」
「ふふふ、王子、よくわかりましたね。そうなんです。僕の教科書を貸したら、代わりにキル兄様が自分の使っていたものをくれたんです。書き込みがたくさんしてあって見ているだけで心が和みます。たまに計算を間違えてるのが本当に可愛いらしくて」
「……そんな教科書では集中できないだろう。俺のと交換してやる」
「嫌です。僕の宝物なので」
「でも、なぜそんなものを代わりに渡したのでしょう」と呟くリオン様に、僕は仕方なく答えを教えてあげた。
「僕へのご褒美ですよ。きっと」
「「ご褒美???」」と、二人がまたしても首を捻った。兄様の教科書の価値がわかってない彼らには、これがすごいご褒美だとわからないらしい。リオン様はとくに頭が固い気がするし、理解できないのだろう。そんな二人にクライス王子が苦笑する。
「まぁ俺の経験から言わせてもらえば、キルナの行動を筋道立てて論理的に説明するのは至難の業だ。あいつはいつも予想もつかないことをするからな」
「たしかにキルナちゃんは昔から不思議なとこありますもんね~。初めて会ったお茶会でも、なんで女の子の格好だったのか未だにわかんないですし」
キル兄様が女の子の格好でお茶会!? かなり気になる話だが、今は先に考えるべきことがある。頭に浮かび上がる愛らしいドレス姿の兄様から全力で気持ちを逸らし、彼らに向き合った。
「リオン様が見た水の花を仕込む兄様は本物ですが、他はニセモノです。また兄様の悪評が流れる前に早く探して捕まえないと。悪事を働いて、兄様に責任をなすりつけるなんて許せません!」
「ああ、そうだな」
「ただ、嫌がらせは煩わしいと思っていましたが、これはチャンスかもしれません」
「チャンス?」
「僕に仕掛けてくるなら犯人に接触できるかもしれない。犯人はまだ逃げ回っている青フードと見て間違いないでしょう。これだけ探しても容姿もわからず、すぐに姿をくらませてしまうやっかいな相手ですが、今回はキル兄様の姿をしているというのだから、見つけるのは簡単です。騙されたふりをして油断させ、接触してきたところを捕まえたらいい」
「ユジンが囮になるということか。だがそれはさすがに危険だろう。相手は黒魔法すら使う危険な人間なんだぞ。騎士をつけていても対処できるかどうか」
「ふふ、クライス王子は兄様が言ってた通り心配性ですね。でも必要ありません。騎士などつけて警戒されては困ります」
騎士を配置することを断固拒否すると、渋々彼は言った。
「ならば、せめてリオンとノエルを連れておけ」
「護衛はもちろん、犯人探しもお手伝いさせてください」
「僕も、次は絶対ニセキルナちゃん捕まえます」
「ありがとうございます。あと、このことは絶対キル兄様には内緒にしてください。知ってしまったら兄様のことだから……」
「お前を助けるために自分で犯人を捕まえようとするだろうな。たしかにそれは危険でしかない。わかった。このことはキルナには秘密にしておく。くれぐれも無茶はするな」
「はい」
頷いたものの、兄様のためなら無茶でもなんでもすると決めている。
大切なものが目の前で消える。
そんな喪失感を味わうのは一度で十分だ。
ーー今度は絶対に守る。
「ええ、それはキル兄様で間違いないですね。その時の水の花は大切に保管してありますので、調べればすぐにわかります。調べなくても僕が兄様の水の花を見間違えるはずはありませんが」
「本物のキルナ様が水の花を仕込んだのですか? なぜそんなことを……?」
「そんなの決まってます。僕へのサプライズプレゼントです。僕が水の花が好きなことを兄様は知っていますので」
本当に?? という表情で僕を見つめるリオン様とノエル様。クライス王子だけはふむふむと頷いている。
「たしかに水の花は可愛らしく美しい。もらったら嬉しいだろうな。キルナはたまにサプライズのプレゼントをくれることがあるから、そういうことがあったとしても不思議ではない。この時計も、誕生日でもない日に誕生日プレゼントとして用意してくれたものだ」
「その懐中時計、いいですね。海が好きなキル兄様らしいプレゼントだ」
キル兄様は公爵家にいる間、暇さえあればいつも砂時計を眺めていた。あの砂時計の中の砂は王子と行った海で拾ってきたのだと聞いている。
『とっても綺麗だったの。七色の海、ユジンにも見せてあげたい』
フェルライト領の港街には遊びに行くことがあるから正直海なんて見慣れていたけど、僕は首が壊れそうなくらいこくこく頷いたのだった。兄様となら何度でも見たいと思って。
キル兄様の作った懐中時計は心底羨ましい。でも、僕にはこれがある、と兄様にもらったものを思い出してニマニマしていると、鋭い王子に「お前、他にもキルナに何かもらったのか」と聞かれてしまう。教えたくはないけれど、言い逃れはできそうにない。
「実は以前、こんなものも頂きました」
そう言って僕がカバンから取り出したものにみんなの目が釘付けになる。
「それってただの数術の教科書じゃないんですかぁ? すっごいボロボロだし、誰かの使い古し?」
ノエル様もリオン様も首を傾げているが、クライス王子だけははっとした表情を浮かべた。
「そ、それはもしや、一年生の時のキルナの教科書か!? 恥ずかしいから見るなと言われ、俺も触らせてもらえなかったのに!」
「ふふふ、王子、よくわかりましたね。そうなんです。僕の教科書を貸したら、代わりにキル兄様が自分の使っていたものをくれたんです。書き込みがたくさんしてあって見ているだけで心が和みます。たまに計算を間違えてるのが本当に可愛いらしくて」
「……そんな教科書では集中できないだろう。俺のと交換してやる」
「嫌です。僕の宝物なので」
「でも、なぜそんなものを代わりに渡したのでしょう」と呟くリオン様に、僕は仕方なく答えを教えてあげた。
「僕へのご褒美ですよ。きっと」
「「ご褒美???」」と、二人がまたしても首を捻った。兄様の教科書の価値がわかってない彼らには、これがすごいご褒美だとわからないらしい。リオン様はとくに頭が固い気がするし、理解できないのだろう。そんな二人にクライス王子が苦笑する。
「まぁ俺の経験から言わせてもらえば、キルナの行動を筋道立てて論理的に説明するのは至難の業だ。あいつはいつも予想もつかないことをするからな」
「たしかにキルナちゃんは昔から不思議なとこありますもんね~。初めて会ったお茶会でも、なんで女の子の格好だったのか未だにわかんないですし」
キル兄様が女の子の格好でお茶会!? かなり気になる話だが、今は先に考えるべきことがある。頭に浮かび上がる愛らしいドレス姿の兄様から全力で気持ちを逸らし、彼らに向き合った。
「リオン様が見た水の花を仕込む兄様は本物ですが、他はニセモノです。また兄様の悪評が流れる前に早く探して捕まえないと。悪事を働いて、兄様に責任をなすりつけるなんて許せません!」
「ああ、そうだな」
「ただ、嫌がらせは煩わしいと思っていましたが、これはチャンスかもしれません」
「チャンス?」
「僕に仕掛けてくるなら犯人に接触できるかもしれない。犯人はまだ逃げ回っている青フードと見て間違いないでしょう。これだけ探しても容姿もわからず、すぐに姿をくらませてしまうやっかいな相手ですが、今回はキル兄様の姿をしているというのだから、見つけるのは簡単です。騙されたふりをして油断させ、接触してきたところを捕まえたらいい」
「ユジンが囮になるということか。だがそれはさすがに危険だろう。相手は黒魔法すら使う危険な人間なんだぞ。騎士をつけていても対処できるかどうか」
「ふふ、クライス王子は兄様が言ってた通り心配性ですね。でも必要ありません。騎士などつけて警戒されては困ります」
騎士を配置することを断固拒否すると、渋々彼は言った。
「ならば、せめてリオンとノエルを連れておけ」
「護衛はもちろん、犯人探しもお手伝いさせてください」
「僕も、次は絶対ニセキルナちゃん捕まえます」
「ありがとうございます。あと、このことは絶対キル兄様には内緒にしてください。知ってしまったら兄様のことだから……」
「お前を助けるために自分で犯人を捕まえようとするだろうな。たしかにそれは危険でしかない。わかった。このことはキルナには秘密にしておく。くれぐれも無茶はするな」
「はい」
頷いたものの、兄様のためなら無茶でもなんでもすると決めている。
大切なものが目の前で消える。
そんな喪失感を味わうのは一度で十分だ。
ーー今度は絶対に守る。
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