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第8章
第387話 いじめっ子 ラーニー=チゼSIDE②
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「嘘でしょう? 退学なんて。お願いです。父様から理事長に退学を取りやめるよう頼んでください」
こんなことで一生が台無しになってはたまらない、と俺は必死で頼み込む。父は、はぁ、と大きなため息をついた。
「無理に決まっている。これは王家の影まで入って調査されたことだ。異議を唱える余地すらない。ましてや相手が悪すぎる……。
キルナ様と言えばフェルライト公爵家のご嫡男で第一王子の婚約者、つまり将来王妃になると決まっている尊いお方。そんなお方に対して信じられない不敬を働いたのだから。公式な場であれば即刻投獄されても文句は言えない」
「へ? 投獄……?」
語尾が震えた。そんな大罪だったなんて思ってもみなかったのだ。
「一体お前は何を考えてこのようなことをしたのだ?」
「……ただ、面白そうだと思ったんです」
俺の答えを聞いて、母が「ああ、育て方を間違えた!なんて愚かな息子なの!?」と泣き喚いている。
何か考えがあってやったことではない。周りがやっていた。自分より身分の高い人間を揶揄うスリルを味わいたかっただけだ。人を嘲ると自分が上に立てた気がして気分が良かった。
「黒髪に闇属性なんて気持ち悪いよな。あんなのが王妃なんてありえないよな」と囃し立てることがブームみたいになってたからちょっと悪ノリしただけで、まさかこんなことになるなんて。
「あ、謝ります。彼に謝りに行きます。許してもらえるまで謝って……」
父は首を振った。
「もう遅い。この王家からの手紙が届くまでに、自分で自分の罪に気づいてそれが出来ていたら、あるいは間に合ったかもしれない。しかし、もう決定が下された後だ。本人に謝る機会すらもうお前には許されていない」
「なんで!! 学園にいるうちに言ってくれれば……」
バシィッとまた顔を力一杯殴られ、床に尻餅をつく。衝撃に目を回していると、何か鼻から液体が垂れている感触が。鼻血? 大変だ。ばあやを呼ばなきゃ。
大声で呼んでみるが返事がない。父はそんな俺に構わず話を続ける。
「言ってくれれば謝ったのに!? そんな甘ったれた謝罪が受け入れられると!? それをされるのが迷惑だからさっさと退学に処され学園を追い出されたのだ。というよりも、退学がどうのこうのと言っている場合ではない。
このいじめに関わった家は、中央の役職から外されることが宣言された。王都への立ち入りも禁止されたから、今日中に領地に戻らねばならん。しかもその領地も大幅に減らされ、身分は伯爵から男爵に下がる」
「男爵!? そんな、一気に下級貴族になるんですか!?」
「それも一代限りと決まっているから継がせることはできない」
継がせることはできない? 長男の俺に男爵の位すら継がせられないと?
「え? それはつまり……俺は、平民に…なるってこと……?」
「そういうことだ」
すると母が言った。
「お前は自業自得だからいいでしょう。でもエリーゼは……。小さい頃から好いていた相手と来月結婚が決まっていたのに」
「……どうなったんですか?」
「もちろん破談になりました。王家に目をつけられている家と懇意にしておくのは危険ですからね。どの家だって手を切りたがるでしょう。可哀想に、あの子は閉じこもって何日も部屋から出てこない。全部全部、あなたのせいですからね!」
「そんな……っ…」
姉にまで迷惑をかけるなんて。そんなつもりはなかったのに。すみません、そうなるとは思ってなかったんです。と何度も謝ったがみな冷ややかな目で俺を見ている。
「何も考えなかった結果だな。お前はもっと頭を使うべきだった。人の話を鵜呑みにし、いじめという卑怯な手段で傷付けた。これはその報いだ。そもそも誰が相手であっても人を傷つけていいはずがない」
たしかに傷つくと痛い。まだ血を流している鼻も痛いし、平手打ちされた頬も痛いし、胸も痛い。
「荷物をまとめなさい、もうすぐ出立です」
「あ……痛っ、なんだ?」
大きな箱に躓いた。見回せば、同じような木の箱がいくつも乱雑に置かれている。いつも美しく飾り立てられていた屋敷が、引っ越し間近なせいかごちゃついている。
そして、たくさんいた使用人も見当たらなかった。数人の使用人が忙しなく荷物を運んでいるだけ。父は文官として働いていたが、王宮で働けないということはその仕事はなくなるということ。領地は減らされたというから財源も減る。おそらく大量の使用人はもう雇えないから解雇されたんだ。
「アリー、どこ?」
昔から甘えさせてくれた仲の良いばあやの名前をもう一度呼んでみる。彼女はまだいるだろうと期待を込めて。でも返ってきたのは、「もうとっくに暇を出しました。さっさとしなさい」という冷たい母の声。
その蔑むような目からは、俺への愛情が消えているように見えた。奥からは姉エリーゼの啜り泣く声が聞こえる。
埃だらけの部屋の中、何もかも失っている自分に気づく。
「そんな…あ…ああ…うわああああああああああ!!!!」
俺はようやく自分が何をしでかしたのか、ことの重大さを知ったのだった。
こんなことで一生が台無しになってはたまらない、と俺は必死で頼み込む。父は、はぁ、と大きなため息をついた。
「無理に決まっている。これは王家の影まで入って調査されたことだ。異議を唱える余地すらない。ましてや相手が悪すぎる……。
キルナ様と言えばフェルライト公爵家のご嫡男で第一王子の婚約者、つまり将来王妃になると決まっている尊いお方。そんなお方に対して信じられない不敬を働いたのだから。公式な場であれば即刻投獄されても文句は言えない」
「へ? 投獄……?」
語尾が震えた。そんな大罪だったなんて思ってもみなかったのだ。
「一体お前は何を考えてこのようなことをしたのだ?」
「……ただ、面白そうだと思ったんです」
俺の答えを聞いて、母が「ああ、育て方を間違えた!なんて愚かな息子なの!?」と泣き喚いている。
何か考えがあってやったことではない。周りがやっていた。自分より身分の高い人間を揶揄うスリルを味わいたかっただけだ。人を嘲ると自分が上に立てた気がして気分が良かった。
「黒髪に闇属性なんて気持ち悪いよな。あんなのが王妃なんてありえないよな」と囃し立てることがブームみたいになってたからちょっと悪ノリしただけで、まさかこんなことになるなんて。
「あ、謝ります。彼に謝りに行きます。許してもらえるまで謝って……」
父は首を振った。
「もう遅い。この王家からの手紙が届くまでに、自分で自分の罪に気づいてそれが出来ていたら、あるいは間に合ったかもしれない。しかし、もう決定が下された後だ。本人に謝る機会すらもうお前には許されていない」
「なんで!! 学園にいるうちに言ってくれれば……」
バシィッとまた顔を力一杯殴られ、床に尻餅をつく。衝撃に目を回していると、何か鼻から液体が垂れている感触が。鼻血? 大変だ。ばあやを呼ばなきゃ。
大声で呼んでみるが返事がない。父はそんな俺に構わず話を続ける。
「言ってくれれば謝ったのに!? そんな甘ったれた謝罪が受け入れられると!? それをされるのが迷惑だからさっさと退学に処され学園を追い出されたのだ。というよりも、退学がどうのこうのと言っている場合ではない。
このいじめに関わった家は、中央の役職から外されることが宣言された。王都への立ち入りも禁止されたから、今日中に領地に戻らねばならん。しかもその領地も大幅に減らされ、身分は伯爵から男爵に下がる」
「男爵!? そんな、一気に下級貴族になるんですか!?」
「それも一代限りと決まっているから継がせることはできない」
継がせることはできない? 長男の俺に男爵の位すら継がせられないと?
「え? それはつまり……俺は、平民に…なるってこと……?」
「そういうことだ」
すると母が言った。
「お前は自業自得だからいいでしょう。でもエリーゼは……。小さい頃から好いていた相手と来月結婚が決まっていたのに」
「……どうなったんですか?」
「もちろん破談になりました。王家に目をつけられている家と懇意にしておくのは危険ですからね。どの家だって手を切りたがるでしょう。可哀想に、あの子は閉じこもって何日も部屋から出てこない。全部全部、あなたのせいですからね!」
「そんな……っ…」
姉にまで迷惑をかけるなんて。そんなつもりはなかったのに。すみません、そうなるとは思ってなかったんです。と何度も謝ったがみな冷ややかな目で俺を見ている。
「何も考えなかった結果だな。お前はもっと頭を使うべきだった。人の話を鵜呑みにし、いじめという卑怯な手段で傷付けた。これはその報いだ。そもそも誰が相手であっても人を傷つけていいはずがない」
たしかに傷つくと痛い。まだ血を流している鼻も痛いし、平手打ちされた頬も痛いし、胸も痛い。
「荷物をまとめなさい、もうすぐ出立です」
「あ……痛っ、なんだ?」
大きな箱に躓いた。見回せば、同じような木の箱がいくつも乱雑に置かれている。いつも美しく飾り立てられていた屋敷が、引っ越し間近なせいかごちゃついている。
そして、たくさんいた使用人も見当たらなかった。数人の使用人が忙しなく荷物を運んでいるだけ。父は文官として働いていたが、王宮で働けないということはその仕事はなくなるということ。領地は減らされたというから財源も減る。おそらく大量の使用人はもう雇えないから解雇されたんだ。
「アリー、どこ?」
昔から甘えさせてくれた仲の良いばあやの名前をもう一度呼んでみる。彼女はまだいるだろうと期待を込めて。でも返ってきたのは、「もうとっくに暇を出しました。さっさとしなさい」という冷たい母の声。
その蔑むような目からは、俺への愛情が消えているように見えた。奥からは姉エリーゼの啜り泣く声が聞こえる。
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「そんな…あ…ああ…うわああああああああああ!!!!」
俺はようやく自分が何をしでかしたのか、ことの重大さを知ったのだった。
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